「Bhajju Shyam KYOTO 2025 いのち の かたち」
Interview バッジュ・シャーム
ゴンド・アートが描くもの

「Bhajju Shyam KYOTO 2025 いのち の かたち」
Interview バッジュ・シャーム
ゴンド・アートが描くもの

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2025.10.17

7 min read

2025年10月10日(金)から28日(火)まで京都の世界遺産・東寺にて開催中の展覧会「Bhajju Shyam KYOTO 2025 いのち の かたち」。『夜の木』(Tara Books)の共著者でもあり、インドの国民栄誉賞にあたるパドマ・シュリ賞を受賞したアーティスト、バッジュ・シャームの作品44点が一堂に会する貴重な機会だ。

会場は東寺の境内にある食堂(じきどう)の一角。食堂、展示ともに入場無料。

© Kodai Matsuoka

© Kodai Matsuoka

多くの先住民が暮らすインド中央部、パタンガル村のゴンドの民として生まれたバッジュ・シャーム。彼の師であり叔父であるジャンガル・シン・シャームが築いた「ゴンド・アート」の系譜を継ぎ、ゴンドの神話や自然観を独自のまなざしで現代へと描き出している。2023年に同会場にて開催された第一回展では、わずか19日間で来場者約1万人を記録するなど、大きな反響を呼んだ。第二回目となる今回は、前回の日本滞在時に得たインスピレーションをもとに制作された新作なども展示されている。

© Kodai Matsuoka

© Kodai Matsuoka

本展に合わせて来日したバッジュ・シャーム氏に、自身の自然観や新たな作品での試み、日本への想いなどを聞いた。

ゴンド・アートが表現するもの。

  • TRANSIT

    ーーゴンド・アートの根底には描き手それぞれの「自然観」があると思いますが、ご自身はどのようにそれを表現していますか?

  • バッジュ

    ゴンド・アートで重要なのは、作品を構成する緻密なパターンが、各アーティストが生み出した独自のデザイン「シグネチャー(signature)」として作品のなかに刻まれていることです。私の作品では、細かなパターンの一つひとつが、私独自のシグネチャーとなり、全体をかたちづくっています。たとえば、作品にある動物の顔に描かれているのは葉の葉脈です。

     

  • バッジュ

    私が表現したいのは、キツネや鳥やシカといった動物ではなく、自然とのつながり。いのちあるもののかたちです。そのシグネチャーの連なりを広げていったとき、それがシカになったり、鳥になったりするのです。

     

  • バッシュ

    前回は便宜的に作品にタイトルをつけましたが、今回は作品の多くを『Untitled(無題)』のままとしています。たとえば「キツネ」と題してしまえば、それはキツネの絵になってしまう。そうではなく、あくまでそれは自然の化身であるという、自然観そのものを伝えたいのです。

私たちは基本的に、偶像崇拝をしません。森羅万象に神が宿るという自然崇拝のもと、その神をそれぞれの見え方で表現したのが「ゴンド・アート」なのです。

ゴンドと日本の共通点と相違点。

  • TRANSIT

    ーー森羅万象に神が宿るというゴンドの自然信仰は、仏教が伝来する以前の日本の古代信仰と通じるものがあります。日本との共通点を感じる部分はありますか?

     

  • バッジュ

    まさに、木や岩に神が宿るという日本のアニミズムにはシンパシーを感じています。そして日本には、美しい四季がある。今回のハイライト作品の一つでもある『Prakrti』は、前回の日本滞在時に訪れた京都の京北や美山の風景に見た四季の移り変わりを表現しています。灼熱の太陽が照りつける8月の京都でも、北部では少しずつ山の色が変わりはじめている。そんな四季という日本の「本質」を表現しました。

  • バッジュ

    今後はゴンドと日本、それぞれの自然信仰や神話をもとに、新たな作品を発表したいとも考えています。絵本なのか、映像なのか……その方法と発表の場を思案しているところです。

     

  • TRANSIT

    ーー日本との違いを感じる部分はありますか?

     

  • バッジュ

    たとえばこの作品は、日本とインド、それぞれの「竹」の姿を描写したものです。表面的に見れば日本とインドの竹の違いを表したように見えますが、これは同時に、それぞれの国の人びとの関係性の違いを表現しています。自分にとって、日本の人びとはそれぞれがとても個人的な存在である印象を受けます。対してインド、とくにゴンドの人びとは家族や友達、親戚といった関係性の人びとが密に絡まり合って日常を暮らしている。両者にはそんな違いを感じています。

今後への願い。

  • TRANSIT

    ーー今回、新たに取り組んだ表現方法はありますか?

  • バッシュ

    この2つの作品は、これまでとまったく別の表現方法をとっています。これまでは、世界を正面から捉えた平面的なアングルでしたが、この作品では世界を俯瞰して捉えています。つまり、神から世界はどう見えるかという新たな視点です。

     

    左の作品は、水の中で生まれた生命が、人生のなかでさまざまなできごとを経験し、最後は天へ登っていくという一つの人生を表現しました。右の作品は、その人生のなかで食べることもあれば食べられることもあるという、左の作品の要素の一つを描いています。さまざまな人生のレイヤーを、俯瞰するとどう見えるかということを表現したかったのです。

     

  • バッジュ

    ゴンド・アーティストにとって、どのタイミングで新たな表現方法を開陳するかは非常にセンシティブな問題です。現在、ゴンド・アートの担い手は200人ほどいるといわれていますが、その外にはアート以前の「模倣」に止まる人びとも多くいます。新しい表現は、世に出た瞬間、模倣の対象となります。やがてこの表現も、多くの作品に模倣されるでしょう。

     

    しかし、模倣には何の意味もない。模倣では自分を超えられません。私が伝えたいのは、「自分のシグネチャーをもて」ということです。

     

    自分のオリジナルをもって、表現しつづけること。先祖たちが紡いできた月や太陽、地球についての物語を描きつづけること。自分自身が先祖から受け継いだ物語を、私も次の世代へ繋げたいと思っています。

     

© Kodai Matsuoka

Profile

Bhajju Shyam(バッジュ・シャーム)

インド中部の森にあるゴンド族の村パタンガル⽣まれ。 ゴンド族に伝わる表現や物語を受け継ぎながら⾃⾝の視点で昇華し、現代的な感覚やシンプルなストーリーテリングを交えて表現することで、師匠であり叔⽗であるジャンガル・ シン・シャームが確⽴した現代ゴンド・アートの表現を拡張し続けている。

代表作に、南インドの出版社タラブックスと制作し世界8言語に翻訳されている『夜の⽊』をはじめ、『世界のはじまり』『ロンドン・ジャングルブック』など。

 

1998年パリ装飾美術館でのグループ展参加を⽪切りに、世界各国の美術館やギャラリーで個展やグループ展が開催されており、2018年には⽇本の国⺠栄誉賞に相当するパドマ・シュリ賞をゴンド・アーティストとして初めて受賞し、インド政府から表彰された。

 

‎2023年8月に⽇本初となる個展「Bhajju Shyam KYOTO」が世界遺産・東寺(京都)にて開催され、19⽇間の開催で延べ約1万人が来場したほか、本人も初来⽇を果たし、アーティスト・イン・レジデンスにて京都での体験に基づく作品を制作した。

 

インド中部の森にあるゴンド族の村パタンガル⽣まれ。 ゴンド族に伝わる表現や物語を受け継ぎながら⾃⾝の視点で昇華し、現代的な感覚やシンプルなストーリーテリングを交えて表現することで、師匠であり叔⽗であるジャンガル・ シン・シャームが確⽴した現代ゴンド・アートの表現を拡張し続けている。

代表作に、南インドの出版社タラブックスと制作し世界8言語に翻訳されている『夜の⽊』をはじめ、『世界のはじまり』『ロンドン・ジャングルブック』など。

 

1998年パリ装飾美術館でのグループ展参加を⽪切りに、世界各国の美術館やギャラリーで個展やグループ展が開催されており、2018年には⽇本の国⺠栄誉賞に相当するパドマ・シュリ賞をゴンド・アーティストとして初めて受賞し、インド政府から表彰された。

 

‎2023年8月に⽇本初となる個展「Bhajju Shyam KYOTO」が世界遺産・東寺(京都)にて開催され、19⽇間の開催で延べ約1万人が来場したほか、本人も初来⽇を果たし、アーティスト・イン・レジデンスにて京都での体験に基づく作品を制作した。

 

Information

「Bhajju Shyam KYOTO 2025 いのち の かたち」

会期

2025年10月10日(金)~10月28日(火)

開館時間

9:30 - 16:30 ※会期中無休

会場

世界遺産 真言宗総本山 東寺[教王護国寺]・食堂(じきどう)

住所

京都市南区九条町1番地

入場料

無料

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Photo by

Yayoi Arimoto

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