#What's バリ・ヒンドゥー教?
バリ島の神様図鑑
多神教だけど唯一神がいる?

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#What's バリ・ヒンドゥー教?
バリ島の神様図鑑
多神教だけど唯一神がいる?

2024.09.20

6 min read

毎日、島のどこかでお祭があって、朝夕には「チャナン」というお供えものを捧げるインドネシアのバリ島の人びと。旅をしていると、"神々の島"とも呼ぶべき島の風景に出会い、驚く人も多いかもしれません。

島民のおよそ9割が信仰しているのが、バリ・ヒンドゥー。バリ・ヒンドゥーの神々や聖獣は、人びとの暮らしに取り入れられることで幾重にも複雑化し、インドのヒンドゥー教とは異なる世界観をもって昇華されてきました。ここではバリ島に棲まう、神々について解説。信仰世界を覗くことで、旅の光景もきっと変わってくるはず!

illustration : NAOKI SHOJI / text : TRANSIT

※この記事はTRANSIT32号「美しき神の島へ」から再編集したものです。

▶︎すべての神は〇〇〇の化身?

バリ・ヒンドゥーの最大の特徴は、唯一神がいること。インドのヒンドゥー教と同じように、シワ(シヴァ)、ウィスヌ(ヴィシュヌ)、ガネーシャといった多くの神々がいるのだが、”すべての神は、唯一神サン・ヒャン・ウィディ・ワサの化身である”という前提をもっていることだ。

これは世界有数のイスラーム国家であるインドネシア共和国が定めた、建国五原則の「唯一神に対する信仰」の影響によるもの。バリ島は島民の約9割がバリ・ヒンドゥーを信仰しているが、インドネシア国内でみると90%近くがムスリムであるため、バリは少数派にあたるのだ。そこでバリ島では、ヒンドゥーの神々をすべて”サン・ヒャンの化身”ということにした。そうして心置きなくバリ・ヒンドゥーを信仰できるようになったのだ。

日々あちこちで行われる儀礼や供物の光景を見れば、唯一神よりもヒンドゥーの神々、そしてそれ以上に、地域ごとの土着神や家系の祖霊、およびさまざまな物体に宿る霊魂を崇拝していることがわかる。

では、なぜバリ島はイスラーム化せずに、独特の信仰が根付いているのだろう? 実は、4〜5世紀にインドからジャワ島を経由してバリ島にヒンドゥー教が伝わってきたように、インドネシアのほかの島々でもヒンドゥー教が信仰されていた。しかし、16世紀に入るとイスラーム勢力が強まり、当時、インドネシアの広域を治めていたヒンドゥー教国・マジャパヒトの僧侶や臣民たちがバリ島に逃げてきたのだ。そのためバリ島にはヒンドゥー教文化が色濃く残ったのだ。

<p><strong>御神徳=子孫繁栄、治水守護</strong><br />
バリ・ヒンドゥーの3大神のひとり。壊滅的な災いからこの世を助ける救世主。神話では怒り狂うガルーダを説得し、アメルタ(聖水)が邪悪な者の手に渡るのを防いだことで有名。</p>

●ウィスヌ

御神徳=子孫繁栄、治水守護
バリ・ヒンドゥーの3大神のひとり。壊滅的な災いからこの世を助ける救世主。神話では怒り狂うガルーダを説得し、アメルタ(聖水)が邪悪な者の手に渡るのを防いだことで有名。

<p><strong>御神徳=無病息災</strong><br />
神聖な鷲で、ウィスヌの乗り物。国営航空会社やインドネシアの国章。神話では人びとに恐れられる蛇・竜のたぐい(ナーガ族)と敵対関係にあり、それらを退治する聖鳥として崇拝されている。</p>

●ガルーダ

御神徳=無病息災
神聖な鷲で、ウィスヌの乗り物。国営航空会社やインドネシアの国章。神話では人びとに恐れられる蛇・竜のたぐい(ナーガ族)と敵対関係にあり、それらを退治する聖鳥として崇拝されている。

<p><strong>御神徳=世界の破壊</strong><br />
ドゥルガはシワの妻で、バリでは魔女ランダの顔も併せもつ。墓場に住み人を食べる奇怪な老婆で、舌を出し、あばら骨に萎なびた乳房が特徴。 「悪」の象徴で、バロンと対を成す。</p>

●ドゥルガ

御神徳=世界の破壊
ドゥルガはシワの妻で、バリでは魔女ランダの顔も併せもつ。墓場に住み人を食べる奇怪な老婆で、舌を出し、あばら骨に萎なびた乳房が特徴。 「悪」の象徴で、バロンと対を成す。

<p><strong>御神徳=学業成就、芸能上達</strong><br />
ブラフマが創造し、妻となった女神。4本の腕をもち、うち2本で琵琶に似た弦楽器を弾く。インドでは芸術の神とされるが、バリではとりわけ勉学の女神に位置づけられる。</p>

●サラスワティ

御神徳=学業成就、芸能上達
ブラフマが創造し、妻となった女神。4本の腕をもち、うち2本で琵琶に似た弦楽器を弾く。インドでは芸術の神とされるが、バリではとりわけ勉学の女神に位置づけられる。

<p><strong>御神徳=世界の破壊</strong><br />
3大神のひとり。世界の寿命が尽きたとき、世界を破壊して次の創造に備える役目。そのことから、「死」はよりよい人生に生まれ変わるためにシワがもたらすもの、と信じられている。</p>

●シワ(シヴァ)

御神徳=世界の破壊
3大神のひとり。世界の寿命が尽きたとき、世界を破壊して次の創造に備える役目。そのことから、「死」はよりよい人生に生まれ変わるためにシワがもたらすもの、と信じられている。

<p><strong>御神徳=五穀豊穣</strong><br />
稲穂を手に持つ稲の女神で、ウィスヌの妻。神話では、あまりの美しさが原因で毒殺されたスリ。その墓から誰も見たことのない植物(稲)が生えてきて、農耕がはじまったとされる。</p>

●スリ

御神徳=五穀豊穣
稲穂を手に持つ稲の女神で、ウィスヌの妻。神話では、あまりの美しさが原因で毒殺されたスリ。その墓から誰も見たことのない植物(稲)が生えてきて、農耕がはじまったとされる。

<p><strong>御神徳=家内安全、火防開運、火難除け</strong><br />
3大神のひとりであり、4つの顔をもつ創造の神。世界の創造と破壊後の再創造を担当している。「火」そのものとされ、ダイナミックな原動力のシンボル的存在。</p>

●ブラフマ

御神徳=家内安全、火防開運、火難除け
3大神のひとりであり、4つの顔をもつ創造の神。世界の創造と破壊後の再創造を担当している。「火」そのものとされ、ダイナミックな原動力のシンボル的存在。

<p>御神徳=商売繁盛、智慧明瞭<br />
シワとパールヴァティの息子。パールヴァティが息子の体を密かに清めようとしたところ、夫のシワが怒り、息子と知らずガネーシャの首をはねてしまう。慌てて象の首をはめたのが、有名な誕生逸話。</p>

●ガネーシャ

御神徳=商売繁盛、智慧明瞭
シワとパールヴァティの息子。パールヴァティが息子の体を密かに清めようとしたところ、夫のシワが怒り、息子と知らずガネーシャの首をはねてしまう。慌てて象の首をはめたのが、有名な誕生逸話。

<p><strong>御神徳=特になし</strong><br />
バリ・ヒンドゥーのオフィシャルな唯一神とされる神。別名チンティア。基本的には目に見えないとされるが、身体の節々から胎内気が炎となって放射するこの姿で描かれる。</p>

●サン・ヒャン・ウィディ・ワサ

御神徳=特になし
バリ・ヒンドゥーのオフィシャルな唯一神とされる神。別名チンティア。基本的には目に見えないとされるが、身体の節々から胎内気が炎となって放射するこの姿で描かれる。

▶︎聖なる場所

<p>バリ島の最高峰で、古来より山を神聖視してきた島民にとっての最高聖地。山のあるほうが聖なる方角とされるため、村や家では重要な寺が、寺の境内では重要な祠が、この山の方角に建てられる。</p>

●アグン山

バリ島の最高峰で、古来より山を神聖視してきた島民にとっての最高聖地。山のあるほうが聖なる方角とされるため、村や家では重要な寺が、寺の境内では重要な祠が、この山の方角に建てられる。

<p>アグン山の麓にあり、島内のすべてのプラ(寺院)を統括する総本山。中心にはバリ・ヒンドゥーの3大神を、周囲にはバリ島全土の祖霊を祀った寺院が配置されている。</p>
<p>©︎Sean Hamlin</p>

●ブサキ寺院

アグン山の麓にあり、島内のすべてのプラ(寺院)を統括する総本山。中心にはバリ・ヒンドゥーの3大神を、周囲にはバリ島全土の祖霊を祀った寺院が配置されている。

©︎Sean Hamlin

▶︎バリ・ヒンドゥーの世界観

<p>シワ神を円の中心に、その八方にそれぞれ守護神を配した方位陣も、バリの信仰世界では重要な概念。各方位には武器、色、動物、音が付随していて、重要な9大寺院の配置もこの方位に対応している。</p>

方位陣「ナワ・サンガ」と神様

シワ神を円の中心に、その八方にそれぞれ守護神を配した方位陣も、バリの信仰世界では重要な概念。各方位には武器、色、動物、音が付随していて、重要な9大寺院の配置もこの方位に対応している。

<p>世界が天上・地上・地下に3分されるという「三界思想」も、暮らしを大きく左右する世界観だ。ただの思想ではなく、山=神の住む”浄”の天上で、村=”俗”の地上、そして海=魔神の住む”邪”の地下という具合に、現実に直接結びつき解釈される。</p>
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<p>さらにこれに、太陽の3方位(昇る東を”浄”、中空を”俗”、沈む西を”邪”)の概念をかけ合わせた、”浄”レベルが9段階ある世界観が存在する。寺院や家屋の構造、供物の位置など万物を決める際の基準になるのがこれだ。</p>

9つの"浄"レベルで捉える

世界が天上・地上・地下に3分されるという「三界思想」も、暮らしを大きく左右する世界観だ。ただの思想ではなく、山=神の住む”浄”の天上で、村=”俗”の地上、そして海=魔神の住む”邪”の地下という具合に、現実に直接結びつき解釈される。

 

さらにこれに、太陽の3方位(昇る東を”浄”、中空を”俗”、沈む西を”邪”)の概念をかけ合わせた、”浄”レベルが9段階ある世界観が存在する。寺院や家屋の構造、供物の位置など万物を決める際の基準になるのがこれだ。

バリ島を歩くときには、深淵なるバリ・ヒンドゥーの信仰世界をぜひ思い出してみてください!

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ハワイ島、バリ島、出雲・隠岐

美しき神の島へ

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Masumi Ishida

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