北フランス、シャンパーニュの聖地コート・デ・ブランに位置するヴェルテュ村。見渡す限りブドウ畑の素朴な村で、多くの村人がシャンパーニュ造りに携わ る。チョーク質の土壌と傾斜の形が多様なアロマとミネラルを生む。
私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情を注ぎ作っている。 連載第12回は、上質なシャンパーニュのストーリーを、フランスの小さな村ヴェルテュから贈る。
Ilustration:Hitoshi Kuroki Text:Alice Kazama
北フランス、シャンパーニュの聖地コート・デ・ブランに位置するヴェルテュ村。見渡す限りブドウ畑の素朴な村で、多くの村人がシャンパーニュ造りに携わ る。チョーク質の土壌と傾斜の形が多様なアロマとミネラルを生む。
煌びやかなイメージのあるシャンパーニュも、それを支える農家や造り手のひたむきな仕事の上に成り立っている。シャンパーニュの主要産地に位置しながらも小さく素朴な村、ヴェルテュを拠点にするメゾン、シャンパーニュ・ポール・グールは、まさにそんな生産者の実直さを象徴するようなワイナリーだ。
ヴェルテュ村で2番目の面積をもつ彼らの畑はグラン・クリュ(特級畑)とプルミエ・クリュ(一級畑)で、名だたるグランメゾンも認める質の高いシャルドネを中心に栽培。数々の受賞歴がある上質なシャンパーニュを生み出している。80人以上ものブドウ農家と自社畑を抱えているのが最大の強みのひとつ。傾斜角度が異なる広大な畑では地中のチョークの深さも変わり、多様なアロマをもたらす。長期熟成が可能なシャルドネの特徴を利用し、アペラシオンの規定の約3倍もの期間熟成させることも特筆すべき点。また、ドサージュ (糖分添加)を低くすることで、ヴェルテュ村の豊かなテロワールを反映したピュアなシャンパーニュができあがるのだ。
品質のみならず同社を特異にしているのは、1950年代に、ブドウ栽培とワイン造りを行っていた8家族が”集結”して誕生したというストーリーだ。時は第二次世界大戦直後。家、畑、生活基盤 などすべて失い、人びとは一から再スタートしな ければならず、限られた資金と設備のもとでは協力し合いながら事業を始めるのが自然な流れだった。生まれ育った小さな村で仲間たちと創り上げるシャンパーニュブランドは、戦後の生活を立て 直す一筋の光だったのかもしれない。彼らはブランド名を村の著名人、ポール・グールの名前からとることに。ポールは1877年に村長に就任した 人物で、道路整備や地域社会の向上に貢献したとされるだけでなく、ワイン造りにも情熱を注いでいたという。またブランドロゴも、ヴェルテュ村 のシンボルである矢の刺さったハートがモチーフとなっている。この8家族の代表者は現在も会社 役員として活躍しており、70年以上つづく村と 仲間のレガシーを大切に守っている。
生産者の一年は多忙で豊かだ。春には自然が長い冬の眠りから覚め、甘い香りのブドウの花が咲き、秋を迎えて実はたわわになり、収穫が終わるとまた長い冬に入る。冬の間には根のケアをしたり、保存中のワインを管理して過ごす。12カ月毎日世話をしてこそ得られる価値がそこにある。
セールスマーケティングディレクターを務めるセバスチャン・プティトゥー氏は、シャンパーニュ造りの素晴らしさについて「自然の香り、感覚、空気に敏感になること」だと言う。この小さくも美しい村に住み、四季のサイクルを近くに感じられることを幸せに思っている。
「私たちは自然、土とともに生きている。土はテロワールで、シャンパーニュのルーツを示しますが、それは農業を営む私たち自身も同じ。自分たちのルーツを知っているのは喜ばしいことです」
同社でセールスマーケティンディレクターを務める。シャンパーニュ地方の別の村で育ち、ボルドーでワインを勉強したのちUターン。25年以上の経験をもつ、ワインのスペシャリスト。
ペアリングには、白身魚のカルパッチョ
新鮮なスズキ100gをできるだけ薄くスライスする。ライム汁小さじ2、レモン汁小さじ1、オリーブオイル大さじ2、塩胡椒少々を混ぜ合わせたマリネソースをかけ、15分ほど置く。皿に盛り、フェンネル、ディル、レモンバームなどお好みのハー ブを散らし、最後にピンクペッパー数粒と銀杏切りにしたライム数枚を散らせば完成。「プルミエ・クリュブラン・ド・ブランブリュット」には、リッチな味わいを引き立てるさっぱりとした白身魚や牡蠣、肉料理ならチキンが相性抜群。
シャンパーニュ・ポール・グー ル
プルミエ・クリュ
ブラン・ド・ブラン ブリュット