連載:NIPPONの国立公園
National Parks of Japan.
連載:NIPPONの国立公園
TRAVEL & THINK EARTH
2025.10.26
5 min read
利尻富士がそびえる利尻島に、日本最北端の有人島である礼文島。
短い北国の夏、利尻山に見守られながら、昆布漁のはじまりを告げる漁師たちのお祭りと、
草原に咲く可憐な花々に迎えられて、2つの島を歩いた。
北海道の利尻礼文サロベツ国立公園への旅を前編「夏の利尻島へ」、後編「漁師の祭りが告げる、礼文島の夏」に分けてお届けします。
Photo : Yosuke Kashiwakura
Text:Maki Tsuga(TRANSIT)
「まもなく利尻島鴛泊港へ入港いたします」
稚内港からフェリーに乗り込んで1時間半ほど。船内アナウンスを聞いて、2等室で雑魚寝していた体をのそりと起こす。フェリーの窓から、やさしい曲線を描く緑の小高い丘と、穏やかな青い海が見える。絵本にでてくる遠い異国の世界みたい。
利尻島のフェリーターミナルから。島に着いてすぐに、不思議な地形が出迎えてくれる。
7月中旬で、気温22°C。連日40°C近い東京からやってきた身としては、天国のようだ。島をドライブしていると、サイクリストたちの姿をよく見かける。声をかけると、島を一周中とのことで、約60kmを自転車で6時間で走り切る予定だという。なかなかいい運動だ。
島にはサイクリストたちがいっぱい。ドイツ、フランス、アメリカから来た彼らは、利尻で出会って意気投合、一緒に島を一周しているところだという。
キャンプ場にテントを張って、近くの温泉へ向かう。「頂上まで登るのは大変ね。でも利尻富士は、それはもう楽園みたいだったわ。白、ピンク、黄色の花が一面に咲いていて」。露天風呂で浴客同士の会話が耳に入る。標高1,721m、百名山のひとつである利尻山は、登頂を目指すなら、朝4、5時から登山口を出発して、昼には登頂、暗くなる前に下山を終えるのが理想。利尻島には一泊の旅程だったので、今回は利尻山登頂は難しいけれど、次は登山もいいかもしれない。麓から利尻山を眺めながら寝袋の中で眠りに就いた。
〈キャンプ場 ゆ〜に〉でテント泊。
管理人の澤田知仁さんが営む〈キッチンカーリシリ〉のごはんが絶品。利尻産の魚を使ったフィッシュ&チップス、焼ニシンの押し寿司、ホッケ南蛮タルタル弁当を晩ごはんに。
この島で会いたい人がいた。利尻島生まれで山岳ガイドをしている渡辺敏哉さんだ。敏哉さんがオーナーをしているペンション〈レラモシリ〉の受付に声をかけると、よく日に焼けた男の人が宿の奥から笑顔でやってきた。
「小さい頃に何度か山に登ったり、よく海で遊んだりしていたけど、利尻がこんなに楽しい場所だって知ったのは、大人になって島に帰ってきてから」と敏哉さん。
利尻生まれの山岳ガイド、渡辺敏哉さん。登山はもちろん、サーフィン、シーカヤック、釣り、スノーボード、パラグライダー......春夏秋冬、山・海・空で自然と遊ぶ天才。ペンション〈レラモシリ〉では料理を振るまうことも。
春はクマゲラをはじめとする野鳥を探し、夏には草花を鑑賞、冬にはバックカントリースノーボードと、利尻山を遊び尽くす。20、30代の頃に湘南でサーフィンをしていた敏哉さんにとって、帰島してからは山だけでなく海も遊び場になった。波があればサーフィンへ、波が穏やかな日は船で漁に出て、と休む暇はない。
利尻山北麓野営場の森で見かけたアカゲラ。同じキツツキ科のクマゲラも生息している。
そんな敏哉さんに聞きたかったのが、山のことだった。もともと利尻山はスコリア(空隙をもつ火山性の岩石)が多く、地質的に足場が脆い。雨風の侵食に加えて、登山客が増えるほど、山が崩れやすくなる。1990年代の登山ブームで土壌の露出が深刻になり、2000年代に入ってから登山道の再整備がはじまった。現在は、プラスチック製の黒いコルゲート管で地盤を補強して、その上に草花が覆うことを想定した計画がたてられている。「しかし、その整備方法について賛否が分かれているというのだ。
「たとえ植生が戻っても、土の中には人工物が埋まったまま。土砂崩れが起きれば、それが流出する可能性もあるんです。今の登山道は直登型だから侵食が激しくなる。迂回しながら頂上を目指す登山道を造れば、もっと被害を抑えられるんじゃないか。もちろん、新たに道を造れば森を切り開く必要がでてくるんじゃないかという心配もあるでしょう。でも大規模な土木工事じゃなくていい。人が歩いて時間をかけて道をつけていって、それが自然と登山道になっていけばいい」と敏哉さんは話してくれた。
利尻山の登山道。火山性で崩れやすい地質のため、登山道のように人通りの多い場所は、排水路などに使われるコルゲート管で補強されている。
アイヌ語の「リイシリ(高い、山・島)」から名づけられた利尻島。島を訪れて、つくづくここは山の島だなと思う。フェリーで島を目指すとまず利尻山が出迎えてくれて、島内ではいつも山に見守られている。ここがいつまでも美しいリイシリであるようにと願うのだった。
本記事はTRANSIT69号より再編集してお届けしました。
日本の国立公園
北から南まで、日本に散らばる国立公園をTRANSIT編集部が旅した連載です。
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環境省・日本の国立公園