連載:星のやとめぐる日本
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連載:星のやとめぐる日本
TRAVEL & EAT & THINK EARTH
2025.09.13
10 min read
日本には数多くの観光地が存在する。そういった場所は、ともすれば紋切り型にめぐりがちだ。「星のや」というフィルターを通して、観光地の知られざる一面を探る。
今回訪れた〈星のや竹富島〉で見つけたのは、古くからある伝統と現代社会の共生への道しるべだった。
Photo : Katsumi Omori
Text:Takashi Sakurai
竹富島憲章というものがある。
ある島の人は冗談まじりに「子どもの頃、日本国憲法より大事だと教わりました」と言う。「売らない。汚さない。乱さない。壊さない。活かす」。この理念があるからこそ、島の土地はみだりに売られず、海や景観が守られ伝統行事もつづいている。過度なリゾート開発は許されない土地なのだ。「おじいが、ならんと言ったらならんのです」と島の人は言う。もちろん〈星のや竹富島〉も例外ではない。ではなぜ開発が許されたのか。それは島の長老のもとに何度も通い、対話を重ねてきたから。今年で14年目。島ではまだまだ新人だ。
〈星のや竹富島〉の造りは、島に古くからある技法を踏襲している。石壁に白い砂路地。石積みなど、島の人の協力で作られたものも多い。
敷地内には、この土地特有の植物も多い。写真は月桃のつぼみ。こういった野草を使ったお茶なども、ラウンジで楽しむことができる。
南国らしい力強い森を進むと、ぱっと草原が広がる。その奥には、集落─いや、正しくは〈星のや竹富島〉があるのだが、ついそう表現したくなるほど、敷地内は組まれた石垣で奥が見えず、風景に溶け込んでいる。島に着いてすぐに訪れたビジターセンターに飾られていた、モノクロの集落写真を思い出した。岡本太郎氏撮影のその写真は、石垣の角を曲がろうとする老婆の姿を切り取っていた。道がカーブしているのは、真っ直ぐにしか進めない魔物マジムンを除けるためともいわれるが、実は強風をいなす合理的な理由もある。
見晴台から敷地を望む。ジャングルだったこの地を開発するにあたり、外来種を駆除し在来種のみに。かつての島の植生を取り戻した。
客室は板敷きと畳の2種類。すべて南向き。
宿泊するのは赤瓦の平屋。入ってすぐ南側に向いた全面のガラス戸を開け放つと、心地よい風が抜けていく。これは南風が多い島の風土に合わせた家づくりの真髄だ。風を通しながらも石垣が絶妙に視界を遮ってくれる。着いたばかりなのに我が家のような心地。周囲に植えられたフクギは防風林の役割を果たす。風で葉がこすれる音が心地よい。自然の特性をうまく建築に活かした技は、竹富島の人びとが長年培ってきたもの。「星のや」の竹富島へのリスペクトが随所に垣間見える。
織物体験や、民具作り。アクティビティも島の文化を伝えるものばかり。
全長46mのプールは24時間利用可能。
「島テロワール」と名づけられたディナーコー
ス。王道のフレンチに八重山特有の食材をミックスし、驚きのある食体験を堪能できる。いずれは畑で穫れた食材も使用していく予定。
その最たるものが畑だ。竹富島は珊瑚礁が隆起してできた島で、土壌は痩せており表土はわずか30㎝ほどしかない。農業が厳しい土地だからこそ収穫への感謝は深く、年間20以上の祭事にそれが現れている。なかで種子取祭(タナドゥイ)は島最大の祭事で、島で取った粟の種を神聖なものとして奉納してきた。だが、近年畑を耕す人が減り、種を取るのも難しくなっている。そうした状況を受けて、「星のや」は畑づくりをはじめた。島民の知恵を借り、粟をはじめ、クモーマミ(在来大豆)、芋などのほか、永らく島民の健康を守ってきた命草(ヌチグサ)という薬草類も育てている。いまでは在来種のほとんどの種取りに成功し、粟は種子取祭の際に奉納するまでになった。
「竹富島は有形のものも美しいのですが、それを支えているのは祭事に代表されるような、感謝や祈りといった無形のもの。それをしっかり受け継ぐ必要を感じます。そしてその根っこにあるのが農業なんです」。そう語るのは畑プロジェクトのリーダーである小山隼人さん。彼は、島で農業をつづけてきた数少ない人物の1人である前本隆一さんのもとに通い、畑の知識だけでなく文化や伝統についても学んできた。
「クモーマミは島に種がなくなっていたんですが、なんとか復活できました。それを使って島の子どもたちと豆腐を作り、おじいおばあに振る舞ったんです。そうしたら、豆にまつわる思い出話がたくさんでてきて。種の継承は文化を繫ぐことだと痛感しました」
守るだけでなく新しい提案もある。長命草や月桃など、この畑で採れた薬草を使ったオリジナルのスピリッツは島の人にも好評だという。リスペクトありきの新しい道。文化のリミックスだ。
敷地内の畑で採れた野草を使って造った「KUNUSHINA」というスピリッツ。ディナーではオリジナルのカクテルも楽しめる。
雨でいくぶんしっとりとした、島の集落をのんびりと巡る。目の前でのっしのっしと揺れる黒いお尻は水牛のピースケだ。集落の様子は岡本太郎氏が撮影した50年以上前と、ほとんど変わっていない。水牛車で集落を巡るのも「星のや」のアクティビティのひとつだが、リゾートにありがちな、施設内で完結させたものでなく、むしろ集落を訪れることを積極的に促してくれる。水牛を降りたあとも観光客で賑わう集落を散策し、〈星のや竹富島〉に戻ると、まるでタイムスリップしたかのような感覚を覚えた。観光客が少ない分、かつての静かな集落の面影がたしかにあったのだ。
朝夕の2回、水牛車で集落をゆったりと巡るアクティビティもある。リゾートに滞在しながら、島の人びとに触れあえる機会を積極的にもうけている。
「最近は集落のほうでも家の中から三線(さんしん)
の音が聞こえなくなってきたね」
三線体験の先生である河上美奈子さんが言う。〈星のや竹富島〉に響く楽しげな三線の音。島に伝わる恋の歌だ。彼女の瞳が少女のようにきらめき、三線の調べが盛り上がっていく。〈星のや竹富島〉と集落の景色が自分のなかで混ざり合う感覚。こうしたアクティビティは、島の人の協力がないと成り立たないし、同時に文化を残したいという「星のや」の意志を感じさせるものでもある。
三線体験などは、実際に島の人たちから手ほどきを受けることができる。
朝の柔らかな南風を帆に受けて、サバニは凪の海を進む。伝統的なこの舟を操るのは上勢頭輝さん(うえせとあきら)。屈強な体に優しい口調の島の男だ。一度は島からなくなってしまったサバニを復活させた人物でもある。川や池がない竹富島は水田が作れない。だからかつてはこのサバニに乗り込み、遠くに見える西表島まで耕作しに行っていたという。上勢頭さんがおじいたちから聞いた、島に残るさまざまな話を海の上で聞かせてくれる。
「こういう話を今の子どもたちは知らないんですよ。だから島の歴史を繫ぎたいという思いもあって、サバニを復活させようと思ったんです」
上勢頭さんがサバニのアクティビティを復活させたのは9 年前。おじいたちから聞いたという、島の文化を伝えてくれる語り部としての側面ももつ。
風に乗って進むサバニの心地よさも手伝って思い切って質問してみた。島に「星のや」ができたことを、島の人たちはどう思っているのか。
「若いスタッフさんが20人くらい島に住んでいて積極的に祭りや行事も手伝ってくれます。とくに裏方をやってくれるので助かってますよ。星のやスタッフさんがいなかったら、40過ぎても僕ら世代が一番下っ端なんで」と豪快に笑う。
〈星のや竹富島〉が今後も島に在りつづけることで、竹富島の文化もまた、守られていく。そんな共生関係を築いていけたなら、これまでにないリゾートの在り方を示唆するものになる。
星のや竹富島
〈星のや〉は“その瞬間の特等席へ。” をコンセプトに各施設が独創的なテーマで圧倒的非日常を提供するブランド。現在国内に6施設、海外に2施設を展開。〈星のや竹富島〉は2012年に3施設目としてオープン。コンセプトは「ウツグミの島に楽土」。ウツグミとは島の言葉で“一致協力”という意味で、島の人びとが大切にしている基本精神。そのコンセプトどおり、島の人びとの協力を得ながら、伝統や文化、自然を残していくことにも注力している。建築や畑なども島の人の協力のもと作られていて、料理や各種アクティビティも島の文化を体感できるものばかり。滞在しながら、残すべきものに思いを馳せる。
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