唯一無二のスタイルで活動をつづける写真家の天野裕氏さん。 今回、初の大規模な個展を開催すると聞き、 渋谷・MIYASHITA PARK内にあるギャラリー〈SAI〉を訪ねた。
これまでに、日本各地を旅しながら、1対1で自作の写真集を閲覧してもらう「鋭漂」という形態の活動をつづけてきた、写真家の天野裕氏さん。
福岡県北九州市出身の天野さんは、30歳頃より写真を撮り始め、2009年に塩竈フォトフェスティバルで大賞を受賞したことで注目を集めるようになった。当時から、撮影機材はカメラ付きの携帯電話のみ。今もそのスタンスは変わらない。その理由を天野さんに尋ねると、「画面越しに撮影をするのではなくて、相手を直接見て(片手でスマホの)シャッターを押せるから」だという。写ればなんでもいいと、人のスマホを借りることもある。画質がいいとか、機能が十分だからとかそういった理由ではなく、天野さんにとって最良の相棒がスマホだったのだ。
当然、今回展示されている写真もすべてスマホで撮影したものだという。
身体の一部、紫煙の漂う室内、夜の街、包丁と錠剤、どこかの街の海、血が流れる頬……。
心がざわざわする。プリントして額装された写真は全部で28点。その写真の背景にある物語を推し量ることは難しいが、決して穏やかではない状況もありそうだ。でもなぜか、あたたかい感情が湧いてくる。
今回の展示会場である〈SAI〉は4つの部屋にわかれており、計300平米と都内でも屈指の広さを誇る。大規模な写真展は今回が初めてだというが、「鋭漂」のような1対1ではない展示という写真の見せ方について不安はなかったのだろうか。
「たとえば、どんな小説よりも誰かが誰かに向けたラブレターが一番届くと自分は思っていて、1対1で見せる行為でそれは伝わっているから、不安ではなかったですね。ただ自分がいないだけ。立ったリングが違う、そんな感じです」
展示会場のいちばん奥の空間は、毎日更新される。会期中ほぼ毎日ギャラリーに在廊する天野さんが、写真作品のコピーをガラス窓の壁面に貼っているからだ。「せっかく東京に滞在をしてここに通っているのだから、何かしようと。最終日まで完成しない展示になっています」
最後にのぞいてほしいのは、福岡県の大牟田にある天野さんの自宅の部屋を“持ってきた”一室だ。パーカーなどの衣類、CDや本や雑誌、玩具やぬいぐるみ(大好きなメロンパンナちゃんがあちこちに)が床に積み上がり、サッカーのユニフォーム(なんと、ブラジルでサッカー選手をしていたこともあるのだそう)が壁にかかる。雑然と置かれた個々の集積から、天野さんの感性の鋭さが垣間見える。
実は展示の内容が決まる前から、「あなたがここにいてほしい」というタイトルが決まっていたという。なぜこのタイトルにしたのか、天野さんに理由を尋ねると、まっすぐな目で返ってきた。
「 “ありがとう”と“ごめんなさい”と、この言葉が言えたら生きていける。小学生でもわかる意味にしたかった。そして、友人や恋人、人ではなくて風景でも、素直に自分のまわりに存在するものに対して湧いてくる感情です」
迷いのない言葉だった。心がざわざわしつつも、決して対峙するものを拒まない、その理由が少しわかった気がする。
初めての人も、写真集は見たことがあるという人も、日々更新されていく展示会場にぜひ足を運んでほしい。
天野裕氏 写真展 「あなたがここにいてほしい」
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