ところ変われば作法も変わる。アメリカでも、ドイツでも、オーストラリアでも、日本でも。それぞれにクリスマスの過ごし方があるけれど、サンタクロースが暮らすフィンランドでは、いったいどんなクリスマスを送っているのだろうか? フィンランド大使館に訊いてきました!
Text:TRANSIT
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「フィンランド語で12月は、Joulukuu(ヨウルクー)と呼びます。Jouluがクリスマスで、Kuuは月という意味。つまり『クリスマスの月』と呼ぶくらい、クリスマスはフィランドの人びとにとって大切なものです。今度の春で4歳になる友人の娘も『12月が私の一番好きな季節なの』と言ってはしゃいでいました」と笑う、フィンランド大使館の参事官レーッタさん。駐日大使館を訪ねて、フィンランドでのクリスマスの過ごし方は? 食べ物は? あれこれ話を訊きました。
「クリスマスは世界各地で祝われていますが、フィンランドにはサンタクロースが暮らしているということもあって、少し特別かもしれませんね」(レーッタ)
北部のロヴァニエミにはサンタクロースが暮らすサンタクロース村があって、実際に訪れることができる。12月以外に訪れてもクリスマス気分が味わえて、毎年世界中から50万通もの手紙がサンタクロース宛に届く。
SANTA CLAUS VILLAGE
住所
フィンランドではサンタクロースは「Joulupukki(ヨウルプッキ)」と呼ばれている。Pukkiは動物のヤギを意味するので、直訳すると「クリスマスのヤギ」となる。トナカイならまだしも、なぜヤギなのか?
「もともとフィンランドには動物の皮を着た冬の訪問者の存在があって、それがサンタクロースと結びついたいう説があります。サンタクロースが赤い服を着ているというイメージは、現代に入ってからの話ですね」(レーッタ)
動物の皮を被った謎のヨウルプッキ。冬になると各家庭を訪れて、いい子には贈り物を、悪い子には注意をするという話があったり、はたまたヤギを連れて家々をまわって、プレゼントを贈るのではなくものをねだっていたという説も。古のサンタクロースはなかなか興味深い存在なのだ。
「私が子どもの頃も、サンタさんから直接プレゼントをもらっていました。12月24日の夜の早いうちに、サンタクロースが玄関からやってきたのを覚えています」(レーッタ)
どうやらフィンランドでは、サンタは煙突からは入ってこないようだ。レーッタさんはお父さんから「フィンランドはサンタクロースが暮らしている国だから、プレゼントの配達が早い。他の国はそれから一晩かけてプレゼントを配りにいくから、子どもが寝静まった真夜中にサンタがやってきて、翌朝プレゼントを開けるんだ」と説明を受けていたそう。「そうそう、クリスマスの夕食後、父が30分くらい家からいなくなる年もありましたね」とレーッタさんは笑う。もしかして、サンタクロースの正体はーーー?
フィンランドではいつ頃からクリスマスムードになっていくのだろう?
「フィンランドの子どもたちは、『アドベントカレンダー』を毎朝開けるのを楽しみにしています。12月1日からはじまって12月24日には終わるカレンダーです。あとはクリスマスから数えて4週間前から教会に行くようになります。教会でクリスマスの歌を聴くんではなくて、自分たちも歌うんです」(レーッタ)
フィンランドの人にとって、12月はクリスマスだけでなくもう一つ大事なイベントもある。
「12月6日はフィンランドの独立記念日。1917年にロシアから独立した日で祝日になります。12月はクリスマスもあって独立記念日もあるので、お祝いムードになりますね。この時期になると、よく『Pikkujoulu(ピックヨウル)』を開きます。おそらくフィンランドのほとんどの会社がやっているんじゃないでしょうか。友だち同士でもよくPikkujouluをします。小さなクリスマスパーティーという意味で、みんなでグロッギを飲んでジンジャーブレッドクッキーを食べるような小さなものから、ゴージャスな夕食会まであります。規模はまちまちですが、楽しい時間です」(レーッタ)
飾り付けもクリスマスの大事な要素。ヒンメリ(藁のモビール)を飾ったり、紙をハサミで雪の結晶のようにカットして壁に貼ったり、キャンドルを灯したり……なかでも気合が入るのは、やっぱりクリスマスツリー。
「フィンランドではフレッシュな木をクリスマスツリーにすることが多いです。自分が所有している森があればそこからモミを切り出すし、森をもっていなかったら森の所有者に事前に許可を取って木を切り出します」(レーッタ)
フィンランドには「すべての人の権利」(自然享受権)があって、誰かの私有地であっても各自が責任を持って森に分け入り、ベリーやキノコを採集することができる。ただ樹木となると話は別。ベリーであれば毎年収穫できるかもしれないけれど、木が成長するには何年もかかる。そのため、他人の森から無断で木を切り出すことはできないそう。木が欲しい場合は、ケースバイケースだけれど、森の所有者に料理をもっていくなど、物物交換をしていることもあるそう。森の持ち主と要相談だ。
ちなみにドイツ民謡からクリスマスソングになった『モミの木』のイメージもあって、「クリスマスツリー=モミの木」の印象が強いかもしれないけど、フィンランドではトウヒのクリスマスツリーが一般的。北欧で身近に生えているのがトウヒなのだ。どちらも針葉樹のマツ科で似ているけれど、見分け方は球果(松ぼっくり)と葉っぱ。トウヒの球果は下向きで、モミは上向きに直立するように成る。トウヒの葉先は尖っていて、モミはやや丸みがある。
「クリスマスに欠かせないドリンクです。もともとはドイツなどの中央ヨーロッパで飲まれていたものですが、クリスマスマーケットが開かれて、その市場でグロッギが飲まれるようになって、今ではフィンランドの自宅でも飲むものになりました。たとえばドイツで飲まれるグロッギとフィンランドのものがどう違うかというと、ドイツはアルコールが強くてちょっと重たくて、少量を飲むイメージ。フィンランドのグロッギは赤ワインの量が少なくてベリージュースの配分が多くて、甘くて軽い飲み口。フィンランドではノンアルコールのグロッギもよく飲みます」(レーッタ)
「メインディッシュはクリスマスハム。フィンランドでは七面鳥は焼かないので、ハム=豚を食べます。塩漬けのサーモンもよく食べますね。あとはジャガイモやニンジンのキャセロールもクリスマスの定番料理です」(レーッタ)
「クリスマスの朝に食べる典型的なものとしては、ライスポリッジ(お米のお粥)もあります。フィンランドで一般的なポリッジは、麦やオーツのお粥なんですが、お米は昔でいうと貴重なものだったので、それでクリスマスのような特別な時期に食べていたんでしょうね。フィンランドの家庭ではそのライスポリッジにアーモンドを一粒入れるんです。アーモンドもフィンランドで育たないのでとても貴重なもの。そのお粥を家族で取り分けて、アーモンドが入っていた人は来年が幸運な年になると言われています。このライスポリッジにシナモンをかけるので、シナモンの香りを嗅ぐとクリスマスの気分になりますね」(レーッタ)
「クリスマスの時期になると、小麦粉にレーズンを入れてサフランで生地を黄色くしたヨウルプッラという焼き菓子を食べます。サフランはフィンランドでは採れない高価なものなので、特別感を出すために使うんでしょうね。ヨウルトルットゥというクリスマスタルトも、この時期にお店で見かけるようになります。星の形をしたパイ生地にプラムのジャムが中央に入ったパンです。ほかのヨーロッパの国でも食べると思いますが、ジンジャーブレッドクッキーもクリスマスになると食べるものですね」(レーッタ)
一番気になるクリスマス当日の過ごし方について尋ねると、そもそもフィンランドの人にとってクリスマスは12月24日、25日だけでなく、3日あるという返答が!
「フィンランドでは12月24日、25日、26日が休日になります。みんな家で過ごすので、首都ヘルシンキであっても街が空っぽになる。レストランやスーパーも閉まる店が多いです。地下鉄やトラムも短縮運行をしていたりますね。
12月24日がクリスマスのメインの日。24日は家族や親しい友人とクリスマスディナーを食べて、サウナに入って、プレゼントを開けます。子どもたちがサンタクロースに会えるのもこの日ですね。
12月25日は家でリラックスする日。フィンランドでは、クリスマスにナイトクラブに行ったり、パブに行ったり、パーティをしたりはしないです。家族のみんなでボードゲームをしたり、本を読んだり、良い食事をとって、キャンドルに火を灯して、スローダウンな時間を楽しみます。充電期間ですね。
最終日の12月26日は、クリスマスの冬眠状態から抜け出す日。雪の中でソリ遊びをしたりします。気候変動の影響で年々フィンランドは雪が減ってきていますが、雪遊びしてクリスマスを過ごすということは、本当は次世代に残していきたいことでもありますね。
伝統的なことでいえば、クリスマスにお墓に行く習慣もあります。フィンランドはキリスト教のなかでも福音ルーテル派の信者が多いんですが、信心深い人は24日の夜か25日の朝に教会に行って、お墓でキャンドルを灯します。北半球で一年で一番昼が短くて夜が長くなるのが冬至ですが、それがだいたい毎年12月22日頃。クリスマスの頃がもっとも暗い時期なんですよね。そんなときにお墓でみんながキャンドルを灯すので、とても明るくて美しい光景ですよ。ヘルシンキで一番大きなヒエタニエミ墓地を訪れることをおすすめします。クリスマスは、お墓参りをして祖先や亡くなった人に思いを馳せる大切な時間でもあるんです」(レーッタ)
クリスマスといえばイエス・キリストが降誕したことを祝う日だけれど、北欧ではキリスト教が浸透する前から冬至を祝う習慣があった。一年で一番闇が深いときに、太陽をもう一度迎えようと、木を切り倒し、焚き火をしてきたという。寒い冬に家に籠って、親しい人と食事をして、時折、死者を思い出し、再び外に出ていく。そんなフィンランドのクリスマスの過ごし方は、今と昔をつながる大切な習慣なのかもしれない。みなさんもしっかり充電をして、よいクリスマスを。Hyvää joulua(ヒュヴァー ヨウルア)!
フィンランド大使館 報道・ 文化担当参事官
レーッタ・プロンタカネン
2020年10月より在日フィンランド大使館で報道・ 文化担当参事官として着任。コミュニケーション担当として、フィンランドが大事にする価値観や文化などを国内外に広める活動を行う。お気に入りは、ヘルシンキ・ロンナ島にあるサウナ。
2020年10月より在日フィンランド大使館で報道・ 文化担当参事官として着任。コミュニケーション担当として、フィンランドが大事にする価値観や文化などを国内外に広める活動を行う。お気に入りは、ヘルシンキ・ロンナ島にあるサウナ。