連載:NIPPONの国立公園

小さな生きものの楽園、奄美大島へ。

National Parks of Japan.

連載:NIPPONの国立公園

奄美大島国立公園(前編)
ルリカケスを探して

TRAVEL & THINK EARTH

2024.10.24

5 min read

鹿児島と沖縄のほぼ中間に浮かぶ奄美群島は、豊かな自然と地理的要因から、生物が独自の進化を遂げ、固有種や希少種が多い地域。最大の奄美大島で、多様な生きものたちの"住処"を見つめた旅を、前編「ルリカケスを探して」、後編「北と南の交差点で生きるもの」に分けてお届けします。

Photo : Hidetoshi Fukuoka

Text:Sayoka Hayashi Supported by THE NORTH FACE

遠浅のサンゴの海とソテツ等が自生する山の距離が近い。蒲生崎へ向かう道すがら出合った奄美大島らしい景色。

奄美大島のシンボル的存在のシダ植物、ヒカゲヘゴ。破壊された照葉樹林の森を再生する役目を担う。 

 まだ凍える寒さの東京を飛び立ってから約2時間、奄美大島の空港へ降り立つと、生暖かい風に包まれた。半袖シャツ姿の職員が目に留まる。亜熱帯の島にはすでに春がやってきているようだった。
 実は奄美大島には何度か来たことがある。私にとっては、シュノーケリングや海釣りをして、お気に入りの黒糖や島バナナをつまみつつ、喧騒から離れてのんびり過ごすための場所……なのだが、この地を南国リゾートのひとことでくくってしまうにはもったいない。そのシンボルともいえるのが、ルリカケスだ。

奄美大島本来の姿をとどめる、スダジイ(オキナワジイ)の木の森。花や実は、鳥や小型動物たちの食料になる。

 その存在を知ったのは、徳之島で造られているラム酒。エチケットに描かれた鮮やかな美しい瑠璃色の羽が印象的で、調べてみると奄美大島や徳之島に生息し、国の天然記念物に指定されている鳥だった。さらにリサーチを進めると、サンゴ礁や鍾乳洞、マングローブ、干潟といった独特の地形や自然環境がある奄美群島は、希少種・絶滅危惧種の宝庫だという。そこで、せっかくならば、とさまざまな景色をめぐりながらルリカケスの背を追いかけることにした。

海と森の豊かな景色。 

透明度が高く、近づくとブルーでもグリーンでもない色。遠浅の海では、干潮時にサンゴ礁が見られる場所も。

 わぁ! 車を降りて数十メートル、視界が開けると胸が高鳴った。目と鼻の先には、白い砂浜とクリアな海。
 初日、島ならではの自然景観を満喫するために訪れたのは、笠利町の土盛海岸。”ブルーエンジェルと呼ばれる”という謳い文句に誘われてやって来たのだが、人気のないオフシーズンの海岸には、たしかに楽園のような気配が漂う。海に足を浸してみると、それほど冷たくない。心身が浄化されるようなパノラマを前に、ちょっとしたリゾート気分を味わう。
 笠利半島の海沿いの道を車で走ると、こうした透明度の高い遠浅の海がつづいていた。ぽつぽつとサンゴ礁の影がまだらに映り、ブルーとグリ ーンの濃淡で、複雑な色を重ねている。ずっと眺めていても見飽きない、自然の造形美。夕方、その理由に合点がいった。夕日をみるため笠利崎灯台に向かう途中で、ここ大島にはウミガメが上陸・産卵する浜がいくつかあり、笠利町には浦島太郎伝説が残ることを知ったのだ。海の中はまさに龍宮城の世界なのだろう。

鮮やかな赤橙色の毛が愛らしいアカヒゲ。奄美大島や徳之島の森林に留鳥として生息する、国の天然記念物。

 2日目はいよいよルリカケス探しのはじまり。早朝は、南部・瀬戸内町にある油井岳展望台へ向かう。そこではリアス式海岸がつづく大島海峡や伊須湾を一望でき、幻想的な朝日がみられるに違いないと目星をつけたのだ。(国の特別天然記念物で夜行性の)アマミノクロウサギに出合えるかも? ハブに遭遇したら困るなぁ。あれこれと思いをめぐらせながら、展望台へとつづく真っ暗な山道を進む。

 そんな、淡い期待と心配は杞憂に終わったが、日の出を待つ時間はとても楽しかった。空が白み、朝焼けに染まる雲が色濃くなるにつれ、鳥たちの鳴き声が増え、大きくなっていったのだ。ホーホー、ピーピー、ピチピチピチ、低音に高音に、まさに森の演奏会。このコーラスの輪にルリカケスもいるのだろう。

役勝川と住用川が合流する河口付近のマングローブの森。競争相手のいないデルタ地帯で進化を遂げた植物たちの楽園だ。

 その日の午後は、龍郷町にある自然観察園を訪れることにした。ルリカケスを探しているというと、地元の人が「奄美自然観察の森がいい」と教えてくれたのだ。一帯は国立公園にも指定されている地域で、自然を生かした広い園内には遊歩道が整備され、奄美固有の野鳥や昆虫などを観察しながら散策できるようになっている。森を歩くと、早朝の展望台ほどではないが、さまざまな鳥のさえずりが聞こえた。ルリカケスは「ギャ ーギャー」鳴くとガイドブックに書かれているが、見当もつかない。

 無力感に包まれながら、園の中央あたりに位置する池を過ぎたあたりで、バサッと青黒い生きものが横切った。あれば、ルリカケス……!? 一同目を合わせる。しかし、そのあとは姿を現さなかった。我々の必死の”捜索”に、「あいつらは臆病だからなぁ」と自然観察の森で工事をしていたお兄さんが笑う。
 うーん、困ったぞ。そもそも野鳥観察初心者が、貴重な鳥を容易に撮影できるはずもない。そんなわけで、3日目はガイドさんに案内をお願いすることにした。

役勝川の橋上から見下ろしたヒカゲヘゴ。新芽は食糧難の時代に食用にされていたそう。

本記事はTRANSIT51号より再編集してお届けしました。

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日本の国立公園

北から南まで、日本に散らばる国立公園をTRANSIT編集部が旅した連載です。
日本の国立公園について知りたい、旅したいと思ったら、こちらも参考に。

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Masumi Ishida

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