モンゴルを旅するときに玄関口となるのが、日本からの直行便も就航中の首都ウランバートル。世界一寒い首都といわれていたり、社会主義の香りも残っていたり、高層ビルの周縁にはゲル地区があったり……未知のベールに包まれたウランバートルだけど、実は古着に書店、音楽が楽しめるスポットも続々誕生。日本モンゴル映画祭の主宰者の一人で、日々、モンゴルユースカルチャーを発信中の大西夏奈子さんに街案内してもらった!
Text:Kanako Onishi
モンゴルの首都ウランバートルは、ユーラシア大陸の草原にぽつんと浮かぶ、標高1350mの都市。トーラ川沿いに位置し、周りを山に囲まれた盆地で、中心部には高層ビルが立ち並び、郊外にはゲル地区が広がります。街を歩けば、社会主義時代に建てられた重厚な建築物と、壁に描かれたグラフィティアートが混在し、自由な雰囲気が漂います。道行く人の服装も老若男女問わず色鮮やかで、日差しが強いためサングラスの着用率高し(旅支度に入れておこう)。ビルとゲル、ラマ僧とDJが青空の下で共存する、エネルギッシュで刺激的な街へようこそ!
空から見たウランバートル
ウランバートルでしたい10のこと!
ウランバートルのメインストリート、平和通り沿いにある石畳のスフバートル広場は、モンゴル人の生活に欠かせないスポット。広場の中央には、1921年の人民革命の指導者だったスフバートルの像が空に向けて右手をあげ、隣接する国会議事堂の前には巨大なチンギス・ハーン像が鎮座しています。
広場に敷かれた人工芝では、若者がギターを弾いたり、寝転がっておしゃべりしたり、突然モンゴル相撲を始めたり……。お祭りやイベント、卒業式、結婚式、政府への抗議デモなど、日々さまざまな催しが開催され、多くの人が行き交うウランバートルの心臓部ともいえる場所。民族衣装のデールを着て胸に勲章をいくつもつけた年配の方や、チベット仏教のラマ僧、アイスクリームを食べ歩きする家族連れなど、さまざまな人びとの日常の一コマを垣間見ることができます。
モンゴルがソ連の衛星国だった時代に建てられた建築物が、ウランバートルのあちこちにいまも点在しています。どっしり無骨で巨大なフォルムと、パステルカラーの色使いが独特な雰囲気を醸し出し、この街が社会主義時代だった頃の歴史を無言で物語ります。
たとえば、スフバートル広場の東側にある派手なピンク色の国立オペラ劇場。ドラマ『VIVANT』で、架空の「バルカ国際銀行」として登場したこの建物は、実は日本と深い縁があります。戦後、モンゴルへ連行され強制労働に従事した日本人抑留者の若者たちが、この劇場の建設に関わっていたのです。
平和通り沿いにある旧国営のノミンデパートや、広場の北東にあるモンゴル国立大学、第二次世界大戦の戦勝と戦士たちの追悼を記念したモニュメントであるザイサン・トルゴイも、社会主義時代に建てられた建物。時代が変わっても、人びとの生活を支え、街のシンボル的な存在となっています。
モンゴル料理は肉が主役!味つけは塩味がメインで、スパイス類はほとんど使用されません。ゲルのようなまるい形をした蒸し餃子「ボーズ」、羊肉や牛肉の具を詰めて油で揚げた「ホーショール」、肉を豪快にゆでた「チャンサン・マハ」など、ボリューム満点のメニューばかり。塩味のミルクティー「スーテーツァイ」と一緒に食べれば、身体にエネルギーが満ちあふれてきます。
地元の人にとっておなじみの〈Zochin mongol zoog-4(ゾチンモンゴルゾーク4)〉や〈Khaan Buuz(ハーンボーズ)〉、〈Modern Nomads(モダンノマズ)〉では、リーズナブルなモンゴル料理を味わえます。値段はちょっと高くなるものの、おしゃれな店で食べたい人は、Shangri la Centre(シャングリラ・モール)にある〈MONGOLIAN’S RESTAURANT〉へ行ってみて。
活発でおしゃれ好きなモンゴル人にとって、ファッションは重要な自己表現手段。そんなモンゴル人の若者たちの間でブームになっているのが、古着なんです。人気のショップは〈TOIROG thrift shop〉や〈988_thrift_shop〉など。日本で暮らしていたこともあるクリエイティブ・ディレクターの若手店主ツェルメンさんが営む〈TAKO Vintage shop〉では、レトロな世界観の店内に日本で仕入れた古着が並びます。
ウランバートルのカフェでは読書する若者の姿をよく見かけます。キリル文字で書かれたモンゴルの本が気になったら、書店を覗いてみよう。ジャンルを問わず品揃えが豊富なのは、大型書店の〈Internom(インターノム)〉や〈Azkhur(アズホール)〉。店内ではカテゴリーごとの売れ筋ランキングがいつも発表され、村上春樹など日本人作家の翻訳本も人気! スフバートル広場からほど近い〈Anjuna BOOK & ART CAFE(アンジュナ)〉に入ると、壁一面に本やグリーンが並び、喧騒からちょっと離れた都会のオアシスのようです。
毎年5月半ばと9月半ばには、スフバートル広場で「ウランバートル・ブックフェア」が開催され、出版社や作家のブースでさまざまな本に出会えます。1000トゥグルグ(約40円)均一の古本コーナーでは、希少な本をお手頃価格で買えるチャンス!
モンゴルの本は手書き風の題字やイラストを用いた装丁が多く、温かみのあるデザインを見ると、ついジャケ買いしたくなります。
7月11日に開催される国民的祭典「ナーダム」では、モンゴル中から集まってきた512人のブフ(力士)による相撲大会が相撲宮殿で行われ、国中が盛り上がります。日本の大相撲と違うのは、決められた土俵がなく、手以外の身体の一部が地面に触れたら負けであること。ナーダム時期の前なら相撲宮殿を訪れてみて。運がよければブフたちの練習風景を見られるかも。
年々、人口過密の一途をたどるウランバートル。中心部は高所得者層が暮らし、そのまわりの「ゲル地区」と呼ばれる郊外にそれ以外の人びとが主に暮らしています。ゲル地区が気になっていても、なかなか目指すスポットがないと足を延ばしにくいのもたしか。そんなゲル地区にある「ノゴーンノール児童公園(Lake At The Hills)」に、2025年夏、ガラス張りのカフェがオープンするという話が!カフェの真下にある切り立った岩場は、かつて捕虜になっていた日本人抑留者が石を切り出していた場所。同じ敷地内に造られた「さくら博物館」のゲルには、日本人抑留者に関する貴重な資料が展示され、日本でもモンゴルでもあまり知られていない歴史的な資料を目にすることができます。
ノゴーンノール児童公園までは、ウランバートル市内中心部から車で約20分(交通渋滞がなければ)。公園の入口へ伸びる道の壁には、コロナ禍最中に外国人アーティストが描いたアートも見られます。なお、ゲル地区は街灯がないところもあって夜は暗く、日中でも場所によっては治安が悪いので、できれば現地の人と一緒に行くことをおすすめします。
→ノゴーンノールに関する記事(在モンゴル日本国大使館HP)を読む
モンゴル国内最大の青空市場ナラントール(Narantuul Market)では、「ここで買えないものはない」と言われるほど、生活に必要なあらゆるモノが売られています。ゲルのパーツ、馬の鞍、民族衣装のデール……。社交場での重要アイテムとなる嗅ぎタバコの小瓶を、ひとつ買ってみるのはいかがでしょうか? 敷地がとても広いので、買いたいモノがあるなら、市場のどのあたりに売っているのかを事前に確認しておくとスムーズです。なお、外国人はスリに狙われやすいので要注意!
ナラントール市場の向かいにあるドゥンジンガラブ市場(Dunjingarav Market)は屋内にあるため、-30℃の真冬でも凍えることなく買い物ができます。
現代の日用品から、民族衣装のデール、嗅ぎたばこの小瓶といった伝統的な暮らしのものまで揃う。
夜のウランバートルで静かに熱を帯びる地下空間が〈FAT CAT JAZZ CLUB〉。ウランバートルのアダルトグッズ・ショップを舞台としたモンゴル映画『セールス・ガールの考現学』にも登場したシンガーソングライターのマグノリアンが友人とオープンしたお店。ムードのある赤い内装が印象的なバーで、日替わりでミュージシャンが舞台に立つ。生演奏を堪能しながらカクテルを楽しめるナイトスポットです。
ウランバートルの地下にあるジャズバー〈FAT CAT JAZZ CLUB〉。
また、ウランバートル郊外のナライハ地区で7月上旬に4日間開催されるモンゴル最大の音楽フェス「Playtime Music Festival」では、大草原でビール片手に全身で音楽を浴びることができます。モンゴル人のカルチャー感度はとても高く、日本のポストロックやシティポップを愛する若者も少なくないですし、過去には日本のMONO、ミツメ、toeといった音楽家たちも参戦しているアジアの注目フェスです。
開放感たっぷりの場所で開かれるPlaytime Music Festival。
ウランバートルの夜は、平和通りの南側に並行するソウル通り沿いの「フーフディーン100(Huuhdiin zuu)」と呼ばれるエリアが熱い。夏の涼しい夜風に吹かれながら、ネオンに彩られたバーのテラスで飲む生ビールは最高!モンゴルで売られているビールの銘柄は「アルタンゴビ」「シングール」「ニースレル」など数多くあり、日本よりも価格は安めなので飲み比べてみるのも楽しいし、ストリートフードでお腹を満たすこともできます。
現地の若者に人気のクラブといえば、〈ZU〉や〈choko〉、ザイサン丘から近い〈Eon〉。モンゴルではカラオケも人気で、歌が上手な人が多いです。モンゴル人のラテン的な情熱がスパークする、混沌のナイトライフをぜひ味わってみてください!
ソウル通り沿いにある「フーフディーン100」。
大西夏奈子(おおにし・かなこ)
東京外国語大学モンゴル語学科卒業。ライター・編集者。株式会社NOMADZ代表。日本モンゴル映画祭の開催に関わるほか、現代のモンゴルカルチャーを届けるような、音楽ライブや写真展などのイベントを行っている。
東京外国語大学モンゴル語学科卒業。ライター・編集者。株式会社NOMADZ代表。日本モンゴル映画祭の開催に関わるほか、現代のモンゴルカルチャーを届けるような、音楽ライブや写真展などのイベントを行っている。
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