TRANSIT54号『不思議で尊い世界の聖地へ』の「世界五大宗教と聖地」と題した企画では、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、ヒンドゥー教、仏教の5つの宗教を、それぞれ比較してまとめました。 今回は、世界のあらゆるものをのみ込む宗教、ヒンドゥー教の基本情報を駆け足で紹介していきましょう。
Supervision:Tesshu Syaku Text : TRANSIT
明確な開祖をもたない、インド発祥の民族宗教。紀元前1500年頃にヨーロッパの東端からイラン経由でアーリア人が移入し、彼らの神々と土着の神々の信仰が混交したのが発端。それがのちにヒンドゥー教の前身となるバラモン教へ発展。バラモン教ではブラーフマナと呼ばれる司祭階級が実権を握り、彼らが唱える祈禱文などをまとめた『ヴェーダ』がヒンドゥー教の教典として受け継がれた。教典には人間の本質(我)と、宇宙の本質が一致するという梵我一如の思想や輪廻転生の教えも含まれる。
多神教のヒンドゥー教では、自らが信じる神を最高神として崇める傾向が強い。人気はシヴァとヴィシュヌ。シヴァは破壊の神でありながら、生殖や豊穣を司るという矛盾した性格をもっている。ヴィシュヌは世界を維持する温和な神で数多くの化身をもつ。
インドやネパールは人口の約8割、バングラデシュは約1割、スリランカでも人口の約1割強がヒンドゥー教徒。インドネシアのバリ島は人口の約9割にのぼり、土着信仰とヒンドゥー教を習合したバリ・ヒンドゥーと呼ばれる独自の信仰体系を形成している。
もっとも権威ある教典が、紀元前12世紀頃から紀元前3世紀頃にかけて編纂された『ヴェーダ』。サンスクリット語で書かれた古代の聖典群で、内容は多岐にわたる。また、英雄たちが活躍する二大叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』も重要。
ヒンドゥーの根本には輪廻転生の思想があり、現世でのよい行いがよりよい来世を招くとされ、現世においてはダルマ(法)、アルタ(富)、カーマ(愛)を求めることが人生の三大目的。最終的には輪廻から脱する解脱を目指し、解脱は人生最高の目標とされる。
ガンガーの中流域に位置する宗教都市バナーラスがヒンドゥー教最高の聖地。毎年インド全土から100万人以上のヒンドゥー教徒が訪れる。シヴァ神の御神体があるヴィシュヴァナート寺院を起点に巡拝するパンチャクローシー巡礼が有名。
宗教学者、僧侶
釈 徹宗(しゃく・てっしゅう)
浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授。著書に『ゼロからの宗教の授業』(東京書籍)、『宗教聖典を乱読する』(朝日新聞出版)など。共著に内田樹との『聖地巡礼』(東京書籍)シリーズがある。
浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学人文学部教授。著書に『ゼロからの宗教の授業』(東京書籍)、『宗教聖典を乱読する』(朝日新聞出版)など。共著に内田樹との『聖地巡礼』(東京書籍)シリーズがある。