#本とひととき世界旅行
ポルトガル編
Photo by 岡田カーヤ

本とひととき世界旅行

#本とひととき世界旅行
ポルトガル編

People: 岡田カーヤ

TRAVEL&READ

2025.02.26

2 min read

本で世界を旅しよう。

そのエリアに造詣の深い方々を案内人とし、作品を教えていただく連載。

異国の文化や風景や人々について深く知るための旅はもちろん、知りたいと思う気持ちさえあれば、その扉は無限に開かれています。本や映画は、家にいながらにして世界を知る最高のツール。

TRANSIT40号のポルトガル特集で、中南部のアレンテージョ地方を旅してくれた編集者、ライター、ミュージシャンの岡田カーヤさんが、「ポルトガルの街といなかをさまよって、ごちゃまぜの文化に触れる」作品を選んでくださいました。

Text:Kaya Okada

『ガルヴェイアスの犬』

ジョゼ・ルイス・ペイショット著 木下眞穂訳(新潮社)

なだらかな丘陵地帯が続くアレンテージョは、穀倉地帯であるにもかかわらずポルトガルのなかでも貧しいエリアで、今も昔もつつましやかな生活をする人が多い。雨が降らない夏場は乾いた土地に容赦なく太陽の熱がふりそそぎ、この地方特有の小さな家の白壁が、青い空にまぶしいくらいに輝いている。
 
 この小説の舞台となるのが、アレンテージョにある人口1000人の小さな村、ガルヴェイアス。実在の村だ。この村にある晩、巨大な物体が落ちてくるところから物語は始まる。その物体から異臭が村へと漂いだしてからというもの歯車が狂ってしまったのか、夫の浮気相手に喧嘩を売るために自分の排泄物を集めたり、確執のあった兄へ復讐をするために弟が外へと飛び出したり、硫黄の味がするパンしか焼けなくなったりと、村の中でいろいろなことが起こり始める。それを私たちはただただ眺めている。まるで村中を徘徊する犬たちの目線で、彼らのことを過去から現在までを知り尽くしているかのように。
 
 とにかく登場人物が多い。そして、人間関係が入り組んでいて混乱する。でも、途中でこんなものかとあきらめることを覚える。だって、私たち自身が隕石であるかのように、ガルヴェイアスという村の中に放り込まれてしまったのだから。そうして彼らの人生を傍観していると、ガルシア・マルケスを読んでいるかのようなマジック・リアリズム的な呪術めいたものを感じるのだけど、実は不思議なことってそれほど起こってはいない。決して裕福ではないし、生活は楽しいことばかりでもない。暑苦しく、息苦しくも、懸命に毎日を送る人たちの生き様が、あまりにもあけっぴろげにこぼれだしていく。今の私たちにはとうてい実現できない、そのむきだしの生き方にこそ、愛おしさとうらやましさとともに超然さを感じるのかもしれない。

『南蛮料理のルーツを求めて』

片寄 眞木子著(平凡社)

リスボンへと戻り、そこから大航海時代の足跡が残るアジアの各地へ。
 
 天ぷら、南蛮漬け、パン、カステラ、金平糖をはじめ、日本にはポルトガル起源の料理がたくさんある。さらに九州には、ひかど、ぼうろ、鶏卵素麺、あるへいとうなど、郷土料理や菓子が残っている。
 
 栄養学の専門家である著者が、日本で今も息づく南蛮料理とポルトガル料理の関係を調べるために赴いたリスボンで、はたと気づく。ポルトガルから日本にやってくるまでは、その間の長い航海の途中、寄港していたさまざまな土地の食文化の影響が絶対にあるはずだと。その後、マカオ、マラッカ、ゴア、東ティモールへまで足を延ばす。ポルトガルにルーツをもつという出自を現在も大切にしながら暮らす人たちと出会い、現地の文化と混ざり合ってクレオール(混血)化した料理を教えてもらい夢中で記録する。時代と地域を超えて、ポルトガルから日本へと続く軌跡を追った他に類書がない本書は、熟成しきってはいないけど好奇心の初期衝動で満ちている。
 
 人の行き来や、そこから生まれる憧れがあったことで、食だけでなく、言葉も、音楽も、文学も、混ざり合って新しいものが生まれてきた。文化は混ざってこそおもしろい。大航海時代のアジアだけでなく、植民地だったブラジルやアフリカでも、移民として多くの人が移り住んだハワイやヨーロッパ各地でもそれは起こっていたし、今も旧植民地の国々から人々が働きに来ているリスボンなどポルトガル都市部でだって、混沌としながらもおもしろいものが生まれている。だからこそ私は、ポルトガルに惹かれたのだろうなと最近よく思う。

Profile

編集者・ライター

岡田カーヤ(おかだかーや)

フリーランスの編集者、ライター。バンドDouble Famousではサックスやフルート、アコーディオンなどを担当し、日本各地のステージに立っている。「ポルトガルのソパ(スープ)とパン」という料理ユニット組んでイベントなどにも参加。近年はランナーとしてランニングイベントなどにも積極的にエントリーしている。2005年からポルトガル・リスボン大学に留学していた。

フリーランスの編集者、ライター。バンドDouble Famousではサックスやフルート、アコーディオンなどを担当し、日本各地のステージに立っている。「ポルトガルのソパ(スープ)とパン」という料理ユニット組んでイベントなどにも参加。近年はランナーとしてランニングイベントなどにも積極的にエントリーしている。2005年からポルトガル・リスボン大学に留学していた。

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Yayoi Arimoto

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