大韓民国は民主共和国だ ─
政治を更新する「デモの力」

大韓民国は民主共和国だ ─
政治を更新する「デモの力」

People :加藤直樹

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2024.12.10

3 min read

軍事政権を引きずり下ろし、大統領を弾劾罷免。 常に自分たちのための政治、社会を求めてきた韓国国民。 彼らを突き動かすものは何か。歴史とともに考察する。

Text:Naoki Kato

2017年2月25日、朴槿恵大統領弾劾訴追を求める集会。

© Naoki Kato

民主共和国の主権者として。

時に熱すぎる映画やドラマのイメージから、韓国人が政治問題でも激情的に行動していると考えるのなら、それは大きな間違いだ。2016年10月、崔(チェ)順実ゲートの発覚から朴槿恵大統領の退陣を求めて始まったキャンドル集会は翌年3月の朴大統領の弾劾までつづき、その間、60万人から100万人以上という大規模な集会だけで10回を数えたが、警察との衝突もほとんどなく、逮捕者も出さなかった。それほどに平和的で秩序を保った行動だったのである。
 
韓国がデモの多い国なのは間違いない。東アジアの国々をデモの多さで並べれば、韓国、台湾、日本、中国という順番になるだろう。その韓国のデモ文化の進歩の到達点が「キャンドル集会」である。日没後に人びとが手に手にキャンドルを持って集まることからそう呼ばれるこのスタイルが生まれたのは、21世紀に入ってまもなくのことだ。

© Cristian Ghe.

民主主義は「広場」を必要とする。ソウルでは光化門広場がそれだ。朴槿恵退陣を求めるキャンドル集会はこの広場で半年近くつづいたが、巨大労組や政党の動員もなく、主役はごく普通の市民たちであった。一人で来る人もいればカップルや家族連れもいた。「自由発言台」が設置され、誰もが発言することができた。中央のステージには、フォーク、ロック、ヒップホップと、各世代の大物ミュージシャンが次々に登場して演奏した。楽しみながらとはいえ、数十万人以上の人が半年近くも街頭に出続けることは並大抵のことではない。その「デモの力」が、国会を動かし、ついに大統領の退陣を実現した。
 
市民たちを動かしたのは何だろうか。この集会のなかで盛んに歌われた歌にその答えがある。「大韓民国は民主共和国だ/大韓民国は民主共和国だ/大韓民国のすべての権力は国民から生まれる」。これが歌詞の全文だ。実はこれ、大韓民国憲法第1条の条文のほとんどそのままである。

© Jared Tarbell

共和国=republicとは「公共のもの」という意味だ。大革命から生まれたフランス共和国が典型だが、「共和国」は人びとが共同でつくる公共の財産だ。韓国憲法の前文は、この地に共和国がつくられた経緯を「三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の法統及び、不義に抗拒した四・一九民主理念を継承し」と説明している。
 
「三・一運動」とは、朝鮮半島が日本の植民地支配下にあった1919年3月1日、全国で無数の人びとが「独立万歳」を叫んで街頭に飛び出した運動、つまりデモである。運動は弾圧されたが、亡命政府として「大韓民国臨時政府」がつくられ、その憲章で「大韓民国は民主共和国となす」と宣言された。民主共和国としての韓国というビジョンは、デモのなかから生まれたのだ。

© Michell-Zappa

日本敗戦後の1948年、分断された朝鮮半島の南に「大韓民国」が樹立される。だが初代の李承晩政権は強権的であったため、1960年4月に学生を中心としたデモによって追放される。「四・一九学生革命」だ。その後、軍部のクーデターで独裁に戻ってしまうが、憲法前文はこの建国後初の民主化デモの精神を「四・一九民主理念」と呼び、民主共和国としての第二の原点と規定しているわけだ。
 
そして1987年10月に定められた(改正された)現行憲法自体が、軍事独裁の時代を最終的に終わらせた同年の大規模デモ「6月民主抗争」の産物である。それを思えば、大韓民国が巨大なデモのたびに人びとの参加を得て更新され、民主共和国としての実質を備えてきたことが分かる。

© Paul Walk

今回のキャンドル集会でも、韓国の人びとは、共感と連帯感に満ちた広場のなかで、自分たちこそがこの共和国の主権者であることを再確認したといえるだろう。韓国はやはりデモの国なのである。
 
韓国のデモ文化や民主化の歴史に興味がある方は、ぜひ、1987年の「6月民主抗争」を描いた二つの作品、映画『1987 ある闘いの真実』(19年2月にDVD発売予定)とコミック『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(チェ・ギュソク著、拙訳、ころから刊)に触れてほしい。
 
*『TRANSIT42韓国・北朝鮮号』の再編集記事です。

© VECTROTALENZIS

Profile

ノンフィクション作家

加藤直樹

かとう・なおき●1967年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスに。著書に『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)、『謀假の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)ほか、訳書に『沸点』(ころから)がある。

かとう・なおき●1967年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスに。著書に『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)、『謀假の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)ほか、訳書に『沸点』(ころから)がある。

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Cheng Chung Yao

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