シチリア島西部にあるトラーパニは地中海とティレニア海が交差する小さな港町。古代より塩の生産が盛んで、真っ白に広がる塩田の名所。暖かい海と歴史的な建造物も観光客を魅了する。クスクスがメニューにあるなど、異文化の影響も感じられるユニークな土地。
私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。 海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情を注ぎ作っている。
連載第9回は、太陽眩しいイタリア・シチリア島のトラバーニから、高品質なオリーブオイルをご紹介。
Ilustration:Hitoshi Kuroki Text:Alice Kazama
シチリア島西部にあるトラーパニは地中海とティレニア海が交差する小さな港町。古代より塩の生産が盛んで、真っ白に広がる塩田の名所。暖かい海と歴史的な建造物も観光客を魅了する。クスクスがメニューにあるなど、異文化の影響も感じられるユニークな土地。
朝5時。すでに強いオレンジ色の日差しが、トラーパニのオリーブ畑に降りそそぐ。「ボンジョールノ!今日もいい一日だ!」。畑主でオリーブオイル生産者のサナコーレおじさんがいつもの陽気な調子で仕事場にやってきた。5時半から作業を開始し、7時には畑でイタリア朝食の定番、カフェとコルネットを食べ、終わったらまた作業に戻る。農園には1万5000本ものオリーブが植えられているのだが、一本一本状態を確認しながら見て回る、シンプルながら大変な仕事。それでも「何年経っても、いくつになっても、この仕事が楽しくて仕方ないんだ」と言う。
そんな彼の作るエキストラバージンオリーブオイルは、イタリア国内の権威あるオリーブオイルコンクールで受賞するほどの品質を誇る。青リンゴや青いトマトのようなフレッシュな香りがし、ほどよい苦味のあとに若干の辛味。驚くほどサラサラとしているのが特徴。ベタつかないのに贅沢な余韻を感じさせ、素人でも質のよさがわかる。
サナコーレ家は少なくとも1880年代から野菜などの農園を経営している。祖父母の代からオリーブとワイン用ぶどう畑を始め、収穫時期には家族みんなで手摘みをしていた。幼きサナコーレさんは収穫の手伝いをするうちに木登りが得意になり“おサルさん” とあだ名を付けられたとか。楽しい思い出として心に残っている。
家業を手伝っていた経験と大学で専攻した農業科学の知識を活かし、30代半ばで自身のオリーブ畑をスタート。トラーパニは海からの穏やかな風を受ける日当たりのいい平地で、その土地にあった土着品種が一番栽培に適していると考え、チェラソーラ、ビアンコリッラ、ノッチェッラーラの3種を育てることに。木が3000本近くに達したとき、この3種を独自の比率でブレンドしたオリーブオイル「オッギュ(シチリアの方言で『オイル』)」を作り始めたのだが、それが国内外から高評価を受ける。そうしてオッギュブランドが世界中に広がった今でも、畑、レストラン、アグリツーリズムがひとつになったアットホームな農園を家族で運営。現在のサナコーレ家にも、家族で協力し合う精神が脈々と受け継がれている。
太陽をいっぱいに浴びたおいしい食材に恵まれているシチリアでは、そのままの味を活かす食文化が根づいている。旬の野菜、新鮮な魚、ミネラル豊富な塩、質の高いオリーブオイルがあれば十分。シチリアの人びとは、食の本質的な悦びを知っているようだ。
とくにオリーブオイルは彼らの生活に欠かせない。料理に使うのはもちろんのこと、食べることが大好きなイタリア人にとっては、胃の保護や消化吸収をよくするためにスプーン1杯飲む健康法も一般的。海に行く前に皮膚に塗ることだってある。そんな万能なオリーブオイルのことを「緑色をしたゴールド」だとサナコーレおじさんは形容した。この農園と家族を支え、シチリア人の生活を支え、世界中の食卓を支える存在。シチリアの誇りを自分の手で生産できる幸せ。彼がこの仕事を、早朝から元気いっぱい、楽しくこなしている理由がわかったような気がした。
1950年、オリーブとぶどうを栽培する農家に誕生。一度教師になるも、30代でオリーブ農家の道へ。オリーブオイルを作りながらアグリツーリズム施設を息子らとともに運営。大の日本好き。
素材を味わうシンプルなトマトペースト
トラーパニ定番のペースト「ペスト・トラパネーゼ」。300gのフレッシュトマト、ニンニク1片、バジルの葉5枚、塩ひとつまみにオッギュ エキストラバージンオリーブオイルを加え、潰しながらペースト状にする。ローストした30gのアーモンドを砕いて混ぜれば完成。茹でたパスタに和えるもよし、ブルスケッタ風にバゲットにのせるもよし、オリーブオイルの味と香りがダイレクトに感じられるシチリアらしい郷土料理。レモン風味のオリーブオイルはサラダや刺身に。
オッギュ エキストラバージンオリーブオイル レモン(左)
オッギュ エキストラバージンオリーブオイル(右)
在来品種のオリーブで3種をブレンド。フルーティな香りとふくよかな余韻があり、口当たりサラサラ。酸度は0.2%と限りなく低い。レモンは実を丸ごと使用した爽やかな香りが特徴。
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