●香りづけ(賦香効果)
もっとも重要な働きのひとつであり、ほとんどのスパイスが豊かな香りをもっている。スパイスを料理に加えることで、その香りが食材の味を引き立たせるほか、食欲を増進させる効果も期待できる。
胡椒に花椒、唐辛子にシナモン、クミン、クローヴ、ナツメグにカルダモン……。世界にはいろんなスパイスがあって、きっとあなたの台所にもいろんなスパイスが常備されているかもしれない。
個性豊かなスパイスだけれど、食べ物としての機能は大きく4つ「香りづけ」「色づけ」「辛みづけ」「臭み消し」に分類されます。ほとんどのスパイスが複数の作用を同時にもち合わせています。まずはスパイスの食べ物としての機能をみていきましょう。
もっとも重要な働きのひとつであり、ほとんどのスパイスが豊かな香りをもっている。スパイスを料理に加えることで、その香りが食材の味を引き立たせるほか、食欲を増進させる効果も期待できる。
スパイスによる呈味効果(味を与えること)は、そのほとんどが辛味性を期待され用いられている。ひと口に辛味といっても、ピリッとしたり、ヒリヒリしたりその種類はさまざま。唐辛子、胡椒、山椒などそれぞれ別の辛味成分をもっている。
パエリアやブイヤベースの鮮やかな黄色もスパイスによるもの。色づけに用いられる代表的なスパイスであるサフランはアヤメ科の植物で、めしべの水溶性の色素成分によって食べ物を黄色に染め上げる。たくあんの黄色も、実はスパイスのなせる技。日本のスパイスであるクチナシによる色なのだ。
肉や魚などの生臭さや、野菜の青臭さを香りによって感じにくくする(マスキングと呼ばれる)効果がある。とくにニンニクやネギなどのユリ科の植物は臭みを取り除き、シソ科のスパイスやハーブは、科学的に消臭効果が認められている。
スパイスを使った料理を食べていると、「おいしい!」だけじゃなく、身体がさまざまな反応を示しているような……。それは気のせいではなく、たしかに人体に刺激を与えているんです。ここからはQ&A方式で、日常の食事シーンで感じる疑問から、スパイスと生理機能のメカニズムを解説していきます。
A.精油(エッセンシャルオイル)と呼ばれる揮発性の成分
精油は、植物から産出される揮発性の油。これが香りの正体です。スパイスを口にしたとき、ヒトのもつ2つの嗅覚経路で香りを感知しています。立ちこめる匂いを鼻先から感じる「オルソネーザル」と、口にしたあとに鼻に抜ける香り「レトロネーザル」によって食べ物の風味を豊かにします。
A.牛乳やヨーグルトなどの乳製品がおすすめ
刺激をやわらげるのに、どうしても冷たい水を飲みたくなりますが、実は逆効果。カプサイシンなど多くの辛味成分は水に溶けにくいため、余計に辛く感じてしまいます。乳に含まれるタンパク質カゼインはカプサイシンと親和性があるため、辛味を舌から取り除くことができます
A.アドレナリン効果で、体温UP&発汗が促進されるから
生姜や唐辛子など体を温めるスパイスの辛味成分によって感覚神経が刺激されると、アドレナリンが分泌されます。そのためエネルギー代謝が活発になり、体温が上昇し発汗が促されます。また、汗が体表で蒸発するときに気化熱によって熱が奪われるため、クールダウン効果もあります。
A.刺激と多幸感の脳内ホルモンが分泌されているから
脳内では、知覚した痛み(=辛味)を抑えようと2つの神経伝達物質が分泌されます。β-エンドルフィンは鎮痛効果を示すほか、気分の高揚をもたらします。ドーパミンはやる気や幸福感を増幅させます。適度な刺激と、そのあとに感じる多幸感から、辛い食べ物がやみつきになるのです。
A.辛味成分「アリルイソチオシアネート」が鼻腔まで広がるから
山葵や辛子の「ツーン」とした辛味は、「アリルイソチオシアネート」という成分が関係しています。カプサイシンとは違って山葵の辛味成分には揮発性があり、口にふくむと気化して鼻のほうに抜けるため、独特の辛味を感じ、涙が出るのです。
A.独特の味や香りを楽しむほかにも、身体によい効果をもたらします
たとえば、生姜や山椒、シナモンなどは、生薬として漢方薬にも使われるスパイスで、唾液 の分泌を促したり消化管機能を増進させる「芳香性健胃生薬」として利用されています。食べ過ぎは禁物ですが、適量の唐辛子は胃粘膜を保護する働きがあることも報告されています。
「TRANSIT53 世界のスパイスをめぐる冒険」を読めば、人間とスパイスの長くて深い関係が見えてきます。誌面でスパイスの旅を楽しみつつ、日々の暮らしにも世界のスパイスの知恵を取り入れてみたくなるのでは。