連載:NIPPONの国立公園

水の記憶を辿りに、吉野熊野へ

National Parks of Japan.

連載:NIPPONの国立公園

吉野熊野公園(前編)
400年以上つづく「くじらの町」

TRAVEL & THINK EARTH

2024.10.17

10 min read

三重、奈良、和歌山の3県にまたがる吉野熊野国立公園。
信仰を抱く山と川、そして黒潮が流れる紀伊半島の沿岸部に、絶えず流れつづけた水の記憶がある。参道としての川、復活した筏師、くじらの町を訪ねた。吉野熊野を巡る旅を、前編「古と今をつなぐ水」、後編「400年つづく『くじらの町』太地町」に分けてお届けします。

Photo : Kazuho Maruo

Text:Nobuko Sugawara Cooperation:Wakayama Tourism Federation

森浦湾のシーカヤックで、放し飼いにしている小型のくじらを間近に見られることができる「太地フィールドカヤック」にて。 

400年以上つづく「くじらの町」

紀州半島南東部、熊野灘につきだした小さな港町、太地町。散策すると、シーカヤックなどのアクティビティ、博物館、くじらにまつわる史跡が多数あり、くじらがこの土地に深く根づいていることがよくわかる。

黒潮が流れる熊野灘には古くからくじらが姿を見せ、人びとは暮らしのために捕獲していた。太地が世に知られるようになったのは、1606年に太地浦を基地として古式捕鯨が始まったことからといわれる。尾張師崎の漁師と泉州堺の浪人の協力があったとされ、「江戸時代に入り、物流が盛んになったことでくじらの消費が盛んになったためと考えられます」と太地町歴史資料室学芸員の櫻井敬人さんが解説してくれた。

太地町立くじらの博物館。 

しかし太地は1878年暮れに起きた鯨組の遭難で多くの男たちを失い、さらに近代的な捕鯨船が熊野灘に進出すると古式捕鯨は終焉を迎えた。そして太地の人びとは海を越えていった。アメリカやオーストラリアなど、多くの日本人が海外出稼ぎで国を出ていった時代だ。彼らは何をしたか。櫻井さんが教えてくれた。「林業や鉱業など何でもしましたが、漁業が盛んになると、熊野の海で培った技能や知識を、海の資源に活かしたのです」

漁の神が祀られた恵比寿神社の、くじらの骨でつくった鳥居。

現代も捕鯨が行われている太地町のくじらをいただこうと、〈いさなの宿 白鯨〉へやってきた。くじらの内臓を茹でたうでものや刺身、ベーコンなどで、酢味噌やポン酢をつけるとさっぱりと食べやすい。戦後の食糧難、給食にくじらが提供されていた時代があり、その味が懐かしくて食べにくる人もいるそうだ。「太地町立くじらの博物館」では、くじらのヒゲや歯を使って作られた工芸品が展示されていた。茶托や靴べらなど、今ではほとんど見られないものだ。

日本最古といわれる白浜温泉の「崎の湯」。太平洋が間近に迫る公衆浴場。

太地町とくじらのかかわりを知りたくてやって来たが、日本を出た移民のこと、そしてなくなりつつある文化に触れた。くじらと遊ぶことも、学ぶことも、食べることも、捕鯨の営みを守ることにつながる。その営みの根底に、連綿とつづく歴史と太地の人びとの自負を感じるのだった。

リニューアルオープンした南紀白浜〈SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE〉のインフィニティ足湯。

1800万年前から1500万年前にできた地層が、長い間波の侵食を受けてできた千畳敷。中国から家族旅行でやってきたヤン・イーユェンさん。

〈COLUMN〉プレートの沈み込みによって作られた南紀熊野

複雑で多様な風景に恵まれた南紀熊野の地域には、3つの大地が存在する。7000万~2000万年前、南紀熊野の土台・付加体は、海洋プレートと大陸プレートの境目に溜まった土砂が海洋プレートが沈み込むにつれて陸地に押しつけられ作られた。1800万~1500万年前になると、浅い付加体の上にできたくぼみに、陸地から流れてきた砂や泥が堆積
した地層(前弧海盆堆積体)が付加体の隆起によって押し上げられて大地に。1500万~1400万年前にはマグマ活動が活発になり、付加体や前弧海盆堆積体をつきぬけて、大規模な火山・火成岩体が作られた。これら3つの大地は、紀伊半島の隆起と侵食の影響により、現在、地表にその姿を現した地形となっている。このため、白浜の千畳敷や新宮のゴトビキ岩といった自然の不思議な風景が見られるのである。

本記事はTRANSIT65号より再編集してお届けしました。

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日本の国立公園

北から南まで、日本に散らばる国立公園をTRANSIT編集部が旅した連載です。
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Masumi Ishida

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