vol.10 ジョージアのオレンジワイン
by〈OVERSEAS〉

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連載:海の向こうのローカル風土記

vol.10 ジョージアのオレンジワイン
by〈OVERSEAS〉

EAT

2024.12.09

5 min read

私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。 海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情を注ぎ作っている。
連載第10回は、約8000年前から存在する、歴史深いジョージアのオレンジワインのお話。

Ilustration:Hitoshi Kuroki Text:Alice Kazama

<p>ジョージアの東にあるカヘティ州は、20のPDOをもつ国内最大のワイン生産地。「よいワインができる場所」という意味のカルデナヒ村もそのひとつ。アラザニ渓谷に沿ってワイナリーと小さな教会が点在する。</p>

ジョージアの東にあるカヘティ州は、20のPDOをもつ国内最大のワイン生産地。「よいワインができる場所」という意味のカルデナヒ村もそのひとつ。アラザニ渓谷に沿ってワイナリーと小さな教会が点在する。

世界最古のワインが、世界最高のワインに。

ワイン発祥の地は? そう問われると、古代ギリシアや古代ローマなどをイメージするかもしれない。しかし実は、アジアとヨーロッパをつなぐ小さな国、ジョージアで約8000年も前に生まれていたといわれる。数年前に国内で発掘された紀元前約6000年の新石器時代の土器から世界最古のワイン残留物が検出され、その時点ですでに十分発達した農業の段階があった事実まで証明されたのだ。
 
wine(ワイン)/ vino(ヴィノ)の語源に関しても、ジョージア語で「発酵する、繁栄する」などの意味をもつ動詞「ghvivili(グヴィヴィリ)」が言語学者の間で有力とされている。
 
ジョージアワインに特異性を与えているのは長い歴史だけではなく、その製法にもある。「qvevri(クヴェヴリ)」と呼ばれる手づくりの巨大な卵型の甕かめにブドウの果汁と種や果皮なども一緒に入れ、地中に埋めて発酵させる。数カ月後にできあがるのは、綺麗な琥珀色をしたタンニンたっぷりのオレンジワインだ。何千年もの間、世代から世代へと継承されてきたナチュラルなワイン造り。今でも一般家庭では免許なしで造ることができるし、国内の一部のワイナリーでも伝統に忠実な方法で生産をつづけている。
 
カヘティ地方のカルデナヒ村にあるシャルヴァ・グヴァラマゼ・ワイナリーでは200ものクヴェヴリを所有。創業者のシャルヴァ氏は、この伝統的なワイン造りのノウハウを家庭で学んだ。「赤ちゃんが言語を習得するように、とても自然な方法で、体験としてワイン造りを学びました」。彼の祖父や父の手がけるワインはとくにおいしいと有名で、完成すると数十ℓ単位で各親戚に贈るのが慣習だった。
 
地元で大人気のグヴァラマゼ家のワイン製法を受け継いだシャルヴァ氏は、さらに農業とコンピュータサイエンスを学ぶことで知識を広げる。そうして彼の造るワインは村を飛び出し、国をも越え、世界のワインアワードで受賞するほどの品質となった。

侵略の歴史、守りつづけられた伝統。

シャルヴァ氏の両親がワイン造りをしていた時代、ジョージアはソ連の支配下にあり、1家族につき1ヘクタールのブドウ畑しか所有が認められていなかったという。この国は古くから周辺国の侵攻を幾度となく受けており、そのたびにブドウ畑が没収され、ワイン造りの規模を縮小させられてきた。とくに旧ソ連時代には大量生産に伴い効率化が推奨されて、商業用の土着品種の栽培が制限されたり、クヴェヴリ職人も激減。それでもジョージアの人びとは国を守り抜き、ワイン造りの灯火も絶やさなかった。
 
国民の大半がキリスト教徒のジョージアでは、ワインは日常であり聖なる杯でもある。年間を通して多くの宗教的イベントがあり、そのたびに親戚や友人、近所の人までも集まってワインを酌み交わす。「Supra(スプラ)」と呼ばれる伝統的な宴会では、伝統料理をテーブルに並べ、神、女性、平和などに対してワインで乾杯し、合唱や詩の朗読をする。ジョージア人が何よりも大切にしてきた祝杯の文化、ワイン発祥の地としての誇り、そしてワインが結ぶ家族の強い絆を奪うことなど、誰にもできないのだ。

<p>1985年にブドウ栽培を開始し、シャルヴァ・グヴァラマゼ・ワイナリーを創業。現在は息子や親戚と150haものブドウ畑を管理しワイン造りを行う。昼夜のワインとウォーキングが健康の秘訣。</p>

今回お話を聞いた人:
シャルヴァ・グヴァラマゼ氏

1985年にブドウ栽培を開始し、シャルヴァ・グヴァラマゼ・ワイナリーを創業。現在は息子や親戚と150haものブドウ畑を管理しワイン造りを行う。昼夜のワインとウォーキングが健康の秘訣。

The Local Tips

あっさりピリ辛、豚肉の串焼き「ムツヴァディ」
タマネギ1/2個とニンニク1片、パプリカ100g、トマトピューレまたはペースト200gをブレンダーで混ぜる。適量の塩、種を取った赤唐辛子、パクチーを加えてよく混ぜれば、アジカと呼ばれるソースの完成。豚肉は一口大に切り、塩を振って串を刺す。グリルで焼き色がついたら器に盛り、千切りにしたタマネギを飾り、ソースを添えて完成。ブドウの小枝を火に入れると肉に特別な風味が加わる。グリルで余分な脂が落ちた豚肉は、ややあっさりしオレンジワインと相性抜群。

Information

ツァラピ・ルカツィテリ
クヴェヴリコレクション

オレンジワインを象徴する美しい琥珀色。在来種ルカツィテリを100%使い、クヴェヴリとステンレスタンクで造られた伝統を重んじる1本。豊かな果実味とタンニンの旨みが感じられる。

 

問い合わせ:オーバーシーズ

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