理想の社会制度として光があてられることの多い、高負担・高サービスなスウェーデンの社会保障。具体的にどのような制度が整っているのか。そしてその充実した保障を支える仕組みとは何だろうか。
Text:Noemi Minami Supervision:Yoshihiro Sato
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ライフステージごとの社会保障支援が税金によって手厚く賄われているスウェーデン。大学や大学院までの教育費は基本的に無償で、医療費の自己負担は総額の約13%にとどまる。さらに育児では両親で合わせて480日間の有償休業が取得できるなど、支援が充実している。
高福祉が実現しているその背景には、国民一人ひとりの高い納税意識と強い自立心がある。2023年の15~64歳の就業率は77.4%と、EU平均を大きく上回っている。障害者や介護の支援でも自立を前提とした制度が整っており、稼げば稼ぐほど老後に多くのお金が返ってくる年金システムが、国民の働く意欲を促進している。そして手厚いサービスの円滑な運用を可能にしているものの一つに、情報の透明性が挙げられる。全住民に「パーソナルナンバー」を付与して税金・医療・社会保障の情報を一元的に管理し、公的に誰でも参照できるようにしているのだ。制度の透明性と信頼性を高め、不正の抑止にもつながっている。
さらに平均月収はヨーロッパ平均を上回り、2024年時点で政府債務残高はEU平均を大きく下回る。財政運営の健全性もまた、スウェーデン社会の特徴だ。福祉の充実と個人の自立。その両立が、スウェーデンが持続可能な社会を実現する基盤となっている。
7歳〜 学校
7歳から義務教育がスタート。基礎学校9年、高等学校3年、大学3年の課程で構成されている。義務教育から大学院までは基本的に無料で、パーソナルナンバーを持っていれば外国人でも対象となることも。高校までは給食も提供される。大学のほかに専門学校や企業の人材供給を目的とした実習型教育機関が充実しており、就職に直結した学びも得やすい環境になっている。
名門ルンド大学。スウェーデンおよびEU・EEA圏内出身者は学費が無料になる。
© ©annenormark
18歳〜 就労
会社員や公務員、個人事業主にかかわらず、給与から天引きされるのは所得税のみ。年金は「所得比例年金」と自分の拠出を運用する「プレミアム年金」の二層で成り立っており、所得比例年金では所得税の納税額が多いほど老後もらえる年金の額も大きくなる。基本的に働くほど多くお金が還ってくる仕組みで、国民の労働意欲を支えている。
所得比例年金および保証年金の概念図
平均月収は欧州諸国の平均を上回っており、国民の生活水準の高さを支えている。アルバイトなどの非正規雇用は珍しく、パートタイマーであっても雇用形態は正社員である場合が多い。高い税金でも皆が納税できているのは、それだけ安定した収入を得ている人が多いということなのだ。(厚生労働省『スウェーデンの年金制度概要』を基に編集部で作成)
①勤務時間
スウェーデンの労働法では現在、労働時間の上限は一週間40時間、残業は月50時間までと定められている。さらに、職種ごとに労使交渉で調整できる余地が残されているため、より短い週37時間程度の就労時間に設定したり、季節によって労働時間を変えるなど、フレキシブルに対応している職場も多い。
②求職者支援
手厚い失業保険に加え、教育訓練や就職紹介で失業者の再就職を積極的に支援している。多くの業界や職種では、再就職や職業訓練を紹介する組織を労使が共同で設立しており、解雇された人は気軽にサポートを受けられる。とくにIT、医療、バイオなど国の成長戦略に組みこまれた分野のプログラムが充実している。
③税務手続き
スウェーデン国税庁(Skatteverket)のサイトにはあらゆる個人情報が紐づけられており、簡単なオンライン手続きをすれば連携した口座から税金が引き落とされ、還付金もそこに振り込まれる。さらに負担を減らしたい人のために、最近はフリーランスの人の経理業務を有料で請け負う民間企業も登場している。
④休暇制度
年次休暇法で定められた最低限の年次有給休暇は25日。家族の介護、自身の病欠などは別の扱いとなっている。育児休業については、育児休業法によって両親に合計480日の有給休暇が与えられる。このうちの90日は父親が取得しなければ失効する制度を導入し、双方の育児参加を促している。
⑤起業支援
スウェーデンで起業する人の多くが利用しているサービスが「almi(アルミ)」だ。政府が100%出資している機関で、民間の金融機関よりも返済しやすいプランでの融資はもちろん、起業者向けのセミナーや無料の事業分析、ビジネス向けの各種テンプレートなども提供。オンラインで簡単に申請や相談ができる。
⑥フリーランス労組
スウェーデンでは労働組合への加入率が70%超と非常に高く、フリーランスでもその業界の労組に加入している人が多い。たとえばフリーのジャーナリストやライターを対象とした組合では、メディア企業の社員と比べて大幅に報酬が少なくならないよう、企業側と交渉して定めた最低金額を公表している。
29.7歳〜 子育て
両親で合計480日間の育児休業が取得でき、そのうち390日間は所得に応じた給付が最大80%支給されるため、家計の負担を抑えながら育児に専念できる。さらに子ども手当や低所得世帯向けの支援が整備され、住宅改修や支援も自治体が提供する。1〜12歳の保育を必要とする子どもには就学前保育や学童保育の場を自治体が提供する義務があり、原則として待機児童は存在しない。
65歳〜 医療
患者負担の医療費は総額の約13%。また外来診療の年間自己負担額の上限が1,450SEK(約23,000円)に定められており、高額治療が必要になっても安心だ。一方、地域によって入院や診療の待機時間に差があったり、効率化のため入院期間を短く抑える傾向がある。高齢化が進むなか、適切な医療をいかにスピーディーに届けるかが課題となっている。
65~74歳の医療サービスの利用頻度
内閣府『高齢者の日常生活―スウェーデンと日本の比較から―』(2021)
75歳〜 介護
介護では高齢者の自立を尊重する在宅中心の仕組みが特徴的だ。ほかにもデイケア、ショートステイ、ナイトパトロールなど多様なサービスが整備され、必要に応じて住宅改修や支援も自治体が提供する。多くの高齢者は自宅での余生を希望し、ホームヘルパーや家族の支援を受けながら最期まで自分らしく過ごせることを重視している。
身体機能が低下した場合に希望する住まい (65~74歳)
内閣府『高齢者の日常生活―スウェーデンと日本の比較から―』(2021)
佐藤吉宗(さとう・よしひろ)
ストックホルム在住。現地の大手銀行でデータサイエンティストとしてAI開発・活用に従事しながら、共働きで2人の子どもを育てている。著書に『子育ても仕事もうまくいく無理しすぎないスウェーデン人』(日経BP)。
ストックホルム在住。現地の大手銀行でデータサイエンティストとしてAI開発・活用に従事しながら、共働きで2人の子どもを育てている。著書に『子育ても仕事もうまくいく無理しすぎないスウェーデン人』(日経BP)。