世界最大規模のブナの原生林を有し、世界自然遺産にも登録されている、青森・秋田の「白神山地」。人を寄せつけないような神々しさをもちつつ、一方で、その周縁には山の恩恵をたっぷり受けた人の営みがある。そんな白神山地を、青森県側から「最奥」「森」「町」「海」の4つのレイヤーに分けて“白神巡礼”をしていく。
「白神巡礼/町編」では、青森の文化都市・弘前市から、町と白神山地のつながりを追った。
Photo : Yoma Funabashi
Text:Maki Tsuga(TRANSIT)
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What's
白神山地?
青森県から秋田県にまたがる、約13万ha、標高200~1250mの山岳地帯の総称で、約8000年前の原始のブナ林の姿を今に残すとされている。1993年に日本で初めての世界自然遺産として屋久島とともに登録される。白神山地の中心部の約17,000haが世界遺産エリアとなっていて、環境保全のために入山禁止となっている核心地域と、人の立ち入りができる緩衝地域がある。
白神山地を巡る途中で、弘前市に立ち寄る。現在は青森市が県庁所在地になっているけれど、最初に県庁があった街で、弘前城や弘前大学もある青森の文化都市だ。白神山地のある西目屋村と隣接していて、弘前市と西目屋村の中心地までは車で30分ほどで行き来できる。
そんな弘前で朝からひと際賑わいを見せているのが、〈虹のマート〉。昭和31年からつづく老舗市場には、鮮魚、精肉、野菜、乾物、お惣菜、パン、お菓子、コーヒースタンド、ラーメン店……おいしそうなものが勢揃いする。
朝は料理店のシェフが食材を仕入れに、昼はサラリーマンがランチを食べに、夕方は地元の人が晩ごはんの準備で買い出しにやって来たりと、活気溢れる津軽の台所なのだ。
〈虹のマート〉を運営する、生き活き市場の専務取締役・浜田大豊さん(写真中央)。実家は、虹マ内にお店を構える、海産物、惣菜を扱う〈ハマダ〉。東京で進学、就職した後、Uターン。虹マを切り盛りする。
通称・虹マには、日本全国、世界各地からおいしい食材が集まるけれど、やっぱり地元青森のものが多い。よくよく見ると、白神山地で採れたキノコや山菜、白神の麓の海で育った魚介類なども並んでいる。山のものも海のものも自然のなかで育っているから、日ごと、週ごとに、ラインナップが目まぐるしく入れ替わっていく。商品を見ているだけで季節を感じられるし、虹マではこれだと思ったら迷わず買うべし。
夜ごはんは、町の人から聞いた〈居酒屋 土紋〉へ。
いつも混んでいると聞いたけれど、入れてよかった。冷蔵庫には弘前の地酒・豊盃(ほうはい)がびっしり。店内の黒板には、津軽ならではの料理が並ぶ。イガメンチは、イカとタマネギなどの野菜を焼いたハンバーグのような料理。たらたまは、干し鱈と生卵を和えたおつまみ。ほかにも、筋子の糠漬け、イカのワタ、トンカツなど、何を頼んでもおいしくて白いごはんがすすむ。ここにも白神のものはあるだろうか……と探していたら、深浦町産のもずくを発見! 調べてみると、日本国内でよく見かけるのは沖縄の養殖もずくだけれど、深浦町では天然の岩もずくが採れるんだとか。
ちなみに、青森県の魚介といえば下北半島の大間町の本マグロがよく知られているけれど、実は深浦町も県内のマグロ水揚げ量が1位になるくらい漁業が盛ん。青森の市場やお店で深浦マグロに出合えるかも。
陶器や編組品、日用品などを扱う弘前のお店〈THE STABLES〉も覗いてみることに。
日本各地から集められたものを中心に紹介しているが、ここでも北東北生まれの品々を見つけることができる。とくに青森県内でつくられている、こぎん刺し、あけびや根曲竹細工など、どの手仕事も美しい。
各地のつくり手に焦点をあてた個展や企画を定期的に開催。訪れた際には静岡・浜松の染色家、山内武志さんの作品展が行われていた。
弘前の人にとって身近な山といえば、岩木山だ。
標高1,625mを誇る、青森県の最高峰。白神山地の山々からは少し離れているけれど、岩木山から見た白神山地も美しいと聞いて、車で立ち寄ることにした。岩木山一帯には豊かな湧き水があり、山の麓にはリンゴ、サクランボ、トウモロコシ、セリといった畑が広がっている。
岩木山の麓にあったリンゴ畑。農家さんに品種を尋ねると、サンフジとのこと。収穫前にリンゴの実をつる回し(実を回転させる作業)することで、色づきがよくなるそうで、脚立にのぼって一つひとつ手作業しているところだった。
とくに岩木山麓の景色の一部にもなっていたのがリンゴ畑。9月末はちょうどリンゴの収穫シーズンで、荷台にリンゴ箱をぎっしり積んだ軽トラックをよく見かけた。青森県は日本のリンゴ収穫量の約6割*を占める一大生産地なのだけれど、弘前市はそんな青森県内でもリンゴ出荷量No.1。ちなみにリンゴでおなじみのフジは、弘前市のすぐ北にある藤崎町で誕生した品種でもある。フジが世界でもっとも生産量が多い品種だというのは、青森を旅しながら知ったことだった。
*2023年の収量
岩木山を車で上る。
本当は津軽岩木スカイラインをドライブしたかったけれど、日暮れまで時間がない。視界が開けたところまで来て、車を停めて振り返る。黄金色に輝くススキの野原の向こうに、夕日に照らされた白神山地の山々が見えた。幾重にも折り重なった山は大海の波のようにも見える。深浦町や鰺ヶ沢町、西目屋村や弘前市まで、白神山地を越えて直線で結ぶ道路があれば、もっと交通の便がよくなって、住んでいる人は便利かもしれないし、旅行客が増えるきっかけになるかもしれない。でもあの山々を貫く道をつくるのは難しいだろうし、技術的にできたとしても山の環境も人の流れも大きく変えてしまうであろうことを考えると、このままの白神でいてほしいとも思ってしまう。
山を下りながら、山麓にある嶽(だけ)温泉郷へ立ち寄る。
ここは300年以上前からつづく温泉郷で、今は5、6軒ほどの温泉宿が並ぶ落ち着いた町だ。昔は町の中央に共同温泉があり、それを囲うように旅館が軒を連ね、湯治客で賑わっていたという。獄温泉にあった〈小島旅館〉の湯に、ひととき浸かる。碧がかった白く滑らかなにごり湯で、肌のあたりが優しい。浴槽は青森ヒバでできていて年季が入っている。
白神山地だけでなく岩木山も気になってくる。山を中心に生活・文化・経済圏ができていて、津軽は奥深い。
白神山地(青森県観光情報サイト内)
https://aomori-tourism.com/spot/detail_247.html
白神山地ビジターセンター
https://www.shirakami-visitor.jp/nyuuzan.html
>>Access
青森県側の白神山地は、県の南西部にある深浦町、鰺ヶ沢町、西目屋村に位置している。県外から3つの町村へ向かう主なアクセス方法は、以下を参考にしてください。
空路……青森空港、大館能代空港、秋田空港
新幹線……新青森駅、秋田駅
*各空港、駅から列車、バスで向かう
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