連載:星のやとめぐる日本

A Journey to See the Light

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連載:星のやとめぐる日本

光を観る旅へ/星のや軽井沢

TRAVEL & EAT & THINK EARTH

2024.09.28

10 min read

日本には数多くの観光地が存在する。そういった場所は、ともすれば紋切り型にめぐりがちだ。「その瞬間を特等席へ」をコンセプトに非日常を提供する「星のや」というフィルターを通して、観光地の知られざる一面を探る。
 
今回の舞台は20周年を迎える〈 星のや軽井沢〉。自然と寄り添う「星のや」の原点に触れる旅へ。

Photo : Omori Katsumi

Text:Takashi Sakurai

地球と寄り添った集落へ

 音がいい、というのが〈星のや軽井沢〉の第一印象だ。レセプションではスタッフが“やぐら”の演奏で出迎えてくれる。銅鑼(どら)や鍵盤打楽器のやわらかい音たちと、外からかすかに聞こえてくる自然の音との調和が心地いい。身体に届く振動も相まって、リセットボタンを押される感触がある。
 
 それにつづくのは、川のせせらぎ。高低差のある土地の特性をうまくいかして、人工の瀬をつくり、天然の川のような瀬音を生み出している。もちろん、景観としても美しい。自然とうまく折り合いをつけたデザインだ。

集落の中心を流れる川には灯籠が浮かぶ。 夜になるとロウソクが灯され、幻想的な風景を生み出す。

 この水の流れや音は、演出的な効果だけを狙ったものではない。実は〈星のや軽井沢〉には、長い水力発電の歴史がある。110年前、まだ電力が来ていなかったこのエリアに、「リゾート=自然破 壊ではない」という強い意志のもと、水力発電をいちはやく取り入れているのだ。現在は水力発電で使用している電気の約30%、地中や温泉から得られる熱エネルギーを加えると、約70%がこの敷 地内で生まれる自然エネルギーでまかなわれている。豊かな水も熱も浅間山の恩恵だ。美しい景観はいうまでもなく、そういう意味でもここは奇跡の立地といえる。
 
 瀬音に導かれるように歩を進めると、美しい集落に着く。陽光煌めく川の周りに宿泊棟が不規則に並び、やわらかな新緑も目に嬉しい。自然景観と人工的な景観の調和がとれていて、自然の中に お邪魔します、という感覚になれる場所だ。
 
 自然との調和は、屋外だけの話ではない。客室内に入ると、その季節に合わせた香りが出迎えてくれる。窓を開けているわけではないのに、空気の流れを感じるのは屋根に設けられた風楼という仕組み。ベンチレーションの役割を果たし、熱い空気を上部から排出するので、夏でも冷房いらずだという。逆に冬は温泉熱を利用した床暖房が足元を暖める。自然と折り合いをつけたこういった仕組みが機械音を減らしていることもあり、外からの自然音がより耳に入ってくる。いま、窓の外で楽しそうに鳴いたのは、カワガラスだろうか。

メインカットにもなっている棚田ラウンジの夜の雰囲気。

「日本料理 嘉助」で供される「山の懐石」。「 笑味寛閑」というコンセプトどおり、美味なだけでなく楽しさがある。

 ロビーも川や山をイメージしたデザイン。自然こそが美しいという意識がここにも表れている。そんなロビーに併設されたメインダイニングでいただく〈日本料理 嘉助〉の山の懐石はまさにエンターテインメント。稚鮎や沢蟹が盛り付けられ「初夏の宴」と名づけられた八寸は、もはや自然の景観美が再現されたような佇まいだ。驚きがある上質なショーをみせられているような食体験を満喫したあとは、腹ごなしの散歩がてら、湯川に架かる橋を越えてケラ池の畔のバーへと向かう。
 
 夜も音がいい。クロモジのジンを飲みながら、カエルの声のサウンドに包まれる。ここにはムササビも棲んでいる。この〈森のほとりCafe&Bar〉は昼にはビジターセンター的な役割を果たし、「ピッキオ」という団体が自然保護の観点からさまざまなツアーも行っている。彼らの調査によって、建築計画で切る予定だったモミがムササビの通り道 だということが判明。切らずに建物のほうを移動 させたという。〈星のや軽井沢〉の自然に対する立ち位置を表した、素敵なエピソードだ。
 
 部屋に戻ると、まるで陽の名残りのような、ほどよい床暖房の温もりがある。夜はまだ肌寒い季節だったが、戸を開けて外の音に囲まれながら眠りたい衝動にかられる。

〈星野温泉トンボの湯〉。大きな窓から外を望める内風呂と、花崗岩でつくられた露天風呂。隣接する池には鴨の家族も訪れる。

〈星のや軽井沢〉のアイデンティティーでもある庭を手がけている関口健一さん。

前身となる星野温泉旅館から100年以上つづく水力発電。現在2 基が稼動。

自然と庭の挟間で

 鳥の声と日差しで目を覚ます。窓を開け放つと、木々のざわめきに混じって、遠くからはかすかに 瀬音も聞こえる。こんな素敵な自然音が目覚ましだ。ピリッとした山の空気と初夏のやわらかな陽光のなか、〈星野温泉 トンボの湯〉での朝風呂を楽 しんだあと、庭を管理している関口健一さんと集落内を1時間ほどかけてゆっくりと歩く。
 
 創業以前からこの土地に立っていた大きな木は、基本的にそのまま残してあるのだという。もともとの地形をいかしつつ、デザインされた庭。新たに植えるということもほとんどしていない。それぞれ自然に生えている植物たちがありのままのかたちで暮らせるよう整えてあげるという考え方だ。
 
 自然のアクションに対して、リアクションで答える。いい意味での距離感がある。「庭と自然の間」という意識で手入れをしているのだと関口さんは言う。若干、自然のほうが強い印象で、庭というよりも、森というほうがしっくりくる。生えている木々の種類も樹齢も多様だ。モミ、アカマツ、シラカバ、カツラ、サン ショウ、クリ、コナラ、モミジ、ヤマザクラ。それぞれが伸び伸びと暮らしている様子を見ているとこちらまで嬉しくなってくる。
 
 足元に目を向ければ、コゴミやウルイといった山菜の姿もある。ヤマブキ、アケビ、ヤマツツジ、ルリソウ。さまざまな花も其処此処で咲いている。葉の真ん中に花が咲くハナイカダという珍しい種類のものも居る。1週間きざみで折々の花がかわるがわる咲くというから、季節を変えて何度も訪れてみたくなるし、10年後にこの場所がどう変わっているのかも気になる。〈星のや軽井沢〉は、どこに居てもいい景色がある。その景色を生み出しているのはさまざまな揺らぎ。音、水、光、葉。

自然の地形や植生をそのままいかした野趣あふれる庭は自由に散策することができる。季節によってさまざまな表情をみせてくれる。

近隣には、自然を感じることができるスポットがたくさんある。写真は湯川の水源にもなっている白糸の滝。

 それをもっとも感じられる特等席が、棚田ラウンジだ。池の中の飛び地のように、それぞれ心地よさそうな席が用意されている。そのひとつに座ると、まるで中州にいるような音に包み込まれる。葉が陽光に煌めき、水も踊っている。石垣についた苔が美しいグラデーションを描く。
 
 そんな特等席でアフタヌーンティーをいただく。ティーという語感からイメージしていたものをいい意味で裏切られた。主役は料理長が手がけた見事なお重だ。全6段にこの土地の恵みが凝縮されていて、目だけでなく舌でも四季を感じさせてくれる。
 
 目の前では鴨の家族がのんびりとお散歩中だ。ここでは鴨も気持ちよさそうに過ごしている。〈星のや軽井沢〉という集落の居心地のよさを、もっともわかっている住人のひとりだ。

6月から始まった棚田アフタヌーンティー。季節によって変わるお重に、限定醸造のロゼシードルや桜樺茶をあわせて。

自然の地形がいかされた棚田ラウンジ。テーブルや椅子が設けられ、朝昼夕と季節や時間の移ろいを感じながら、思い思いに過ごすことができる。

Information

星のや軽井沢

2005年7 月に「もう一つの日本」をテーマに〈星のや軽井沢〉として誕生。コンセプトは「谷の集落に滞在する」。川を中心とした 自然をいかした集落のような作りになって いて、各客室からは四季折々の風景を楽しめる。明暗を使い分けたメディテイションバスや、滞在型ウェルネスプログラム、エコツーリズムの専門集団「ピッキオ」によるネイチャーツアーなども用意されていて、滞在者の好みに合わせた過ごし方ができる。

2024年6月1日には新たな名所となる「棚田ラウンジ」もオープン。美しい棚田に囲まれながらアフタヌーンティーを楽しめるプログラムも誕生している。

 

住所

長野県軽井沢町星野

電話

050-3134-8091(星のや総合予約)

部屋数

77室

料金

1泊112,000円~(1 室あたり、税・サービス料込、食事別)

アクセス

JR 軽井沢駅より車で約15分(送迎バスあり〈無料〉)、碓氷軽井沢 ICより車で約25分

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Photo by

Kei Taniguchi

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