鮭好きにはたまらない! 
新潟と鮭の深くておいしい関係

連載:47都道府県ローカルのすゝめ|新潟県vol.3

鮭好きにはたまらない!
新潟と鮭の深くておいしい関係

People: 新潟県

TRAVEL&EAT&THINK EARTH

2025.02.27

5 min read

北は北海道から、南は沖縄まで、ひとくちに日本といっても、食べ物、お祭、習慣、自然が織りなす景色まで個性はさまざま。その土地ならではの愉しみ方は、その土地の人に訊くのが一番!そんな日本各地の地元ネタを集めたのが、この連載「47都道府県ローカルのすゝめ」です。

新潟県のvol.3では、新潟県村上市に伝わる唯一無二の鮭カルチャーについて。教えてくれたのは、新潟市出身で新潟県観光協会の渡邉紗生さん!

Text:Saki Watanabe

みなさん、「イヨボヤ」という言葉を知っていますか?
あまり聞き馴染みのない響きかもしれませんが、新潟県村上市の方言で「鮭」を意味します。

「イヨ」は「ウオ(魚)」のこと、「ボヤ」も同じく魚を指します。これは、魚という意味をもつ言葉を二つ並べることで、鮭こそが「魚の中の魚」であるという最高の敬意を表しているのです。

今回は、新潟県村上市の「鮭文化」にフォーカスした旅をご提案します。
この記事を読んだあと、あなたもきっと鮭がもたらす恩恵を知り、その文化を体感してみたくなるはず。村上が誇る「イヨボヤ」に親しむ旅へ、さあ出かけましょう。

澄み切った碧い海が美しく、日本屈指の透明度を誇る新潟県村上市の海岸線「笹川流れ」。奇岩や岩礁など変化に富んだ風景が広がり、豪壮な景観は国指定の名勝及び天然記念物となっています。雄大な造形美を堪能するには遊覧船がおすすめ。

新潟県村上市で育まれた唯一無二の鮭文化とは?

新潟県の最北に位置する「鮭のまち村上」。その歴史は古く、平安時代には鮭を税として納めていたことが文献に残っています。冬場の食料に瀕したときも、鮭によって飢えをしのぐことができたといわれており、移ろう時代のなかで変わらず愛されてきました。そして江戸時代から城下町となった村上において、鮭は藩にとって大切な収入源となり、その後も現代にいたるまで人びとの生活を支えつづけてきたのです。

城下町の風情が漂う黒塀が続く村上市の「黒塀通り(安善小路)」。通りには寺院や有名割烹が立ち並び、歴史と趣が感じられます。

村上では、冬になると民家の軒先に塩引き鮭が吊るされるのが風物詩です。
武家社会での切腹を避けるため、お腹につなぎ目を残す「止め腹」という切り方をしていることや、首吊りを連想させないために頭を下にして吊るしていることは、古くよりこの地域を救ってくれた鮭への慈しみから。1,000年もの長い時間のなかで、唯一無二の鮭文化が育まれてきたのです。

鮭が遡上する「三面川」と、江戸時代から続く「居繰網漁」のこと

古くから鮭が遡上すると名高い「三面川(みおもてがわ)」。
毎年秋から初冬にかけて、漁師たちが鮭漁を行う姿を見ることができます。そんな三面川だけに残る「居繰網漁(いぐりあみりょう)」とは、江戸時代から伝わる伝統漁法のこと。「小回し舟」という川舟で三面川の流れに乗り、網を操りながら八の字を描くように川を下っていきます。川を上ってくる鮭が網にかかると、双方の漁師が呼吸を合わせて網を上げて鮭を捕ります。

「居繰網漁」の様子。二艘の舟の間に張られた網を漁師が巧みに操っています。

© 提供:ニイガタ カルチャー ツーリズム

今に伝わる伝統漁法がうまれたさなか、江戸時代後期には川に遡上する鮭の数が減り、不漁が起こった歴史があります。当時は鮭の生態も分からず人びとが途方にくれているところ、ピンチを救ったのは長年鮭を観察し続けてきた青砥武平治(あおとぶへいじ)という侍でした。彼は、生まれた川に必ず帰ってくるという鮭の「回帰性」に着目。鮭が産卵しやすい環境を整えるため、人口の分流「種川」をつくることを提案し、30年もの歳月をかけて自然ふ化増殖システムをつくり上げました。

「三面川鮭魚養殖場之図」図の中央下部:三面川に分流を作り、鮭が産卵しやすい環境を整えました。

© 所蔵:イヨボヤ会館/提供:一般社団法人 村上市観光協会

これにより鮭の数は増加し、村上藩の財政に大きく貢献。鮭の自然保護増殖は世界で初めてのことであり、村上は鮭のまちとして新たな一歩を踏み出したのです。
 
ここからは、村上の鮭文化を体感できる名店を見ていきましょう。

天井から吊り下がる約1,000尾の塩引き鮭は圧巻〈千年鮭 きっかわ〉

鮭の加工品製造・販売を行う〈千年鮭 きっかわ〉。1626年創業、現在は15代目の吉川真嗣(きっかわしんじ)社長が鮭への慈しみを伝え継ぎます。

そもそも塩引き鮭とは、エラや内臓を出した鮭に丁寧に塩をすり込み、数日間置いた後に水洗いし、軒先などに吊るして数週間じっくりと干したもの。村上の湿気を帯びた寒風は鮭の低温発酵に最適であり、鮭のタンパク質がアミノ酸の旨み成分へと変化して、熟成された独特の風味が生み出されます。

鮭の塩引きをはじめとして、店内に並ぶさまざまな鮭の加工品は化学調味料や添加物を一切使用しておらず、自然の恵みを最大限に活かした製品。食べる前にお酒をかけて食べる風習から名がついた「鮭の酒びたし」は、凝縮された旨みを感じられる最高の一品ですので、ぜひ一度味わってみてくださいね。

Information

千年鮭 きっかわ

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鮭料理専門店〈千年鮭 きっかわ 井筒屋〉

塩引き鮭を目に焼きつけたあとは、徒歩3分ほどのところにある鮭料理専門店〈千年鮭 きっかわ 井筒屋〉へ。
 
鮭の命を尊び、決して粗末にしてはならないという想いからうまれた100種類もの鮭料理。鮭とともに歩んだ1,000年の歴史は現在も郷土料理として受け継がれ、頭の先から尾まで余すことなく、さまざまな調理法を駆使して提供されています。

井筒屋のメニューは、鮭料理8品/3,025円から、もっとも数が多い鮭料理22品/7,843円まで提供しています。

村上の方言で「どんびこ」と呼ばれる鮭の心臓や、平安時代の珍味・鮭の鮨葅(きそ)、腎臓を塩だけで2年寝かせた背腸の塩辛など、ここでしか味わうことのできない食体験が待っていますよ。
 
代表的な塩引き鮭は、鮭の文字が書かれた七輪で自ら焼くスタイル。

土鍋で炊いたこだわりの関川村産コシヒカリと相性抜群です。

〆には、「北限のお茶処」といわれる村上のお茶をたっぷりかけた鮭茶漬けをいただきます。

鮭を味わい尽くすことで、鮭への感謝の気持ちを実感できます。先人の知恵が生み出した村上の鮭文化を、ぜひご堪能ください。

Information

千年鮭 きっかわ 井筒屋

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古くから鮭が遡上すると名高い川、江戸時代から続く漁法、100種類にも及ぶといわれる鮭料理、そして鮭への慈しみを伝え継ぐ人びと。さまざまな要素が合わさり、唯一無二の鮭文化が育まれた村上へ、ぜひ訪れてみてくださいね。

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Yayoi Arimoto

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