〈KAPITAL〉とめぐる、
 児島・倉敷・岡山ガイド

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月刊TRANSIT/瀬戸内一周!

〈KAPITAL〉とめぐる、
児島・倉敷・岡山ガイド

People: KAPITAL

TRAVEL&EAT

2025.04.18

12 min read

瀬戸大橋でつながる四国への玄関口であり、瀬戸内海に臨む岡山・児島半島。
歴史的な街並みあり、工業地帯あり、風光明媚な自然あり。この地に拠点を置く〈KAPITAL〉とともに、豊かな文化や景色が広がる、児島・倉敷・岡山をめぐる。

Photo : Shintaro Miyawaki

Text:Sayoka Hayashi(TRANSIT)

〈KAPITAL〉とめぐる、児島・倉敷・岡山。

岡山駅からJR瀬戸大橋線に乗って、上の町駅を過ぎ児島駅に滑り込む直前、海が見えた。ホームに降りると、心なしか潮の匂いがする。
 
“むかし児島は、島だった!”
改札口を出ると、案内板の文字が飛び込んできた。『古事記』の国生み神話によると、吉備の児島は日本で9番目に誕生した島だったという。現在の児島半島は本州とつながっているけれど、鳥瞰地図には瀬戸内海に浮かぶ島として描かれている。児島にはいったいどんな景色が広がっているのだろうーー。
 
この地を訪ねたのは、数年間にわたり日本の職人さんを訪ねる企画をTRANSIT本誌でコラボレーションしている、デニムメーカー〈KAPITAL〉の本拠地があるからだ。
 
目的の〈KAPITAL瀬戸内児島赭店〉を目指して児島駅から15分ほど歩くと、異国情緒漂う赤茶色の建物が迎えてくれた。

国産デニムの発祥地とされる倉敷・児島で、1980年代に創業したKAPITAL。古着やヴィンテージのエッセンスを取り入れながら現代のライフスタイルにも合わせた革新的なデザインが評判で、国内外から絶大な人気を誇る。

扉を開けると、開放感のある吹き抜けの店内には、中央の巨大な植物のオブジェを中心に、独創性とウィットに富んだKAPITALのデニム製品やファッション小物が陳列された、圧倒的な世界観が広がっている。
 
実はこの建物、旧児島公民館を再利用したもの。もともとの壁のカラーを採用していて、赤色の意味をもつ「赭(そほ)」と名付けられたのだそう。ニューメキシコの日干しレンガで造られたような建物とも相まって、異国を訪れたように胸が高鳴る。
 
入り口から向かって左隣の部屋に進むと、カードや本のページを利用して作られたランプシェードが印象的な〈SOHO BOOKS〉がある。こちらは、東京・茅場町にある〈森岡書店〉店主、森岡督行さんによる選書のアートブックや写真集、KAPITALがセレクトした古本やオリジナルブックが、心地よいリズムで並んでいる。
 
“本もラジオもジーンズもなくならないよ!”とのメッセージを発信するKAPITALらしい展開だ。

圧巻は、建物内に併設の〈THE ELEPHANT BRAND BANDANNA MUSEUM〉。1910年代から80年代にわたりアメリカ東海岸で生産されてきた〈エレファントブランド〉のバンダナをはじめ、アメリカの企業が広告用に作っていたもの、アメリカ大統領選挙時の活動用のものまで、KAPITALデザイナーの平田和宏氏が二十数年にわたり収集した、数百点ものバンダナが展示されている。
 
私設ミュージアムながらバンダナの歴史を紐解く展示室も設けられるなど、その熱量と情報量には驚くばかり。世界に類を見ない唯一無二のミュージアムには海外からのお客さんも多いそうで、感銘を受けた各国のバンダ愛好家から寄贈された、希少なバンダナも展示されている。
 
一つとして同じパターンのないバンダナコレクションのなかから、お気に入りのバンダナを探すのも楽しい。

展示されるバンダナは、時代やブランド、種類別に、部屋やコーナーごとにわかれている。

店内では、アメリカ製の古いミシンを使い、スタッフがデニムの裾上げサービスも行う。店の奥側には、旧児島図書館を利用した本社兼工場が隣接している。

遠くへ旅をしたような、迷宮へ足を踏み入れたような、満ち足りた気持ちでお店をあとにする。
 
さて、次はどこへ行こうか。瀬戸内海や瀬戸大橋も見たいし、地元の新鮮なお魚を食べたり、古い街並みが残る倉敷美観地区にも足を延ばしたい。
 
そこで、せっかくならばと、この地をよく知るKAPITALのスタッフの皆さんに、お気に入りの飲食店や風景を教えてもらうことに。そして、皆さんのリコメンドをもとにこの地をめぐることにした。

案内人の〈KAPITAL〉スタッフの皆さん

企画部の角倉きなりさん。編み物が趣味で、スパイスカレーが好き。

企画部の笹林楓さん。街ゆく人のスケッチをすることが好き。好物は岡山名産の桃。

企画部の古川晴基さん。趣味はキャンプ。好きな食べ物は春菊。

企画部の菖蒲ちひろさん。睡眠をとることを大切にしている。好きな食べ物はうどん。

04

海、山、街を臨む、児島半島ローカル散歩。

王子が岳の巨岩・奇岩・のなかでもとくに印象的なのが、写真中央の「ニコニコ岩」。

児島の海を眺めながら地魚のお寿司がいただける〈仙太鮨〉で腹ごしらえをした後、まず向かったのは、王子が岳。「岩を登ると、360°瀬戸内海を見渡せるスポットがあり、いろんなルートを探索しながら“最終的にその岩に向かう”という自分にとってのお決まりが楽しいです」という、KAPITAL菖蒲さんおすすめの場所だ。
 
王子が岳は、倉敷市と玉野市の境に位置する標高234mの小高い山。瀬戸内海の多島美を一望できるだけでなく、一帯には特徴的な花崗岩の巨岩・奇岩がごろごろと転がっていて、ボルダリングの聖地としても知られている場所だ。
 
岩の間を巡る遊歩道を進み、海に向かって山肌から顔を出す岩に登ると、うっすらともやがかかった春霞の瀬戸内海が広がっていた(登らなくても絶景を眺めることができるのでご安心を)。大槌島や直島、対岸の高松市内や讃岐富士、金毘羅山、もちろん瀬戸大橋も見える。視界がよければ、遠くは四国山脈まで見えるそうだ。
 
瀬戸内海を行き交う船や、西へ傾いていく太陽の光。刻々と変化する景色に、しばし時間を忘れて見入ってしまう。

王子が岳パークセンターにある〈belk〉でティータイム。正面に見えるのが児島半島、瀬戸大橋。

日が沈む前にと、次に訪れたのは児島半島の南端、瀬戸大橋のたもとにある下津井。昔ながらの町並みが残る港町だという。KAPITALスタッフの皆さんがお薦めしてくれる地元の料理に、「下津井のタコがプリプリでおいしい」という意見が何人かから挙がっていて、ぜひ訪ねてみたいと思ったのだ。
 
かつて、瀬戸内海航路の監視を目的に下津井城が築かれ、城下町として発展していた下津井。江戸から明治にかけては北前船の寄港地としても繁栄していたという。
 
そんな歴史に触れるため、まずは回船問屋(荷主と船主の取次の役割を果たした問屋)の建物を改装した資料館、〈むかし下津井回船問屋〉へ。
 
下津井の港町としての発展や信仰・文化・暮らしにまつわる資料は、無料とは思えないほど充実していた。さらに、「この辺りは昔は海に浮かぶ島でねぇ」から始まる、スタッフの方の丁寧な案内で、下津井が辿ってきた歴史の一端が見えてくる。

〈むかし下津井回船問屋〉では、下津井にまつわる資料の展示のほか、地元特産物の販売を行っている。

展示室に、タコが天日干しされている10数年前の写真が飾られていた。今もタコ漁をしているのかとスタッフの男性に尋ねると、この4〜5年ほどは気候変動の影響か、まったく獲れなくなってしまったという。漁業に従事する人の数も減少の一途を辿っている。曇った表情のこちらを察してか、男性は笑みを浮かべて「これからの季節はマナガツオがおいしいよ」と声をかけてくれた。
 
マジックアワーの時間帯、下津井の集落を歩いてみる。瀬戸大橋のたもとにある港は静寂に包まれ、橋を渡る電車の音がただ響いている。現代と過去が交錯する人気(ひとけ)のない通りは、タイムスリップしたような心地にさせる。
 
銭湯の前を通りかかると、ちょうど地元のおばちゃんたちが数人出てきた。興味津々で見つめていたこちらに向かって、「いい湯だよ。入って行ったらどう?」とにこやかだ。風情ある建物の趣と暖簾に後ろ髪を引かれながら下津井をあとにした。
 

宵闇が本格的に迫る頃、最後に向かったのは鷲羽山の展望台。「鷲羽山から見える水島の工場夜景はまるで要塞のようで、わくわくする」とはKAPITALの山本謙次さんの言葉。
 
鷲羽山公園線(旧鷲羽山スカイライン)の途中にある展望台に車を停める。すでに先約が何名かいて、三脚とカメラを構えている。ここは、水島港湾岸沿いに立ち並ぶ水島コンビナートが一望できる夜景スポットなのだ。

水島コンビナートでは、石油精製、鉄鋼生産、自動車生産などの重化学を中心にさまざまな分野のものづくりが行われている。

水島コンビナートは広大な土地に200以上もの事業所が立ち並ぶ、全国有数の工業地帯。眼下には、夜通し稼働する工場から発せられる無数の光が浮かび上がっている。まるで宇宙に煌めく銀河のようだ。
 

そういえば、廃業した漁師たちは水島工場に働き口を求めるのだと下津井で聞いた。その際には、もの寂しい思いがしたものだけれど、ここへやってきて思うのは、生きるエネルギーを感じるということ。
 
王子が岳から望む瀬戸内海も、鷲羽山から見下ろす水島工場も同じように、時間を忘れてしまうほど眺めていられる。

児島のスポット

⚫︎KAPITAL瀬戸内児島赭店
11:00 – 19:00
岡山県倉敷市児島小川町3672-10
☎︎086-486-2339
 
⚫︎仙太鮨
「児島の海沿いに店を構えるお寿司屋さん。カウンターに座ると目の前に瀬戸内海の絶景を眺めながら、お寿司を堪能できる。少し贅沢なランチに最適。京都の実家から両親が来た際に連れて行くととても喜んでくれました」(角倉さん)
 
⚫︎春野(はるの)
「地元・瀬戸内でとれた新鮮な魚料理が絶品です。お刺身は日替わりでおすすめが変わるので、その日のとれたてを味わえます。タコの天ぷらは児島・下津井産で食感がたまりません。サイドメニューのポテサラも必ず注文します」(古川さん)
 

⚫︎創菜中村
「昼も夜も楽しめて、店内の雰囲気も落ち着けます。ランチは『和牛ハンバーグ』、夜は地元でとれた魚料理、お刺身等。お酒も豊富です。個室もあって、おもてなしに最適なお店。店主の人柄も◎」(山本さん)
 

⚫︎Eko.9 (エコナイン)
「児島の隠れ家的な焼き菓子屋さん。卵やバターなどの動物性食品を使わず、オーガニック食材を使用した素朴で身体にやさしい焼き菓子が揃っています。不定休なのでお店のインスタで営業日を必ずチェックします」(菖蒲さん)
 

⚫︎WONB BROCANTE 児島本店
「古道具を扱うアンティークショップで人の手の温かみを感じるもの、ユニークな形や素材の雑貨が多いので、部屋に置いておきたいなと思うものが一つでも見つかると思います。値段がさほど高くないのもポイントです」(菖蒲さん)
 

⚫︎木琴堂
「さまざまな作家の作品を取り扱っています。地域の交流の場であり、とても素敵な空間です」(古川さん)
 

⚫︎鷲羽窯体験工房
「児島にある備前焼の窯元・鷲羽窯。備前焼の展示販売、陶芸教室&陶芸体験も楽しめる。隣接するカフェレストラン〈HUTTE ヒュッテ〉の野菜ランチもおすすめ」(古川さん)

〈仙太鮨〉では、カウンター越しに瀬戸内海を臨むロケーションで地魚を中心にしたお寿司がいただける。備前焼の器も美しく、上品なシャリは女性の一人客にもうれしい。

©TRANSIT

戦前からの旧銀行を改装した開放感ある店内に、世界各国の民芸品からセレクトされた雑貨や本などが揃う〈WOMB BROCANTE 児島本店〉。

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02

岡山駅周辺のスポット

⚫︎おだ珈琲店
「地下一階にありゆっくり過ごすことができます。『イタリアンケーキ』はイチゴが出回る期間限定で人気なので夕方に行くと売り切れで食べられないこともありましたが、何度でもリベンジしたいですし、どのメニューも魅力的です」(笹林さん)
 
⚫︎植物屋KIITOS lab
「地図で見てもお店の場所が分からない本当の隠れ家的お店です。休日に自分用にこっそり買いに行くのが好きです」(笹林さん)
 
⚫︎シネマクレール
「大きな映画館とは違って映画を独占して自分の世界を楽しめます。病院の待合室みたいに自分の番号が呼ばれて入場するスタイルも含めて好きです」(笹林さん)
 
⚫︎流しのCD屋 ※店舗ではなく、個人でCDを販売する
「岡山市表町界隈のバーやカフェで出会う”流しのCD屋”こと岡本方和(まさかず)さん。文字通り”流し”なので、夜な夜な表町かいわいの店に出没し、おすすめなCDを紹介してくれて、気に入ったらその場で購入できる営業スタイル。もともと岡山の老舗CD・レコードショップのバイヤーとうい経歴の岡本さんは常にカバンに50~60枚のCDを持ち歩いており、独特な切り口の音源を紹介してくれる。最近の”サブスクで聴く音楽”とはひと味違う新しい音源に出会えることが魅力的。過去にはキャピタル児島店のイベントでも”流し”てくれたことも」(山本さん)

こだわりの珈琲のほか、モーニングや軽食も豊富な〈おだ珈琲店〉。落ち着いた雰囲気の店内で静かに一人時間を過ごすことができる。

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岡山市中心街にあるミニシアター〈シネマ・クレール〉。音響設備やスクリーンにこだわり、アカデミー賞受賞作から地元出身の監督作品まで上映する。

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02

倉敷市街地のスポット

⚫︎林源十郎商店
「美観地区にある雑貨屋さんです。”衣、食、住”にまつわる複数のお店が入店していて、素材をいかした商品が販売されています。雑貨好きなので、こだわりあるものが揃っているので見ているだけでも楽しいです。美観地区を訪れた際は毎回立ち寄ってしまいます」(角倉さん)
 
⚫︎蟲文庫(むしぶんこ)
「倉敷市美観地区の中にひっそりと店を構える古本屋。古書、新書、絵本、マンガ…ちょっとした雑貨も扱う店で、いつも静かで落ち着く場所。寡黙そうな女性店主がいつも店番をしている。エッセイ的な本も出版しているらしい… 帰省すると必ず足を運ぶ店」
 
⚫︎大原美術館
「倉敷の美観地区に遊びに行った際には立ち寄ります。建物や細部の彫刻などの外部も見どころです」(菖蒲さん)
 
⚫︎倉敷 芸文館・懐かしマーケット
「倉敷市芸文館の広場で年4回開催される、骨董市的なイベント。民芸品や古道具以外にも、古着や、雑貨、食べ物……いい意味でジャンク。楽しめます」(角倉さん)

〈林源十郎商店〉は、倉敷の健康・福祉に尽力し、薬種業を営んでいた林家・林源十郎商店の木造三階建ての本館や母屋、離れ、蔵の四棟と庭を修復・整備した商業施設。

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〈林源十郎商店〉のリノベーションしたそれぞれの建物では、文房具、衣類、食品の販売や、カフェ、ピッツェリアも。無料のテラスからは倉敷美観地区が見渡せる。

©TRANSIT

〈蟲文庫〉のオーナーは倉敷出身の田中美穂さん。コケ好きでコケの著書もある田中さんの趣味もあって、自然科学系の本がいろいろ。岡山の本、写真集、Zineなども充実。

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〈蟲文庫〉のオーナーは倉敷出身の田中美穂さん。コケ好きでコケの著書もある田中さんの趣味もあって、自然科学系の本がいろいろ。岡山の本、写真集、Zineなども充実。

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04

物語の1ページに飛び込んで。

ここ児島は、新幹線で東から西(あるいは西から東)へ向かう人にとっても、電車や車で本州から四国へ(あるいは四国から本州へ)渡る人にとっても、通り過ぎてしまう場所かもしれない。
 
でも、この土地には確かに物語が存在した。
 
「日によって海の向こう側が見えたり見えなかったり水面が太陽を反射して輝いていたり、干潮で底が見えていたり、瀬戸内海の景色のわずかな変化を感じます。毎日通る道のその景色に癒されています」とは、岡山から児島へ電車で通勤しているという、KAPITAL笹林さんの言葉。
 
旅で触れた自然と歴史と文化と人びとの暮らしによって、その物語の輪郭が少しずつ浮かび上がってくる。かつて海の中だった倉敷や岡山が干拓され、陸続きの児島半島の一部となったのはほんの400年前のこと。『古事記』からつづくこの地域の物語はきっとまだ話の途中だ。
 
今日もどこかで新しいエピソードが生まれているだろう。一瞬だけれど自分もその物語の1ページの中に立っていたという事実が、郷愁にも似たじんわりと温かい気持ちにさせる。
 
今度はまた、ゆっくりページを開きに来よう。

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Yayoi Arimoto

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