6月25日は『アンネの日記』が出版された日。
ナチス・ドイツの迫害を逃れて身を隠していた13歳のユダヤ人少女、アンネ・フランクが書き記した2年間の記録は、のちに70か国以上で翻訳され、戦争の悲劇と希望の象徴として読み継がれています。
© Diego Delso
アンネが家族とともに隠れ家での生活を始めたのは、1942年のこと。ナチス・ドイツに占領されたオランダでは、ユダヤ人への迫害が日ごとに厳しさを増していました。そうしたなか、アンネ一家はアムステルダムの「後ろの家」と呼ばれる建物の奥まった空間に身をひそめ、外の世界から完全に隔てられた静かな暮らしを送ることになります。
アンネ・フランクのパスポート写真(1939年)。
隠れ家での暮らしのなかで、彼女は思春期の揺れ動く内面と向き合いながら、家族との関係や閉ざされた生活のなかで感じた怒り、そしていつか訪れる未来への希望を、一つひとつ丁寧に言葉に綴っていきました。
しかし、そんな日々も長くはつづきません。1944年、隠れ家は密告によって突き止められ、アンネたちは家族もろともナチスの手に捕らえられます。その後、強制収容所へと送られ、アンネは終戦を目前に控えた頃、ドイツ北部のベルゲン・ベルゼン収容所で命を奪われました。
1945年5月、ベルゲン・ベルゼン強制収容所(別名:絶滅収容所)の解放。撤退から2日後、集まった人びとが、イギリス軍によって火炎放射器で焼かれる最後のバラックを見守った。
© Imperial War Museums
終戦後、家族で生き残ったのは父オットー・フランクただ一人。娘の残した日記を読み、そのなかにこめられた言葉の力に深く心を打たれた彼は、この記録を世界に広めることを決意します。
1947年、オランダで刊行された『アンネの日記』は、やがて世界各国で翻訳され、時代や国境を越えて広く読まれるようになりました。
戦争がいかにして日常を静かに壊し、個人の人生を容赦なく押しつぶしていくのかを、名もなき一人の少女のまなざしを通して、鮮烈に伝える貴重な証言たち。そこに記されているのは、銃声でも爆撃でもなく、食卓を囲む会話、窓辺に座る沈黙の時間、そして小さな希望と、言葉にできない不安でした。歴史の教科書には書かれない、ひとつひとつの感情が丁寧にすくい取られているのです。
だからこそ、この日記は読む人の心にまっすぐ届くのでしょう。戦争とは何か、平和とは何か。その問いの核心を、そっと差し出してくれるのです。
「世界をよりよくするために、誰も一瞬たりとも待つ必要がないなんて、なんて素敵なことでしょう」アンネ・フランクのこの言葉は、今もなお世界中の人びとの胸に響きつづけている。
© Chic Bee
6月25日は、『アンネの日記』が静かに世界に向けて語り始めた日。
戦争の記憶が遠ざかりつつあるいまだからこそ、改めて手に取りたい一冊です。
Yayoi Arimoto
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Yukimi Nishi
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