ノルウェーの首都かつ北欧最大の都市でありながらフィヨルドと山に囲まれ、緑豊かでのんびりとしたムードのオスロ。自然のなかに美術館やモダンな建築が溶け込み、芸術的、文化的にも見どころたっぷり。ノーベル平和賞の授賞式が毎年ここで行われているのも納得できる。サーモン、ニシン、イワシなど魚介料理、そして国民食ともいえるパンが美味。農耕に向かない厳寒の土地柄、保存食が発展した。
私たちが日常のなかで何気なく口にし、あるいは背伸びして食卓に取り入れる海外の食品たち。 海の向こうでは、唯一無二のおいしさを求めて生産者たちが愛情を注ぎ作っている。
連載第8回は自然豊かなノルウェーから、ざくざくおいしいクラッカー状のパン、クリスプブレッドを紹介。
Ilustration:Hitoshi Kuroki Text:Alice Kazama
ノルウェーの首都かつ北欧最大の都市でありながらフィヨルドと山に囲まれ、緑豊かでのんびりとしたムードのオスロ。自然のなかに美術館やモダンな建築が溶け込み、芸術的、文化的にも見どころたっぷり。ノーベル平和賞の授賞式が毎年ここで行われているのも納得できる。サーモン、ニシン、イワシなど魚介料理、そして国民食ともいえるパンが美味。農耕に向かない厳寒の土地柄、保存食が発展した。
ノルウェーの人びとの多くがクオリティ・オブ・ライフにプライオリティをおいている。早起きをしてまずスポーツ、ヨガ、読書など好きに過ごし、7時頃には仕事をはじめて、16時には帰宅して家族と健やかに過ごす時間を長くとる。休日は郊外へ出かけ、壮大なフィヨルドや山の中でアウトドアに興じる。仕事と家庭、健康と自然が、生活にバランスよく配置されている。
そんな彼らのヘルシーライフに寄り添ってきたのがクリスプブレッドだ。クラッカーでもありパンでもある、双方のいいとこ取りともいえる北欧の伝統食品で、一般的にはライ麦全粒粉と塩と水だけで作られ、ホームメイドも多い。ハム、チーズ、サーモン、野菜をのせてオープンサンドにしたり、ソースにディップしたり、粉々にしてサラダやスープに入れるのもいい。果物を添えたグラノラ風、ケーキの土台にも。シンプルだからレシピが無限に存在する、まさに万能食品だ。
気候が厳しく、作物が十分にあるわけではなかった北欧の地で、保存がきくクリスプブレッドは欠かせない大事なエネルギー源として、人びとの生活に浸透してきた。かつてヴァイキングも常備食として船に載せていたという。限られたスペースでの長期間の航海において、場所を取らず保存がきき、栄養価も高いゆえ重宝されたのだ。さらに近年、ヘルシー志向のトレンドとともに若い世代を中心に再注目されはじめた。
あるとき、朝食向けのパンを輸入製造するユナイテッド・ベーカリーズのオーナー、レミ・グリグナック氏は多くのノルウェーの家族と同様、3人の娘と妻を連れて休日にキャンプへ出かけていた。「スナックが食べたい」と言い出した娘に、シグダルという小さな村に立ち寄りクリスプブレッドを買ったのだが、ふと気づくと中身がなくなっている。家族はそのおいしさのあまり一気に食べ切ってしまっていたのだった。これまで味わったことないほど多くの穀物や種子が入った、ざくざくとした食感がやみつきになった。
レミ氏はすぐさまベーカリーへ戻り、このクリスプブレッドを自分の会社に卸してほしいと伝えた。しかし店主は近くリタイアを決めていたために断られてしまう。しかし彼の熱意が伝わりベーカリーごと買い取るということで話がまとまった。作り方を学び、改良を加え、数年後には伝統を継承したオリジナル商品「シグダルクリスプブレッド」が誕生した。キヌア、ひまわり種、オーツ、ライ麦、スペルト小麦など厳選された穀物や種子をまるごと使っているから、素朴な原材料と見た目以上に複雑で深い味わいをしていて、栄養価もより高い。このシンプルで豊かなプロダクトは、ノルウェーの人びとの暮らしをそのまま体現しているかのようだった。
「レミは生粋の“フードラバー”なんです。食べることが大好き。それにいつも人と少し視点の違うところを見ています」とユナイテッド・ベーカリーズの営業担当、ナタリー氏。一家が小さなシグダル村で恋に落ちたクリスプブレッドはこうして世界に供給されるようになり、今では多くの人の朝食やランチ、スナックタイムを彩っている。
ユナイテッド・ベーカリーズ社のシグダルマーケティング担当。フランス出身で、フランスとノルウェーを行き来し、世界各国で行われる展示会出展をほぼひとりでこなす敏腕。気さくで陽気な人柄。
ノルウェーに夏を呼び込む定番レシピ
夏の訪れを盛大に祝うノルウェー。ニシンの酢漬けをヨーグルトソースでいただく季節の伝統料理はオープンサンドにもぴったり。ヨーグルト200ml、マヨネーズ大さじ1、ディル、酢各小さじ1/2、ハチミツ小さじ1、黒コショウひとつまみを混ぜ合わせたソースをクリスプブレッドに塗る。ニシンの酢漬けをのせ、お好みで卵やジャガイモをトッピング。最後にディルを散らせば完成。ビーツクリームと白身魚のフィレをのせるだけの簡単な伝統レシピもナタリー氏の好物とか。
シグダル クリスプブレッド
グルテンフリーオーツ
軽快な食感に穀物種子そのものの自然な甘さ、香ばしさが感じられる。添加物不使用のシンプルな原料で作られ、食物繊維やタンパク質など栄養たっぷり。ヴィーガンやベジタリアンにもおすすめ。
TEL
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.9
イタリアのオリーブオイル
by〈OVERSEAS〉
イタリア
EAT
2025.11.06
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.17
カナダのメープルシロップ
by〈OVERSEAS〉
カナダ
EAT
2025.11.01
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.16
イギリスのティッカマサラ
by〈OVERSEAS〉
イギリス
EAT
2025.10.22
5 min read
Promotions
海の向こうのローカル風土記 vol.15
ドイツのミューズリー
by〈OVERSEAS〉
ドイツ
EAT
2025.09.12
Yayoi Arimoto
COUNTRIES
View All
CATEGORIES
View All
Naoko Maeda
ABOUT US
TRANSITとは?
TRANSITは、雑誌とwebをとおして、
地球上に散らばる
美しいモノ・コト・ヒトに出合える
トラベルカルチャーメディアです
MAGAZINES&BOOKS
Back Numbers