動詞別で台湾を読み深める「もうひとつの台湾特集」の「きく編」!
取材をする間、車の中で流していた台湾のシティポップ、歌謡曲からフォークまで……あのときの曲をもう一度聴きたい! というわけで、一緒に取材をしていた写真家Kris Kangさんと台湾のDrive MusicをPlaylistにしました。
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T
こんにちは、取材ではたくさんお世話になりました! そして今回の台湾特集の表紙はKrisさんの写真でしたね。ありがとうございました。
Kris
お疲れ様でした! 無事に雑誌が出来上がってよかった。カバーが僕の写真になったのはびっくりでした(笑)。
T
Krisさんには手仕事の取材の撮影をお願いしていて、台南、苗栗、台北、坪林……と、車で台湾を巡りましたね。
最初にKrisさんの車に乗せてもらったときにかかっていたのが、日本の歌謡曲のラジオで。そこから音楽の話で盛り上がって、台湾のアーティストのことを教えてもらいながらいろんな曲をかけて移動したんですよね。そのときの曲がどれもよくて! なのでKrisさんと話しながらドライブしたくなるPlaylistをつくろうというのが、今日のお題です。
Kris
了解です。ちょうど昨日も桃園の野球場でやってた「FireBall Fest.火球祭」に行ったよ。
T
おぉ、どんなアーティストがいたんですか?
Kris
T
いいなぁ! 車でも聴いてましたね。台湾のアーティストって、漢字と英語のダブルネームがあるのがいい。落日飛車だと私は「My jinji」が好きです。
Kris
昨日のライブでも、韓国のミュージシャン「HYUKOH(ヒョゴ)」のVo、OHHYUK(オ・ヒョク)がその曲を一緒に歌ってたよ。僕は、落日飛車 feat.OHHYUKの「Candlelight」が哀愁があって好き。サンセットのドライブにぴったりだと思う。落日飛車とHYUKOHのコラボアルバム『AAA』もいいよ。
T
落日飛車の曲はほとんど英語ですよね。それに韓国のミュージシャンと一緒に組んでいて、海外志向ですよね。
Kris
よく海外でライブもしているしね。
T
TRANSIT台湾特集の音楽企画でも、落日飛車をはじめ海外進出している台湾アーティストが増えてきているという話をしてました。
Kris
見たよ! 「9m88(ジョウエムバーバー)」と「傻子與白痴 Fool and Idiot(シアツユィパイツー)」のインタビューをしていたよね。バーバーさんは前に撮影したことがある。
T
そうなんですね! 9m88だとどんな曲を聴きますか?
Kris
ラッパーのLeo王(リオ・ワン)とコラボした「陪你過假日」とか、馬念先(マ・ニェンシェン)とコラボした「你朝我的方向走來」が好きかな。ドライブにも合うシティポップな曲。馬念先は、日本と台湾を舞台にした映画『海角七號』にも出演していて、音楽家としても俳優としてもすごくかっこいい人。今はあまり活動してないけど、「糯米糰(Sticky Rice)」っていうバンドも組んでいて、「巴黎草莓」という曲が有名。ライブだとみんなが合唱できるぐらい知られているよ。
T
傻子與白痴のアーティスト名って、台湾だとどういう意味なんですか? 日本語の白痴にしても、英語のFool and Idiotにしても……。
Kris
台湾では「バカとアホ」っていう意味だよ。バンド名から想像できないくらい、彼らの曲は音楽的でかっこいいけど。中国のレーベルに所属しているミュージシャンだね。車で聴きたい曲だと……「美好前程」が夜のドライブに合うと思う。
T
(〜♪)たしかに夜の街灯をすり抜けていくような、ロマンチックでかわいい曲ですね。
Kris
でも悲しい歌詞なんです。このバンドで一番好きな曲。彼らの歌い方は台湾華語よりもちょっと中国の北京語よりの発音で、台湾じゃなくて中国のバンドみたいにも聞こえる。
T
台湾と中国の発音ってどう違うんですか?
Kris
すごくざっくりいうと、北京語のほうが巻き舌になる感じかな。
T
なるほど、どんな言葉で歌っているかも気になってきますね。誌面のユースカルチャー企画「台北ニュージェネレーション」では「我是機車少女 I’mdifficult」にも取材してるんですけど、「yume」の歌みたいに、台湾華語、日本語、英語の混ざった曲もあっておもしろいアーティスト。彼らのなかで好きな楽曲はありますか?
Kris
「Last Summer」が好き。若者の間でじわじわと流行ってきてる。ちなみにMVに出てくる俳優の林廷憶(リン・ティンイー)さんは、台湾のNetflixドラマ「女優:ボーントゥシャイン」にも出ていて、とても旬の人ですよ。
T
Netflixオリジナルドラマって土地柄が出ていておもしろいですよね。芸能界の光と影か……気になる。
あとは同じユースカルチャー企画で「Bremen Enterteinment Inc. 布萊梅」という台湾インディーシーンを騒がせているサイケロックバンドにも取材しているんです。
Kris
えぇ、知らなかった、聴いてみる! (〜♪)すごくかっこいいね。好きだな。アートワークもいい。
T
Bremenは、自宅で制作したアルバム『The Great Bremen Show』で、2024年の台湾インディー音楽アワード「The Golden Indie Music Awards」のベストアルバム賞をとったって聞きました。
そういえば、台湾語で歌っているアーティストも教えてくれましたよね。
Kris
「拍謝少年 Sorry Youth(ソーリーユース)」ですね! 僕が一番好きなバンド。
T
そうソーリーユース! いろんな年齢層が好きですよね。台北で火鍋ショップで注文に困っていたときに、隣のテーブルに座っていたかわいらしい大学生の女の子が火鍋の食べ方を教えてくれたんだけど、話が盛り上がって台湾アーティストのおすすめを聞いてたら、その子も「まずはソーリーユースを聴いて!」って言ってました。
Kris
みんな好き(笑)。さっきも話していたけど、彼らは台湾語で歌うんです。MCでも台湾語。台湾の民族意識がすごく強いバンド。
T
台湾の言語は、一番話者が多いのが台湾華語で、中国語の北京語に近い言葉ですよね。次に話されているのが台湾語で、ルーツは400年以上前に中国の福建省から渡ってきた人たちが話していた言葉だと聞きました。
ただ、第二次大戦後に中国統治がはじまると、台湾の国語を北京語に定められて、一時期は台湾語で話すことが禁止されていたんですよね。お年寄りや南部では台湾語の文化が残っているけど、若者だと台湾語がわからない人が多いと聞きました。
Kris
そう。僕も台湾語が理解できるときとそうじゃないときがある。ソーリーユースのメンバーは南部の高雄出身なんだよね。彼らの歌詞のことでいうと、少し前の台湾政治への不満や哀愁を歌にしていたりするんです。最近はちょっと違うけどね。ラブソングとか仲間とか家族の曲も歌うようになって、柔らかくなってきた。僕は「歹勢中年」が好き。歳をとることを前向きに歌ってる。
T
私は「暗流」が気になりました。
Kris
たぶんこのバンドで一番聞かれている楽曲。昔の政治の苦しさ、労働に対しての怒りや不満、あとは故郷への寂しさを歌っています。
最新アルバム『噪音公寓』もいい。たとえば「共身軀完全放予去」はジェンダーについての曲。少し複雑な三角関係の歌なんです。MVがすごくおもしろい。
T
(〜♪)あ、女の子も歌ってる。
Kris
そう。Enno Chengもすごく有名なヴォーカル。
T
(MVを観ながら)男の子ふたりと女教師がでてきて、切ない青春映画みたい……。
Kris
3分30秒からじっくり観てください!
T
これは……攻めた展開ですね! 三角関係のその先をいってますね。
Kris
性に対して開放的で、他人に対してあまり干渉しないところが台湾らしい気がする。
そういえば台湾語で歌うメタルバンドもありますよ。「Flesh Juicer 血肉果汁機」っていうグループ。
T
へぇ! 台湾ってメタルはやってるんですか?
Kris
うーん、メジャーなシーンではないかもですね。若い子はラップをみんな聴いてるかな。でもこのバンドはよく知られてて、マキシマム ザ ホルモンみたいな感じかな。
T
(〜♪)あ〜、渋滞にハマったり眠いときに聴いたら、スカッとしそうですね。
Kris
うん、目が覚めるでしょ。台中出身で故郷への愛を歌った曲が多いから、元気ももらえるんだよね。
T
そういえば、誌面ではテレサ・テンも特集しているんですよ。知っていますか?
Kris
もちろん、鄧麗君(デン・リーチュン)ね! 台湾の人、みんな知ってる。
T
(笑)。台湾だとどの曲が有名ですか?
Kris
全部有名だけど、僕は「千言萬語」が好き。
T
(〜♪)おぉ、ムーディーなイントロ。
Kris
昭和っぽいでしょ。古典的できれいな歌詞。
T
日本だと、「時の流れに身をまかせ」「つぐない」みたいな、悲恋の歌が多いイメージだけどこの曲は雰囲気が違いますね。
Kris
T
(〜♪)ポップですね! 歌い方に丸みがあって台湾の言葉が美しく聞こえる。「ラヴ・イズ・オーヴァー」とか「雨の御堂筋」みたいなソウルフルで拳のきいた感じともまた違いますね。
T
Krisさん、「交工樂隊」って知ってます? 知り合いから教えてもらって、曲を聴いていると台湾の田園風景が見えるようですごくいいんですよね。でも今はあまり活動していないみたい……。
Kris
知ってる、20代の頃にライブを観たことある(笑)。たしかにバンドはもう解散してるのかも。ヴォーカルの林生祥は作曲家や歌手として活躍してて、台湾の音楽賞ももらっている人だよ。彼は客家の音楽をやっている。客家の伝統音楽で客家八音というものがあるんだけど、それがベースになっているんだと思う。
T
へぇ、知らなかった。台湾取材をしているときに、おいしいと思ったら客家料理だったり、書店でかっこいいタブロイド誌を見つけたと思ったら客家のことを扱ったものだったり(『靛花tien faˊ』)、気がつかないうちに客家カルチャーに出合ってました。交工樂隊の「縣道184」が好きなんだけど、これも客家の言葉で歌っているんですか?
Kris
そうですね。美しい詩みたいな曲。昔の客家の生活が厳しかったことが音楽になってる。
T
(Googleで検索)本当だ、林生祥さんは高雄の美濃出身で実家は客家農家だって書いてある。今は農業や環境問題に関心があるみたい。
Kris
彼は映画の劇伴も作曲していて、とくに有名なのが映画『大仏⁺』。下層階級の生活をとらえた映画です。おもしろいけどすごく悲しい話でもある。
T
音楽から映画の話にもつながっていって、いろいろ気になりますね。そういえば世界の民族音楽を取り入れて曲をつくっている若いアーティストをKrisさんから教えてもらった気が……。
Kris
「雷擎 l8ching(レイチン)」ですね。最近も新しいアルバムをリリースしたばかり。アフリカの楽器を使ったりしてます。僕のおすすめは「Real World」。英語と台湾華語を混ぜながら歌ってる。
T
おぉ、これもまた全然新しい風を感じますね。
そういえば、Krisさんに教えてもらった台湾原住民族のSuming(スミン)さんの曲も、言葉はわからないけどあったかい雰囲気が印象に残ってます。
Kris
アミ出身のアーティストで、彼の曲は大体ポジティブ。何を歌っているか僕にも歌詞がわからない曲もあるけど。「Ho hay yan 喔嗨洋」が好き。”Ho hay yan”はアミの言葉で……初めて海を見たときの言葉だって解説されてる。
T
(〜♪)少し沖縄の民謡みたい。外で聴いたら気持ちよさそう。Sumingさんがやってる「阿米斯音樂節 Amis Music Festival」にも行ってみたいな。
Kris
いろんな原住民族の人が集まってものすごくおもしろいよ。2年に一度やっていて、次は2025年だったはず。
T
アミフェスの開催日、調べてみよ。音楽目当てに台湾を旅するのもいいですね!
出来上がったPlaylistはこちら!