富山の寿司をめぐる旅。
回転寿司、ます寿し、漁港、日本酒⋯⋯
「寿司といえば、富山」の秘密を探しに。

富山の寿司をめぐる旅。
回転寿司、ます寿し、漁港、日本酒⋯⋯
「寿司といえば、富山」の秘密を探しに。

TRAVEL&EAT

2026.02.12

14 min read

🍣なぜ、「寿司といえば、富山」なのかを知る旅へ!

朝7時半、富山駅を目指して東京駅から北陸新幹線に乗り込む。
この旅の目的はとっても明快。富山県が掲げる「寿司といえば、富山」の言葉が頭から離れず、富山に足が向いていた。なぜ、「寿司といえば、富山」なのか? その意味を知るべく、たっぷり富山でお寿司を食べようという旅だ。

北陸新幹線を使えば東京駅から富山駅まで最短で約2時間(近い!)。

意気込み十分に、リュックから東京駅の駅弁屋さんで買ったばかりの〈ますのすし本舗 源〉の「ますのすし」を取り出す。白木のわっぱにおさまった、サーモンピンクの円形と青々とした笹の葉のコントラストに、惚れぼれ。
 
富山といったらます寿しのイメージがある。鱒のやわらかな甘み、笹の爽やかな香り、ぎゅっと敷き詰められた酢飯。清く、正しく、美しく、その見事な調和を届けてくれる。いろんなお寿司があるけど、ます寿しでないと満たされないものがあるんだよなぁ。

東京駅から新幹線に乗るときの楽しみのひとつ、駅弁。ちょっといい駅弁が食べたいとき、いつもこれを買ってしまう。


🍣天然のいけす「富山湾」の秘密

新幹線のなかで6等分にしたます寿しのピースを頬張りながら、『富山のすしはなぜ美味しい』の本を開く。地形、漁法、調理法の多様さ、富山で食べるべきネタ……あらゆる視点から、富山の寿司の魅力が書かれている。
 
マグマ学者の巽好幸さんが執筆者のひとりとあって、寿司と地形にまつわる話もたっぷり。この本によると、お寿司がおいしい地域は数あれど、富山の強みはなんといっても「天然のいけす」とよばれる富山湾があることなのだという。標高3,000m級の立山連峰から水深1,000mにもなる富山湾に向って、ミネラル豊富な水が流れ込む地形で、さらに対馬海流(暖流)の通り道になっていることで、冷水、暖水、さまざまな魚種が集まるのだそう。

『富山のすしはなぜ美味しい』(北日本新聞社)。執筆は、マグマ学者の巽好幸さん、生活科学博士の土田美登世さん、富山生まれの料理人で郷土料理研究家の経沢信弘さんが担当。

たとえば、春はホタルイカ、夏はシロエビ、秋はベニズワイガニ、冬はブリ、ほかにもノドグロ、マグロ、スルメイカ、バイガイ……など(おいしそうなものばかり)。しかも漁場、漁港、町が近いので、水揚げ後も魚にストレスがかかりにくく新鮮な状態で食卓にまで届くのだ。到着前から富山の期待が高まる!

富山駅の改札外。路面電車の乗降口が目の前に。

2時間ちょっとで富山駅に到着。
11月の富山市は東京よりも空気が冷たく澄んで、気温は10℃ほど。何度か富山駅を訪れたことがあるけれど、毎度、駅の美しさにはっとする。富山駅は、新幹線、在来線、路面電車が乗り入れているのだけど、車輌と人の導線が整っていて近未来の都市にやってきたような気分になる。そんな富山駅で待ち合わせていたのが、この旅の頼もしい案内人・富山県庁の柴田真季さん。「寿司といえば、富山」のブランディングプロジェクトを担当していて、富山とお寿司とお酒愛にあふれる人だ。柴田さん、今日は一日よろしくお願いします!

右/富山県庁の柴田真季さん。 左/県庁の名刺は富山湾の寿司ネタをイメージしてデザインされている。タコ、サクラマス、アオリイカ……想像するのも楽しい。図案を担当したのは、富山を拠点に活動するROLEの羽田純さん


🍣富山は、回転寿司もうまい!

最初に向かったのは、回転寿司。
海が近い街の回転寿司は総じておいしいことが多いけれど、富山の回転寿司はまた格別!以前、富山を旅したときに回転寿司をはしごしたのだけれど、外れなくおいしかった(そしてお財布にやさしい)。
 
今回、訪れたのは〈氷見回転寿司 粋鮨〉の 高岡店。粋鮨は、なんと毎朝、氷見港に出向いてネタを仕入れ、その場で下処理、お店に運んで直ちに仕込みをして、お客さんに提供しているという。海、漁港、お店までがひとつなぎになっているのだからおいしいわけだ。

一皿目は「氷見朝とれ三種」。左から寒ブリ、アンカン(ウスバハギ)、アジ。どれも肉厚ですっきりとした脂みがあって、食べ応え十分。お皿は富山の工芸のもの。

二皿目は、左からシロエビの昆布の軍艦、甘エビの卵のせ、バイガイ。バイガイは地元人気が高いネタで歯応えがあるのが特徴。

回転寿司ということを忘れるほど、地元の高品質な食材を提供してくれる粋鮨さん。富山の海と職人技に感謝。

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さらに高岡店では提供されるお皿にも秘密があるんですと、県庁の柴田さん。
「氷見朝とれ三種」「粋鮨自家製三種」を注文すると、富山県内の24人の工芸職人や作家たちが制作したお皿でお寿司を出してくれるのだ。富山は工芸の街でもある。錫、漆、金箔、蒔絵、螺鈿、彫金、ガラスといった、さまざまな工芸の技が施された寿司皿を、この高岡店では目で見て、触れて、感じることができる。

高岡店の壁に飾られた富山の工芸職人・作家たちの寿司皿。どのお皿に出合えるかはお楽しみ。

Information

氷見回転寿司 粋鮨 高岡店

高岡店、富山店、小矢部アウトレット店(海鮮丼)がある。
工芸のお皿でお寿司が提供されるのは、高岡店のみ。

住所

富山県高岡市あわら町110

🍣漁港でセリと押し寿司づくり体験を

イキのいい漁港があることも、富山の寿司がおいしい理由のひとつ。
県内には、富山湾を中心に大小16カ所ほどの漁港が点在していて、なかでもとくに規模の大きい漁港が氷見と新湊(しんみなと)の港だ。どちらの漁港もいろんな魚種が売買されるけれど、氷見漁港はとくにブリ、新湊漁港はカニが名物。それぞれセリを一般見学できて、魚介類を購入できるお店や飲食店もあるので、富山で漁港をめぐる旅も推したい。

今回は、新湊港の昼セリを見ようと、車で移動。
海が目の前にあって気持ちいい。12時半頃からはじまる昼セリに合わせて、漁港の平屋にまだ手脚が動くほど新鮮な真っ赤なカニがきれいに並べられていく。漁業生産者と仲買人や料理人たちが集まってきて、セリがはじまり、次々とカニがケースごと買われている。あのカニたちはどこの食卓に並ぶんだろう。

セリを見学する場合は、漁港のHP等からルール、時間のご確認を。港への移動には「富山ぶりかにバス」が便利。冬季の間、富山駅発着で、新湊港、氷見港間を運行している。

Information

新湊漁港

住所

富山県射水市八幡町1-1100

Information

氷見漁港

住所

富山県氷見市比美町435

昼セリの見学後、新湊漁港に併設された〈みなとキッチン〉へ向かう。
ここは日替わりでレストランが出店していたり、料理教室が行なわれていたり、レンタルスペースとしても機能しているシェアキッチン。今日はここで、押し寿司をつくるレッスンに参加する。

新湊漁港の一角にある、みなとキッチン。この日の押し寿司レッスンの講師はGreen Note Labelの明石博之さん。




押し寿司なんてつくったことないけど大丈夫だろうか……と思っていたけど、カニを丸々一匹解体するところから寿司づくりまで、講師の明石博之さんが丁寧に教えてくれるので、安心。酢飯、ノリ、青シソ、カニを重ね合わせて、ぎゅっと木型に詰めて、最後に型から出して包丁でカットして、出来上がり。お、おいしい! 富山で採れたホンズワイガニを使っているので、おいしくならないわけがない◎。大人がやっても楽しいけど子供も楽しめそう。現在、この押し寿司レッスンは試運転中ということなので、SNSで動向を追いたい。
 
みなとキッチンでは定期的に魚を捌くレッスンもやっているそうで、こちらもかなり気になる。講師の明石さんも、実は本業は富山の場づくり、空間デザインにかかわる仕事。富山に移住して地元の漁師さんからよく魚の差し入れをもらううちに、魚を捌けるようになったそう。近所に港がある暮らし、うらやましい!

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Information

みなとキッチン

住所

富山県射水市八幡町1-1100

🍣レトロな漁師町・新湊内川でフレッシュな干物に出合う

つづいて訪れたのは、同じく新湊地区の内川が流れる漁師町。
新湊港よりも生活感があるエリアで、川の両岸に小さな漁船が停留されていたり、古い街並みが残っていたりして、散策しているだけでも楽しい。この町にある干物店の〈IMATO〉が“ただ”の干物ではないのだ、と県庁の柴田さん。

IMATOは漁師さんとそのお姉さんが営んでいる干物店。IMATOの冷凍庫におさまったお魚たちを見てみると、いわゆる干物とは違って水分をたっぷり含んでいて、さっきまで海で泳いでいた魚をさっと捌いて真空パックしたような姿。
 
刺し身でも食べられるほどの朝どれの鮮魚を使っているので、その旨さが伝わるよう、IMATOならではのフレッシュな干物スタイルができあがったのだという。食品添加物なしで富山の海洋深層水を使っているので塩分も控えめなのだとか。
 
店内には、ノドグロ、ゲンゲ、カレイといった富山の海の幸がずらりと並ぶ。一番人気はスルメイカの干物。水分が多いので網焼きよりもフライパンで蓋をして蒸し焼きがおすすめだそう。干物までフレッシュだなんて、富山ってすごい。

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干物の概念が覆るIMATOのお魚たち。お店には映画『港のひかり』(藤井直人監督、2025年公開)のポスターが貼ってあった。富山と石川がロケ地になっていて、IMATOが漁のシーンの撮影協力をしたのだとか。

Information

IMATO

住所

富山県射水市本町3-1-6

🍣ます寿し、かぶらずし、なれずし……多様な寿司

富山の魚介の食材のよさは、ここまで述べてきたとおり。
でも「寿司といったら、富山」といえる理由は、それだけじゃないよう。「寿司の調理法の多様さも、富山ならではなんですよ」と柴田さん。いわゆる、にぎり寿司ももちろんおいしいけれど、それ以外のお寿司も富山ではよく食べられている。
 
たとえば「ます寿し」。
もともと江戸時代に神通川で採れる鮎を「なれずし」にして富山藩や幕府に献上していた記録が残っていて、その後、酢が出回るようになって現在の酢飯を使ったます寿しに近いものになったという。明治時代には駅弁として売り出し、一気に「富山のます寿し」が全国区になった。

富山ます寿し協同組合の大郷 磨さんがます寿しの歴史を解説。江戸時代に描かれた「神通川 舟橋の図」に「鱒すし」の文字が!

現在、富山市内には10軒以上もます寿し専門店がある。
魚、厚み、お酢加減に違いがあって、地元の人はそれぞれ御用達の店があるそう。「昼ごはん、夜ごはん、おやつ、誕生日会のひと品、友人の家に招待されたときの手土産……ます寿しはいろんな場面で登場します。身近でいて、気分もアゲてくれるような存在ですね」と、柴田さん。そんな話を聴いていると、いろんなお店のます寿しを食べ比べしたくなってしまう。専門店に買いに行くのもいいし、富山駅前の物産コーナーでもいろんなます寿しが手に入るので覗いてみよう。

そして、「かぶらずし」も外せない。
薄切りした蕪でブリやサバといった魚を挟んだ郷土料理で、家庭でもつくられている。蕪、魚、刻んだニンジンやユズが、米麹の甘みと発酵からくる酸味に包みこまれた、やさしいお味。お隣の石川県でも食べられていて、北陸の冬の食卓に欠かせないひと品。保存食であり縁起物として受け継がれている。
 
ます寿しやかぶらずしのような調理法の豊かさや暮らしの知恵も、富山らしい寿司カルチャー。ぜひ味わってみてほしい。

かぶらずしは、東京・有楽町のアンテナショップ〈いきいき富山館〉でも購入できる。

🍣お寿司のお供に日本酒を 地酒「富山ノ酒と寿司」

お寿司を食べていると、無性に飲みたくなってしまうのが……日本酒!
富山は米どころでもあり、日本酒の産地でもある。とくに富山の美しい水でつくられたお酒は、すっきりとしていてクセのない味わいで、お酒自体を味わうのももちろんいいけれど、実は食中酒にもぴったり。
 
そこで富山県内の酒蔵たちが提案しているのが、食中酒として富山の地酒を飲むスタイル。とくに「富山ノ酒と寿司」シリーズでは、「この寿司ネタには、このお酒を合わせて飲んでみて!」というのをわかりやすく酒瓶のラベルに貼って商品化している。「黒部峡×ノドグロ」「若鶴×ホタルイカ」「銀盤×ベニズワイガニ」など、好きな寿司ネタからお酒を選ぶこともできて楽しい。お酒に詳しい人も、そうでなくても、日本酒を手に取るきっかけが増える。

Information

富山ノ酒と寿司

北陸酒販株式会社

🍣富山駅前で腰を据えてお寿司をいただく

最後に訪れたのが、富山駅から徒歩5分ほどのところにある〈鮨 順風満帆〉
富山駅からもう帰らなきゃいけない、でもおいしいお寿司が食べたい……!そんな願いを叶えてくれるお店だ。昼夜それぞれにコースがあって、おいしい地酒も揃う。カウンターに座って、寿司職人の方とその日に並んだネタの話を聞きながら、追加のにぎりや和食を頼むのもいい。ブリ、ノドグロ、バイガイ……数時間前まで海にいたのかなと思うようなイキのよい食材を目の前で握ってくれて、富山の海の幸をそのまま届けてくれているよう。それに前菜やお造りといった和食を通して、地のものを食べられるのもうれしい。

カウンターと半個室の席があるので、一人でも複数人でもそのときどきに合わせてお寿司と向き合うことができる。

手前が、天然ブリ、キジハタ、甘エビのお造り。右が、香箱蟹。奥は、前菜のホタルイカの沖漬け、バイガイの煮物、シロエビの昆布じめ。

すべて富山で採れたネタを提供。左の越中バイガイは、コリッとしたたしかな食感と磯の香り。右の寒ブリは、肉感とすっきりとした甘みが好バランス。

左のアカムツ(ノドグロ)は、脂の甘みをしっかり。右のクロムツは、重すぎない上品な脂み。

左のシロエビの軍艦は、舌のうえで旨みがとろける。真ん中はアジの握り、脂と酸が重なった爽やかな旨み。。右のカニの軍艦は、柔らかで繊細な身が口に入れた瞬間にほどける。

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ちなみにこちらのお店を経営する代表・広島順三さんは人材育成プロジェクトを進行中。2026年3月には「北陸すしアカデミー」を開校予定で、本格的な寿司職人を養成する学校が誕生する。良港の近くで本物の食材に触れながら学べるなんて……!

Information

鮨 順風満帆

住所

富山県富山市新富町1-3-3 ホテルルートイン富山 B1F

Information

北陸すしアカデミー

住所

富山県富山市東岩瀬町322-1

🍣寿司から生まれる 富山の生活・文化・経済圏

富山の寿司をめぐる旅もいよいよ終わり。
たくさん食べたはずなのに、富山で口にしたものは不思議なくらい身体になじみよく、いくらでも食べてしまえる。それに寿司目線で歩いていたけれど、気がつけば寿司をとおして、富山の暮らし、経済、文化が自然と目に入ってきた一日だった。

きりっと握られたお寿司、さらに味わいを深めてくれる地酒、端正な工芸、壁のようにそびえる立山連峰、深く青い富山湾、穏やかな新湊の川沿い、活気あふれる漁港や寿司店……いろんな富山の景色が浮かび上がってくる。
 
「寿司といえば、富山」と、柴田さんが言っていた言葉に深く頷く。
ひとりでも、寿司好きな人と一緒でも、外国の友人を誘って行くのもいいかもしれない。春・夏・秋・冬、季節がめぐるごとに富山を味わいに、また旅したくなってしまった。

Information

寿司といえば、富山

富山県知事政策局政策推進室ブランディング推進課

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Yayoi Arimoto

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