1.ナン/Naan
近年は日本でも知られてきていることだが、インドでナンを口にする機会は思いのほか少ない。タンドール窯のあるようなちょっと高級な北インド料理店でしか見かけないので、ナンを一度も食べたことのない庶民も少なくないだろう。ただ、バターチキンカレーなどの一部の肉料理との相性は抜群。
|地域・都市=北インド
|原材料=精製した小麦粉、イースト菌
|調理法=発酵させた生地をタンドール窯で焼く
|食感=外はパリパリ、中はもっちり
インドでパンといえばナンを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、実はインドはパンの宝庫でナン以外にもパンの種類がたくさんあるんです! 約20年前よりコルカタやムンバイで修業をつづけるタブラ奏者のU-zhaanさんが、地域、材料、調理法などその特徴をまとめてくれました。
Photo : U-zhaan, TAKAHIRO ARAI
Text : U-zhaan
*本記事は、『TRANSIT65号 世界をパンをめぐる冒険 創世編』の記事の一部を抜粋しています。
今年2月にムンバイで、マルワニ料理の専門店を訪れた。マハラシュトラ州からゴア州にかけてのアラビア海沿岸、マルワニと呼ばれる地域の料理だ。魚カレー定食を注文。主食となるパンは選べると聞き、メニューを開く。まず目に入ってきたのはチャパティだが、その先がひとつもわからない。同行していたサントゥール奏者の新井孝弘くんに「このバクリとかアンボリとかって知ってる?」と聞くと、彼は丁寧に解説してくれた。
「バクリは、端的にいえば米粉でつくったチャパティ。アンボリはウッタパンのマハラシュトラ版といえばわかりやすいかな。ワデは雑穀でつくった揚げパンで、ノンベジ料理と一緒に食べることが多いです」。20年近く通っている街にまだ知らないパンがこれほどあることにも驚いたし、西インドのパン事情に新井くんが詳しいことにも驚いた。新井くんの力を借りてパン図鑑を作り、僕もインドのパンに詳しい人になりたい。
近年は日本でも知られてきていることだが、インドでナンを口にする機会は思いのほか少ない。タンドール窯のあるようなちょっと高級な北インド料理店でしか見かけないので、ナンを一度も食べたことのない庶民も少なくないだろう。ただ、バターチキンカレーなどの一部の肉料理との相性は抜群。
|地域・都市=北インド
|原材料=精製した小麦粉、イースト菌
|調理法=発酵させた生地をタンドール窯で焼く
|食感=外はパリパリ、中はもっちり
今から24年ぐらい前、シタール奏者の石濱匡雄さんからラジャスタン料 理 店のランチに誘われた。そのときにはじめて食べたバティが異常に硬かったのだ。それを最後に食べずにいたのだが、新井くんが「え、ダルと一緒に食べるバティかなりおいしいですよ?」と言うので、もう一度試してみたい。
|地域・都市=ラジャスタン
|原材料=全粒粉、スパイスなど
|調理法=オーブンで焼く
|食感=(僕の記憶では)硬い
ムンバイを州都とするマハシュトラの海岸沿い、マルワニ地方で食べられている揚げパン。チキンカレーやフィッシュカレーと一緒に食べられることが多いらしい。今年はじめて食べたのだが、そのときは新井くんが注文したのをひとつもらっただけだったので、またしっかり食べてみたい。
|地域・都市=マハラシュトラ
|原材料=アワ、ヒエなどの雑穀
|調理法=揚げる
|食感=さっくり
薄く焼いた、クリスピーなクレープ。見た目も食感も楽しいうえ、おいしい。ジャガイモが包まれた「マサラドーサ」は、全インド的な人気を誇る。主にサンバルとココナッツチャトニーとトリオ編成で出てくるが、値段が高い店になるとチャトニーの種類を増やして高級感を演出することが多い。
|地域・都市=南インド
|原材料=米粉、ウラド豆
|調理法=発酵させた生地を薄く伸ばして焼く
|食感=パリパリ
米粉とウラド豆の粉を発酵させたことに由来する絶妙な酸味のある蒸しパン。今後の人生で食べる朝食を1種類に決めなければならない、と神様から言われたなら、僕はイドゥリとサンバルを選ぶだろう。サンバルに浸ったイドゥリをスプーンで崩し、ドロドロにして食べたい。
|地域・都市=南インド
|原材料=米粉、ウラド豆
|調理法=発酵させた生地を蒸す
|食感=蒸しパンの食感
タブラ奏者
U-zhaan(ゆざーん)
1977年、埼玉県生まれ。オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインの両氏にタブラを師事。20年以上前からほぼ毎年インドを訪ね、長期滞在してタブラ修業に励んでいる。
1977年、埼玉県生まれ。オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインの両氏にタブラを師事。20年以上前からほぼ毎年インドを訪ね、長期滞在してタブラ修業に励んでいる。
TRANSIT最新号『世界のパンをめぐる冒険』では、ここで紹介したインドのパンのほかに、世界中のさまざまなパンについて特集しています。また、発酵の歴史や各国の食文化のことなど、盛りだくさんな一冊です。ぜひ本誌をお手に取ってみてください。