スウェーデン北部に位置するヴェステルボッテン地方の小さな村。松林や湿地が広がる自然豊かな場所で、200世帯ほどの住民が暮らす。ジンジャースナップスメーカー「ニーオーケッシュ」の工場が地域経済を支えている。
私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情を注ぎ作っている。
連載第18回は、スウェーデンの小さな村から届けられる、スパイスの香り豊かなジンジャースナップス。
Ilustration:Hitoshi Kuroki Text:Alice Kazama
スウェーデン北部に位置するヴェステルボッテン地方の小さな村。松林や湿地が広がる自然豊かな場所で、200世帯ほどの住民が暮らす。ジンジャースナップスメーカー「ニーオーケッシュ」の工場が地域経済を支えている。
スウェーデンの冬の訪れは早い。11月には雪が降り始め、12月になると太陽がほとんど顔を出さない日もある。そんな冬が3月までつづく。聖ルチア祭やクリスマスマーケットといった大きなイベントとともに訪れるのが、ジンジャースナップスの季節だ。ショウガやスパイスを練り込んだ薄焼きのクッキーで、乾燥しやすいため保存がきき、スパイスにも体を温める効果があるとされる。中世の頃からこの地で親しまれ、かつてスパイスが希少だった時代には、特別な行事や祭り、冬の贈り物として振る舞われていた。
「多くのスウェーデン人にとって、10月からクリスマスにかけてジンジャースナップスを食べることは“欠かせない”伝統なのです。もし食べなければ、何か大切なものを失ったように感じてしまいます」。そう語るのは70年以上つづくジンジャースナップスメーカー〈ニーオーケッシュ〉の営業部長、パール・オーストロム氏。創業者の息子でもある。
1952年創業のニーオーケッシュは、同じ名前の小さな村で誕生した。勤勉な農家オーストロム家の兄弟ベングトとジョンが菓子職人として修業を積み、国内各地でいくつかのベーカリーを経営した後、故郷に戻り自分たちの店をスタート。兄弟はワゴンで地元の農場をまわり、パンを届けながら販売を広げた。
なかでも秘伝のレシピで作るジンジャースナップスが評判を呼び、夜遅くまで焼きつづける彼らを、村人は「ジンジャースナップスのオーストロム兄弟」と呼ぶように。
やがて需要はスウェーデン国内に広がり、北欧全域にも拡大。1990年代には海外進出を果たし、現在では世界で2番目に大きなジンジャースナップスメーカーとして知られている。
創業当時のレシピは今も受け継がれ、改良を重ねながら、最高の味を届けることを使命としている。風味の完璧な調和、薄く軽やかなサクサクとした食感、際立つ味わい。スウェーデンの人びとが好む、伝統的なおいしさのバランスだ。
パール氏やほかの子息たちは皆、ジンジャースナップスとともに育った。店でオーブンから焼きたてのクッキーをもらうことが、小さな、けれど何よりも贅沢な喜びだった。厳しい冬の最中でも、時間を忘れて外遊びを楽しむ子どもたちに、家族はホットチョコレートや紅茶を用意し、家に呼び入れる。スウェーデン伝統の“フィーカ”の時間だ。そのひとときにはジンジャースナップスが添えられ、飲み物とともに体を温めてくれた。スパイスのきいた大人の風味は、子どもたちにとって少し背伸びしたような特別な味だったに違いない。ふだんの甘いお菓子とは異なる刺激が、大人の世界の入口を覗くような気持ちにさせ、寒い冬の日常をいっそう豊かにしてくれたのかもしれない。
温かい紅茶と、楽しい会話と、ジンジャースナップス。長い冬を心地よく過ごすための、スウェーデンの人びとの知恵がそこにある。
創業者の父と叔父をもつ、ニーオーケッシュペッパーカーコル社の営業部長。海外のマーケティングも担当し多忙だがフィーカは欠かさない。4人の子息の中で唯一今も同社に勤め、ブランドの歴史をよく知る人物。
スナップスの食感がきく、ホリデーデザート。
スウェーデンでは、ジンジャースナップスをコーヒーや紅茶、ミルク、ホットチョコレートなど飲み物と一緒に楽しむのが定番。砕いてヨーグルトのトッピングにしたり、チーズケーキの土台に使うことも。ホリデーシーズンには、砕いたジンジャースナップス、生クリーム&クリームチーズ、リンゴンベリー(ほかのベリー類で代用可)をグラスに交互に重ねるだけの簡単デザートもひとつのアイデア。ジャムを添えると、より北欧らしい華やかさが加わる。
【ニーオーケッシュ ジンジャースナップス オリジナル】
口に入れた瞬間に広がるリッチな甘みと、ショウガやクローブ、シナモンなどスパイスの香りが鼻を抜ける。1枚4~5gと軽やかで、口の中でホロリと崩れる。ティータイムにはもちろん、アイスやヨーグルトに添えても。
TEL
5 min read
Promotions
連載|海の向こうのローカル風土記 vol.7
ニュージーランドのマヌカハニー
by〈OVERSEAS〉
ニュージーランド
EAT
2025.12.10
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.8
ノルウェーのクリスプブレッド
by〈OVERSEAS〉
ノルウェー
EAT
2025.11.22
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.9
イタリアのオリーブオイル
by〈OVERSEAS〉
イタリア
EAT
2025.11.06
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.17
カナダのメープルシロップ
by〈OVERSEAS〉
カナダ
EAT
2025.11.01
Yayoi Arimoto
COUNTRIES
View All
CATEGORIES
View All
Shohei Hayashi
ABOUT US
TRANSITとは?
TRANSITは、雑誌とwebをとおして、
地球上に散らばる
美しいモノ・コト・ヒトに出合える
トラベルカルチャーメディアです
MAGAZINES&BOOKS
Back Numbers