清水みさとの世界のサウナ巡礼記
vol.9 スウェーデン
「自分だけのFikaを探して」

清水みさとの世界のサウナ巡礼記
vol.9 スウェーデン
「自分だけのFikaを探して」

People: 清水みさと

TRAVEL

2025.09.10

5 min read

今や大きな旅の目的のひとつにもなり得るサウナ。一度ハマると、もう大変。だってサウナは日本国内のみならず、世界中に溢れている。そんな未知なるサウナを求めて旅するのは、自他ともに認める生粋のサウナ狂、清水みさとさん。時間さえあれば(いやなくても)そこにサウナがある限り、臆することなく世界のどこかへ飛び出していく。そんな清水さんが出会った人びと、壮大な自然、現地独自の文化など、サウナを通して見えてきた世界のあれこれをお届けする新連載です。

Photo&Text:Misato Shimizu

なんだか、モネの絵みたいだと思った。
 
運河に浮かぶサウナからの眺めがあまりに美しくて、汗だくになりながら、美術館の来館者みたいな顔をしていた。
 
よく見ると、あ、ちゃんと揺らいでるんだというほど運河の流れが控えめで、そんなほとんど動きのない動きをみつめていると、最近慌ただしく動き回っていた自分のなかに、ゆったりとした時間が流れこむ。
 
そういえば、美術館で絵を眺めていると、「全然わからない」と思うことがある。
うなずいているみんなの横で、それっぽい態度で並んでみても、やっぱり取り残されている感が否めなかった。
 
けれど、サウナからこの風景を見ていると、理由を探すでも、言葉に置き換えるのでもなく、「いいなぁ」ただそれだけで心が満たされて、なんかもうそれだけで十分なんじゃないかと思った。

もしかしたら絵を見るのだって、本当はこんなふうでいいのかもしれない。サウナに入りながら、ぼんやりそんなことを考えていた。
 
ここは、スウェーデンのストックホルム。
今年、ストックホルムまで直行便が就航し、ぐっと距離が縮まった。
どんどん世界が近づいている気がして、旅好きとしてはすごくうれしい。
 
先日友人とお茶していたとき、「行きたいサウナがあるけど金沢文庫だから遠くて。」と言ったら、「海外にはすぐ行くのに?」と笑われた。
 
たしかに。「来週、モンゴル行かない?」と誘われたら、わたしは迷わず飛行機に乗ってしまうけど、金沢文庫にはなかなか行けない。(vol.6を参照)
 
距離の尺度っておもしろい。電車で1時間の金沢文庫よりも、飛行機で13時間のスウェーデンの方がなぜだか近い。
 
そう信じているわたしは、早速2年ぶりにスウェーデンを訪れた。
そして、最初に足を運んだのが、運河に浮かぶ(勝手に)モネビューのサウナだった。
 
美しい風景を眺めながらたっぷり汗をかいて、絵画に飛び込むように運河へジャンプした。
 
全身の力を抜くと、重力がすっとほどけてぷかぷか浮かぶ。
 
浮かぶために必要なのは、筋力じゃなく脱力で、力を抜いたときの軽さが、普段どれだけ余分な力が入っているのか教えてくれた。
 
わたしはこれが結構得意で、ただ浮かんでるだけなのに、不思議と満たされていった。

そんな「ただ満たされる時間」は街のなかにもあった。
平日の昼間だというのに、カフェはどこも満席で、コーヒーと甘いパンを前に仕事の合間らしき人たちがおしゃべりしている。
それが、スウェーデンの「Fika」という習慣だと知った。

予定の隙間に滑り込ませる時間じゃなくて、余白のためにわざわざあける時間。そんな時間の取り方が、とても贅沢に思えた。

思い返せば、あのサウナでただ運河をぼんやり眺めていた時間も、きっとフィーカだった。
 
美術館で「わからない」と立ち尽くしても、別にいい。
意味を探さなくても、理由がなくても、ただ眺めて、素直に「いいな」と思えれば、それで十分だ。
 
わたしがスウェーデンで感じた余白こそ、Fikaで、サウナだったのだ。

Profile

俳優/タレント

清水みさと(しみず・みさと)

日本や世界中のサウナをめぐるサウナ狂としても知られ、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(AuDee/JFN全国21局ネット)のパーソナリティーを務めるほか、るるぶ「あちこちサウナ旅」、サウナイキタイ「わたしはごきげん」、リンネル「食いしんぼう寄り道サウナ」、オレンジページ「本日もトトノイマシタ!」など多数の連載を担当する。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー』など舞台でも活躍中。

日本や世界中のサウナをめぐるサウナ狂としても知られ、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(AuDee/JFN全国21局ネット)のパーソナリティーを務めるほか、るるぶ「あちこちサウナ旅」、サウナイキタイ「わたしはごきげん」、リンネル「食いしんぼう寄り道サウナ」、オレンジページ「本日もトトノイマシタ!」など多数の連載を担当する。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー』など舞台でも活躍中。

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Yayoi Arimoto

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