今や大きな旅の目的のひとつにもなり得るサウナ。一度ハマると、もう大変。だってサウナは日本国内のみならず、世界中に溢れている。そんな未知なるサウナを求めて旅するのは、自他ともに認める生粋のサウナ狂、清水みさとさん。時間さえあれば(いやなくても)そこにサウナがある限り、臆することなく世界のどこかへ飛び出していく。そんな清水さんが出会った人びと、壮大な自然、現地独自の文化など、サウナを通して見えてきた世界のあれこれをお届けする新連載です。
Photo&Text:Misato Shimizu
「モンゴル、行きませんか?」
雑誌『TRANSIT』のモンゴル特集を読んだ感想を、興奮のままインスタに投稿した数分後、友人からDMが届いた。
モンゴル行きは一週間後。ここ数カ月、休みなく動き回っていたのも相まって、珍しく体調を崩してしまい、ラオス行きをキャンセルしたばかりだった。
行きたい。モンゴルでもなんでもいいからどこかに行きたい。
運良く(?)人に迷惑をかけなくてすむ程度の調整でいけそうだったので、「フリーランス万歳!」と小声でつぶやき、即座にチケットを購入した。
成田空港からモンゴルまでは、直行便でたったの5時間。だけど今回、それすらも待ちきれず、深夜の韓国経由便でモンゴルへと向かった。
モンゴルのウランバートルは標高が高くて、太陽がいつもより近かった。それでも暑苦しくないのは、カラッとした空気の心地よさで、世界中の夏という夏が全部これになればいいのにと本気で思った。
国を挙げた祭典「ナーダム」ともたまたま重なり、天皇陛下もモンゴルにいらっしゃるらしい。
でももちろん、今回も旅の主役はサウナと温泉。モンゴルには意外にもそれらが点在していて、誘ってくれた友人もサウナ好きだったので、行き先はすぐに決まった。
まずわたしたちは、モンゴル唯一の温泉地「ツェンヘル温泉」を目指すことにした。
ウランバートルからおよそ500km。
ツェンヘル温泉に向かうには、舗装も標識も一切ない、道なき道を行くらしい。雨が降れば、草原はぬかるみ、地盤が弱くて水がたまりやすいため、通行止めになりやすい。時間も限られているため、ツェンヘル温泉に辿り着けるかわからないと、ドライバーのバトさんは言う。
その日の運と天候次第で、どこまで進めるかわからないうえ、辿り着く保証のない予測不能のアドベンチャー。
それでも行ってみたかった。行けないかもなんて言われたら、なおさら行きたくなってしまう。自分たちの命運に賭け、バトさんとわたしたちの未知で無茶なモンゴル旅が始まった。
ウランバートルを出発して3時間も経つと、都市の輪郭はすっかり消え、あたり一面、ただ草原が広がっていた。牛やヤギ、羊たちが気ままに歩き、みんな幸せそうだった。
モンゴルは、あっけらかんとでかい。
景色は確かに変わっているはずなのに、同じ風景がどこまでもつづくから、ときどき本当に進んでいるのか分からなくなった。
ウランバートルから300kmほど走った先に現れたのは、未来がぽつりと湧いたような、近代的な建物。朝青龍がプロデュースしたサウナがある〈Asa Land Resort〉だった。(朝青龍はサウナ好き)
サウナ室は貸切制で2部屋のみ。予約必須で満室だったのに、突如ラッキーに恵まれたわたしたちは、サウナに滑り込むことができてしまった。
岩塩や凹凸のある木であしらわれた異素材デザイン。薪ストーブにセルフロウリュ、水深150cmのシングル水風呂。そのすべてがパーフェクトで、もはや朝青龍のサウナ愛に溺れていた。
モンゴルでこんなととのいが待っていたなんて、微塵も想像していなかったので、わたしの興奮がオーバードーズして無敵モードに突入した。
だけどそのテンションとは裏腹に、行く手は「普通の雨」で通行止め。本当、大自然って甘くない。
ところで、現地の人は、Google Mapをぜんぜんみない。
標識も目印もない大草原の道なき道を、バトさんはぐんぐん進んでいく。
どうして道がわかるのか聞くと、昼は太陽、夜は星空、そして、風になびく草の向きを見るらしい。
この令和の時代に、だ。
わたしたちが進化と引き換えに手放した動物的な直感や感覚を、モンゴル人はもっている。
生きる力が強すぎて、絶対わたしなんか敵わないと思った。
トイレ事情も聞いて欲しい。
草原にぽつんと建てられた小屋に扉はなく、ボットン便所はなかなか浅めで、見てはいけないものを何度も目にした。大地で気持ちよさそうに用を足す男性の背中をわたしは何度もうらやんだ。
翌日、通行止めが解除され、わたしたちは再び草原へ戻った。タイヤが滑ってスタックしたり、後輪が浮いたり、車体が信じ難い角度に傾きながら2時間半。ようやくツェンヘル温泉にたどり着いた。
ウランバートルを飛び出して、実に3日目のこと。
そこは、日本で日常的に温泉を楽しんでいるわたしからすると、拍子抜けするほど素朴で何もなかった。
だけど、数々のエクストリームを乗り越えた先に待っていたその「何もなさ」が、やけに心に沁みていた。
ちょうど夕暮れどき。
草原に囲まれた湯船に浸かりながら、わたしたちは、何度も「来てよかったね」と言い合った。
その夜、宿が見つからず、水もトイレもない小屋で、3人一緒に一夜を明かすことになった。
翌朝5時半、夜明けと共に出発し、12時間半後にウランバートルへと帰り着き、わたしたちの大冒険は幕を閉じた。
インドでガンジス河に入ったとき、わたしはマックス強くなったと思っていた。
でも、強さのボルテージにはまだまだ先があるらしい。
だって確かにわたしは、ぬかるんだ草原も、扉のないボットン便所も、サウナ施設のキッズルームで寝たことも、「楽しかったね」と笑っている。
楽しむことにかけて、わたしはしぶとい。
モンゴルは、どこかにただ行ければよかっただけのわたしに、旅史に刻むしかないハイライトで返してきた。
書ききれなかったことが山ほどある。(実はサウナも6箇所行った)
このつづきは、また新たなかたちで発信していこうと思う。
あぁ、モンゴル、忘れようがないよ。
俳優/タレント
清水みさと(しみず・みさと)
日本や世界中のサウナをめぐるサウナ狂としても知られ、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(AuDee/JFN全国21局ネット)のパーソナリティーを務めるほか、るるぶ「あちこちサウナ旅」、サウナイキタイ「わたしはごきげん」、リンネル「食いしんぼう寄り道サウナ」、オレンジページ「本日もトトノイマシタ!」など多数の連載を担当する。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー』など舞台でも活躍中。
日本や世界中のサウナをめぐるサウナ狂としても知られ、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(AuDee/JFN全国21局ネット)のパーソナリティーを務めるほか、るるぶ「あちこちサウナ旅」、サウナイキタイ「わたしはごきげん」、リンネル「食いしんぼう寄り道サウナ」、オレンジページ「本日もトトノイマシタ!」など多数の連載を担当する。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー』など舞台でも活躍中。
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