―白神巡礼/海編―
海と山がつながる
白神の輪

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―白神巡礼/海編―
海と山がつながる
白神の輪

TRAVEL&EAT&THINK EARTH&LIVE

2025.03.06

5 min read

世界最大規模のブナの原生林を有し、世界自然遺産にも登録されている、青森・秋田の「白神山地」。人を寄せつけないような神々しさをもちつつ、一方で、その周縁には山の恩恵をたっぷり受けた人の営みがある。そんな白神山地を、青森県側から「最奥」「森」「町」「海」の4つのレイヤーに分けて“白神巡礼”をしていく。

「白神巡礼/海編」では、海岸線を車で走りながら、海の幸をいただき、海辺にいる人に出合いながら、海から白神を見つめた。

Photo : Yoma Funabashi

Text:Maki Tsuga(TRANSIT)

What's
白神山地?

青森県から秋田県にまたがる、約13万ha、標高200~1250mの山岳地帯の総称で、約8000年前の原始のブナ林の姿を今に残すとされている。1993年に日本で初めての世界自然遺産として屋久島とともに登録される。白神山地の中心部の約17,000haが世界遺産エリアとなっていて、環境保全のために入山禁止となっている核心地域と、人の立ち入りができる緩衝地域がある。

海岸線を走る

最終日は、海辺の白神山地、鰺ヶ沢町と深浦町を通ることにした。
 
ずっと車で移動していたけれど、時間があったら列車旅もしてみたい。海際にはJR五能線が走っていて、青森駅と秋田駅を結ぶ「リゾートしらかみ」に乗れば、大きな窓から日本海を眺めることができる。駅弁を食べながら、海を見たり、読書したり、気になる駅で途中下車の旅もいい。

漁師町の鰺ヶ沢でひと休みしようと、海沿いにある〈ドライブイン汐風〉に入った。マグロやイクラといった海鮮丼、ラーメン、カレー、カツ丼、ハンバーグ定食など、ドライバーにエネルギーチャージしてくれるパワーフードがいっぱいある。どれも気になるけれど、せっかくなので地元でとれたヒラメのヅケ丼を頼む。ぷりっと肉厚なヒラメにほどよい醤油の漬け具合。それに酢飯と爽やかな薬味がぴったり合う。今度来たときはイトウのヅケ丼にも挑戦してみたい。

すぐ近くには焼きイカ店が。通称、「焼きイカ通り」とも呼ばれていて、昔はこのあたりでたくさんイカがとれたことから、こうした焼きイカ店が多くあったのだそう。注文を受けてから目の前で炭火で焼いてくれる。熱々ふっくらのイカが美味!

海辺で訊いた山の話

鰺ヶ沢町や深浦町は、白神山地を背にして日本海に面した山と海の町だ。おいしい海鮮料理が食べられるお店も多いし、海際では船や漁師も見かけた。
 
船着き場で見かけた漁師のおじさんに話しかける。「10月末は端境期。これから冬にかけてハタハタ漁などで忙しくなります。その前に船を整備しないとね」と言う。私たちが白神山地の旅をしているのだと言うと、その漁師さんもときどき山に入るのだと教えてくれた。
 
「おいしい魚が取れるのは山のおかげ。山がきれいで栄養のある水を海に流してくれるから。そのために、ときどき漁師で集まって山に植林してるんだよ」
 
その人が話すように、白神の山と海の距離はとても近く、山があるから漁ができるという実感を強く抱く場所だとも思う。ブナが5mほどの成木になって実をつけるまでに50〜70年かかるという。気の長い話だけれど、50年、100年単位で土地を想う人たちがいることに、胸の奥が温められた。

深浦町にある〈黄金崎不老ふ死温泉〉は白神山地を背に日本海を一望しながらお湯に浸かれる温泉宿。日帰り入浴もできる。海に沈む夕日が見える時間帯もいいけれど、朝の空いている時間帯も気持ちがいい。お風呂のすぐ目の前が海というワイルドさで、自然との一体感がたまらない。

景色がいいと聞いて、深浦町の象岩へ行く。
小さな入り江には2、3人ほど海の様子を見に来ている人たちがいた。漁の準備のために船を出す人もいれば、仕事の合間に釣りをしている人もいる。
 
「釣りが好きだから、今日の海はどうかなって気になってよく来るんですよね。子どもの頃は友だちと毎日のように泳ぎに来てましたよ。沖合5kmくらいまで泳ぐともう陸がほとんど見えなくなるんだけど、白神山地の山並みを頼りに岸まで戻ったりしてね」と釣り人のおじさんがぽつり。今は海が危険だからといって、大人も子どもも遊ぶ人たちが少なくなってしまったけどね、と寂しそう。本当は遊びながら、自然との距離を覚えていけたらいいのかもしれないけれど。

船を出しに来ていたおじいさんとも言葉を交わす。
海で出合ったその人は、山の人でもあった。今でも現役で山岳ガイドをしていて、昔はクマ猟もしていたという。
「山にはおもしろいやつがいっぱいいるよ。ボランティアで白神岳の山頂のトイレを掃除してる知り合いもいる。2、3時間で頂上まで登るから、仲間の間ではカモシカって呼ばれてるよ」と笑っていた。

人に、動植物に、豊かな恵みを与えてくれる白神山地。
山はもちろん、町や海にいても、いつも背中に白神山地を感じながら歩いていた。自然と人のちょうどいい距離を見つけるのはなかなか難しい。人間の欲望のままに自然を搾取することはできないし、まったく自然に対して無関心になってしまうのも違う。森の中に分け入るもよし、下界から山を眺めるのもよし。山へのありがたさも、驚きも、恐れも、忘れないでいたい。白神の豊かな風景が次の100年も、1000年もつづきますように。そしてまたひととき山で遊ばせてください。
旅の終わり、山に手を合わせて白神をあとにした。

Information

白神山地(青森県観光情報サイト内)

https://aomori-tourism.com/spot/detail_247.html

 

白神山地ビジターセンター

https://www.shirakami-visitor.jp/nyuuzan.html


>>Access
青森県側の白神山地は、県の南西部にある深浦町、鰺ヶ沢町、西目屋村に位置している。県外から3つの町村へ向かう主なアクセス方法は、以下を参考にしてください。

空路……青森空港、大館能代空港、秋田空港
新幹線……新青森駅、秋田駅
*各空港、駅から列車、バスで向かう

 

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Yayoi Arimoto

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