幸せの国、デンマーク。
夏のコペンハーゲンを歩く

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幸せの国、デンマーク。
夏のコペンハーゲンを歩く

TRAVEL&LIVE

2024.10.17

5 min read

旅の途中でノートの隅に走り書きした電車の時刻、街角で耳にした音楽、コーヒースタンドで済ませた朝食、現地の人と交わしたいくつかの言葉...... そんな他愛もない旅の断片たちを集めた。

Photo : Hirotaka Hashimoto

Text:Nobuko Sugawara (TRANSIT)  Thanks:Visit Copenhagen

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5月末、コペンハーゲンを訪れた。夏の北欧は、長く照らしてくれる太陽の光と爽やかな空気に満ちて、街がキラキラしている。朝の散歩では、サイクリストとランナーの秩序正しさに、花と緑が彩るカラフルな公園に、運河や川で泳ぐ白鳥や水鳥の優美さに魅了される。 
 
環境先進国、北欧デザイン、noma、王室など、いくつものトピックがある国だが、コペンハーゲンの人たちに聞いてみたいことがあった。国連の「世界幸福度ランキング2024」のレポートで、デンマークは6年連続2位を記録している。2024年の1位は不動のフィンランドで、デンマーク、アイスランド、スウェーデンがつづき、医療や教育費無料の高福祉、男女平等、ワークライフバランスなど、社会的成熟度の高さが知られる北欧諸国が上位を独占して久しい。 
 
幸せな国ランキング上位をキープしつづけるデンマークの秘密はどこにあるのか、16時に仕事を終えているという噂は本当なのか。彼らの言葉を聞いてみたかった。 
 

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01.壁はすべてガラス張りで、外と内の境界線がない〈Væksthuset〉。 / 02.お店を案内してくれたのは、フレデリックさん。接客やスタッフへの対応に忙しく店内を歩き回る。 / 03.店内には高さ12mの木が植わり、地下の駐車場から地上まで成長をつづけている。

オペラハウスがある工業島を再開発してつくられた緑豊かな公園の島〈The Opera Park〉内に2023年10月オープンしたレストラン〈Væksthuset〉を訪れた。「温室」という意味のそのレストランは、外の公園と同化するように室内に600種類の樹木を植えている。植物が育つのに必要なライトを設置し、室内で生態系の多様性を表現する、サステナブルがテーマのレストランだ。 
 

マネージャーのフレデリック・タイルゴーさんに、なぜデンマークが幸せな国といわれると思いますかと聞くと、「デンマークが隠しごとのない社会を目指して、情報を共有しているからじゃないかな。税金は高いけれど、困ったときには社会が守ってくれる安心感がある」と答えてくれた。 
 
「僕はデンマーク人にしては働きすぎかもしれません。デンマークの労働時間は週37時間だけど、42時間くらい働いています。飲食業の世界は忙しく、責任があるから残業もする。でも天気のいい日はボートでセーリングに出ます。仕事とプライベートな時間のバランスは保っていますよ」 
 
そしてこう付け加える。「デンマークには宮殿があるでしょう。僕も自分の小さな宮殿に誇りをもっているんですよ」と。 
 

平日の午前中でもチボリ公園は大賑いだった。チボリ公園は世界最古の遊園地のひとつといわれており、最新の絶叫マシンやアトラクションはないけれど、クラシックなスタイルのメリーゴーラウンドやチェーンタワー、ローラーコースターからは歓声が聞こえてくる。アンデルセンがここで物語の構想を練ったともいい、童話的な雰囲気が漂って、顔より大きい綿あめを抱える子どもや、芝生で車座になっておしゃべりしている学生たち、手を繋いで歩くシニアカップルの姿と、どこを切り取っても幸せな空間だ。 
 
園内の野外カフェで働く女性二人に話しかけた。デンマークの人たちは幸せな人生をどうして手に入れられるんでしょうか。突然の質問に笑われるかと思ったが、彼女たちは真面目に答えてくれる。 
 
「税金は高いけど、苦しくはないの。お金もきちんと残るしね。生活に安心感がある」と答えてくれたのはスンドスさん。となりのメアリさんも同意という面持ちで頷く。誰でもですか?と聞くと、「もちろん。学生も政府から生活費の支給があるからストレスがないし、若いからといって貧しいわけではないよ」と教えてくれた。 
 

「幸せな時間? 朝、夫が入れるコーヒーを飲む時間ね」とスンドスさん(左)。

同じ質問をされたチボリ公園の広報をつとめるアンダース・ボベックさんはこう答えた。「他の多くの国に比べて不平等が少なく、社会的セーフティネットがしっかりしているからだと個人的に思います。税金は比較的高いですが、この社会を維持するために人びとは協力しているんです。そして、私たちは自分の期待値をコントロールし、幸せを見出す能力をもっていると思います。少なくとも、私はそうするように努力しています」 
 

チボリ公園の広報を務めるアンダースさん。「チボリ公園は観光客だけでなく地元民もこよなく愛する場所です」

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アシステンス教会墓地の近くにある〈ark books〉。

コペンハーゲンを歩きながら、いくつかの書店をのぞいた。大型書店も独立系書店もそれぞれの個性があり、美しく本が陳列されていて楽しかったが、なかでも〈ark books〉は、店構えから惹かれる何かがあった。ヴィンテージ感のある扉、ガラス壁には猫のイラストとフリーパレスチナのステッカー。店番の女性は熱心に勉強に励み、ソファの猫は昼寝中だった(ここの子ではなく、近所の猫らしい)。 
 
店番の女性はクララ・トーンデールさん。心理学を学ぶ大学生で、ボランティアスタッフとして働いているという。〈ark books〉は、ボランティアが非営利で運営している書店だった。どんな本が人気か聞くと、首をかしげる。 
 
「わかりません、ボランティアが自由に本を仕入れて棚に並べ、売れるまで置いておくだけだから。むしろほかの書店では売れない本を扱っているんじゃないかな。コペンハーゲンで英語の本だけを扱っているのは私たちだけだと思いますよ」 
 
 本の売り上げは家賃と新刊本の購入、イベントの開催などに充てられ、誰もが気軽に訪れ、本を読み、本について語り合える空間を目指している。書店の中心におかれた机に平置きされていたのはアフリカやカリブ、南米の女性作家の作品だった。 
 

クララさんにとって一番幸せなことは、「知識を共有すること、経験を共有すること。そうすることで他の人を気遣うことも、認めることもできるから」

「地元の人になった気分でコペンハーゲンを体験してほしい。公共の乗り物に乗って、デンマークの料理を食べて」というのは、コペンハーゲン観光局〈Wonderful copenhagen〉のPR、マリア・トゥエセン・ブリーウさん。「小さな子どもがいるからバタバタしているけれど、ワークライフバランスが取れていることが幸せの鍵だと思います」

〈Design Museum Denmark〉でアルバイトとして働いているナナ・ユール・イェンソンさん。手工芸の勉強をしている学生だ。「コペンハーゲンという街が大好きだから、いるだけで幸せ。大都市なのに、静けさを感じられるのはここならではだと思っている」

ボートでコペンハーゲンの街を案内してくれながら、「この仕事は、空の下で働けて、新しい人たちに会える。気のいい同僚がいることにも満足している」と語ってくれたフレデリックさん。

「Go Boat Cruise」でボートを操縦してくれたフレデリック・ビュグホルムさん。彼の本業はアーティストで、夏の間はボートで働き、シーズンが終わったら自分の仕事をする。 
 
「音楽以外は全部やるよ。彫刻や浮世絵、刺繍も友人の日本人アーティストから習った。なんでも自分でやりたい。たとえば自転車が壊れたときも、店に修理に出すのではなくて自分でできるほうがいいから」 
 
季節によって違う仕事をしながら豊かな暮らしができるのはとてもいいねと話すと、彼は言った。
「90年代は頑張って働いてお金を稼ぐのが人生の目標といわれていたけど、僕たちの世代はそれに反発する人のほうが多い。パートタイムの収入でも十分あるし、自分の時間のほうが大切だから、そちらを選ぶんだ」 
 

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出会ったコペンハーゲナーたちの共通点は、あくまでも自分の人生が軸にあるということだった。誰にも邪魔されることのない自分だけの聖域と時間を守り、消費や競争の世界になびかない。そう思ったとき、コペンハーゲンの心地よさの理由を見つけた気がした。 
 
話題のベーカリーを目当てに道をさまよっても、モダンなカフェやレストランが立ち並ぶエリアのなかにいても、バスに乗っても地下鉄に乗っても、商品やサービスの広告、仰々しい看板はほとんどない。欧州連合議会の選挙ウィークだったため立候補者のポスターは溢れていたが、この商品を買ったら生活がよくなる、このサービスを買ったら美しくなれる、賢くなれる。そんな欲望をあおる情報がないのだった。 
 
別に何もしなくてもいい。ありのままを楽しめばいいのだと言われているようで、そっけなくて、気楽だった。 
 
セーフティーネットや政治の透明性について堂々と語る彼らが、日本人からみればあまりに遠く眩しく思えてしまうのは事実だけれど。 
 

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旅の最終日、5月最後の金曜日は気持ちのよい快晴に恵まれた。運河の人工プール〈Harbour Bath〉は16時頃にもういっぱいで(ちなみに金曜日の帰宅ラッシュは15時だという)、飛び込みレッスンを行う学生や、ビールやワインを片手に笑い合うグループ、ひとり本を読みながらくつろぐ人など、短い夏の光をひとときも無駄にしたくない北欧の風景があった。 
 
デンマークの言葉にヒュッゲというものがある。心地よさ、安心感など概念の言葉で、居心地のよい部屋や人とのつながりを連想させるものだ。友だちとコーヒーを飲むのも、ブランケットを羽織って過ごすのもヒュッゲ。そして今、この夏のひとときもヒュッゲに違いなかった。 
 
 

Information

デンマークへの旅は、スカンジナビア航空で

スカンジナビア航空は、日本からは羽田とコペンハーゲンの直行便を運航中。スカンジナビア3国(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン)の航空会社で、スカンジナビアを中心にヨーロッパ、アメリカ、アジアと広いネットワークをもつフルサービスキャリア。

 

 

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Masumi Ishida

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