「真珠湾航空博物館」で考える
これからのRemember Pearl Harbor

月刊TRANSIT/80年目の平和への旅

「真珠湾航空博物館」で考える
これからのRemember Pearl Harbor

People: Pearl Harbor Aviation Museum

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2025.08.17

10 min read

1941年12月7日(日本時間では12月8日)、日本海軍がハワイ・真珠湾にあるアメリカ艦隊を奇襲攻撃。わずか2時間の攻撃で、民間人含む2400人以上の命が奪われた。この攻撃を受けて、アメリカは日本に宣戦布告を行い、第二次世界大戦に本格的に参戦。戦争のグローバル化が進むきっかけとなった。
長らく、日米の「対立」を象徴する出来事として語られてきた真珠湾攻撃。しかし、ハワイにある「Pearl Harbor Aviation Museum(真珠湾航空博物館)」は、この歴史を「平和」の出発点として見つめ直し、未来へつなげようとしている。今回は、同館の職員の方々に、その想いと取り組みについて聞いた。

text:Takumi Okazaki cooperation:Pearl Harbor Aviation Museum

アメリカ人にとって「真珠湾攻撃」とは

──あらためて、アメリカの方々にとって「真珠湾攻撃」とはどのような意味をもつ出来事でしょうか?

真珠湾攻撃は、「リメンバー・パールハーバー」という言葉とともに、アメリカ国民を団結させる強力なスローガンとなりました。終戦後も長きにわたって、「アメリカが第二次世界大戦に参戦した正当な理由」として語り継がれてきた側面があります。
 
それから84年が経った今でも、その犠牲者は厳かに追悼されています。一方で、歴史をより深く、内省的に見つめ直す動きも広がってきました。日本の民間人や兵士の視点にも目を向けながら、さまざまな角度から理解しようとする姿勢が根づきはじめています。

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1941年12月7日午前8時過ぎ、10機の日本海軍の艦上攻撃機が戦艦アリゾナを攻撃。4発の爆弾が投下され、そのうちの一発が弾薬庫と火薬庫に引火して大爆発を起こし、沈没した。

真珠湾航空博物館は、ハワイのオアフ島の実際に真珠湾攻撃の被害を受けた場所に位置している。近くには「アリゾナ記念館」「戦艦ミズーリ記念館」「パールハーバー・ビジターセンター」「太平洋艦隊潜水艦博物館」などが点在している。

──博物館の展示を通して、どのようなことを伝えたいですか?

私たちが伝えたいメッセージは明確です。真珠湾の歴史を、「対立」の象徴ではなく、「平和」について考えるきっかけとして受け取ってほしい。そんな願いを込めて、展示を企画しています。
館内には、真珠湾攻撃や太平洋戦争で使われた50機以上の航空機のほか、戦艦アリゾナの実物の一部や、日本軍の零戦も不時着直後の状態で展示されています。
さらに、退役軍人や民間人、歴史家など多様な立場の声を収集・展示し、来館者に「考えるきっかけ」を提供しています。どのような経緯で攻撃に至り、その日何が起きたのか、そしてそれが世界をどう変えたのか。単なる日付や数字ではなく、人びとの決断や犠牲、体験を通して伝え、歴史に命を吹き込むことを目指しています。
歴史は「ヒーローと悪役」だけで語れるものではありません。そこには、時代を生きた無数の人間の物語があります。私たちは、国籍を問わず、戦争に影響を受けたすべての命に敬意を払っています。

真珠湾攻撃で破壊された戦艦アリゾナの破片の一部。この12月7日の日本軍の攻撃により、戦艦3隻を含むアメリカ海軍の艦船8隻が撃沈され、さらに戦艦6隻を含む多数の艦船が損傷し、航空機100機近くが失われ、2,400人以上のアメリカ軍人と民間人が命を落とした。

戦艦アリゾナを沈めた日本海軍の「中島 九七式3号(Nakajima B5N2 [KATE]」の機体も展示されている。

展示室で生まれる心の交流

──アメリカ人と日本人の来館者は、展示に対してどのような反応を示しますか?

アメリカ、日本どちらの来館者も、深い敬意をもって訪れてくださいます。ただ、アメリカの方々は先祖への誇りや感謝の気持ちを抱いていることが多く、日本の方々はより静かに、内省的な想いで展示と向き合う姿が印象的です。
 
とりわけ感動的なのは、異なる背景をもつ人びとが同じ空間で出会い、互いに敬意をもって時間を共有する瞬間です。たとえば、日本の元兵士が静かに花を手向けたり、アメリカの退役軍人が日本からの来館者に「来てくれてありがとう」と声をかけたり。こうした場面は、歴史がただの過去ではなく、今を生きる私たちの姿勢によって息づいていることを教えてくれます。

──日本からの来館者とのあいだで、感情的なつながりが生まれたエピソードはありますか?

今でも忘れられない出会いがあります。ある日本人ご夫婦が、戦時中にパイロットだったお祖父さまを亡くされた直後に来館されました。おふたりは静かに、ゆっくりと展示を見て回り、最後に「全体の物語を伝えてくれてありがとう」とスタッフに声をかけてくださいました。
 
お祖父さまは生前、戦争についてほとんど語らなかったそうです。でも、ここで展示をご覧になって、「祖父が抱えていた苦しみに、少しだけ近づけた気がする」と話してくださいました。責任や正しさを問うのではなく、ただ人間として過去に向き合い、心を通わせるそんな出会いでした。

──修学旅行の学生が訪れることも多いそうですが、若い世代は展示に対してどのような反応を示しますか?

学生たちは、展示されているものがすべて「本物」であることに驚きます。なかでも強く印象に刻まれるのは、当時使用されていた格納庫「ハンガー79」の内部です。1941年12月7日に撃ち込まれた銃弾の痕が、今もガラスに残っている。歴史が決して遠いものではなく、「すぐそばにある」ことを静かに語りかけてきます。
 
とくに若い世代に向けて設計された『パールハーバーから平和へ』というプログラムに、私たちは誇りをもっています。この体験型プログラムでは、第二次世界大戦に関わった一人ひとりの意思決定を追体験し、個人の選択が未来にどのような影響を与えるのかを実感できます。単に「何が起きたか」を伝えるだけでなく、「なぜそれが起きたのか」「これから自分たちは何をすべきか」と問いかけることを重視しています。

真珠湾攻撃の際に、窓ガラスに打ち込まれた弾丸の痕。

平和は日々積み重ねていくもの

──今、世界情勢がまた緊張しているなかで、この博物館から私たちが学べることは何でしょうか?

大きな教訓の一つは、一人ひとりの人間がもつ攻撃性が、いかに急速に破滅的な戦争へと発展してしまうかということです。しかし同時に、どんな時代であっても、思いやりや勇気、知恵をもって行動した人たちがいた事実も忘れてはいけません。
 
過去は変えられませんが、そこから学ぶことはできます。対話を重んじるリーダーを選ぶこともできるし、子どもたちに国境を越えた視野を育む教育を届けることもできます。平和は一日でつくられるものではありません。だからこそ、毎日少しずつ積み重ねていく姿勢が大切なのだと思います。

日本からの修学旅行生の見学も受け入れている。

──日本からの来館者に向けてメッセージをいただけますか?

この博物館は、誰かを責めるための場所ではありません。記憶をたどり、振り返り、和解を目指す場所です。日本からいらっしゃる皆さんには、心から歓迎されていると感じていただきたいし、戦争で傷ついたすべての命への私たちの敬意が伝わればうれしく思います。
 
そして何より、皆さんがここを訪れてくださること自体が、歴史や海を越え、世代をつなぐ架け橋となっているということを感じていただけたらと思います。皆さんはこの物語の大切な一部であり、その存在に、私たちは心から感謝しています。

Information

【Pearl Harbor Aviation Museum(真珠湾航空博物館)】

住所|319 Lexington Blvd, Honolulu, HI 96818 アメリカ合衆国

料金|一般チケット

●オンラインチケット
$27.99/大人
$15.99/子ども(4~12歳)

●現地窓口で購入する場合
$29.99/大人
$17.99/子ども(4~12歳)
$20.99/カマアイナ&ミリタリーの大人
$10.99/カマアイナ&ミリタリーの子ども(4~12歳)

*3歳以下の子どもは無料です。
*当館を含む、パールハーバー史跡群の中にある4つの博物館・記念館に入場できる、お得なパスポート「パールハーバーパスポート」もあります

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Yayoi Arimoto

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