2024年12月発売のTRANSITは「台湾特集」!
編集部は雑誌制作のために約1カ月の間、台北に拠点を移し、台湾の東西南北を旅します。
TRANSIT.jpでは、編集部メンバーが日替わりで「編集部日誌 in 台湾」をお届けしていきます。
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「台湾の手づくりのもの」を取材するために、台北在住の写真家Kris Kangさんと台南をまわっていたときのこと。ずっと「Made in 台湾」のことを考えていたので、その流れで「台湾らしいものってなんだろう?」という話をKrisさんとしていた。
するとKrisさんが「ここから車で行けるところに、台湾らしいおもしろいところがあるよ」と言う。それはぜひとも台湾ならではのものを観てみたい!ということで、取材終わりにKrisさんの車に乗って台南の郊外へと向かった。
台南市中心部から車で30分ほど。のんびりとした台南郊外の町・麻豆(マードウ)に入って、車を停める。駐車場に出ると、高い塀からひょっこりとカラフルな建物が顔を出しているのが見えた。ここは道教の巨大な廟〈麻豆代天府〉だという。
立派なお堂に入ると、熱心にお祈りをしている人たちの姿がある。そのお堂を通り過ぎて、奥の庭へ進んでいくと……。
突然、巨大な龍が出現!
5階建てビルくらいありそうな龍が大きな口を開けている。龍の舌の部分は、一瞬滑り台かと思ったけど、よくよく見ると階段になっていて、豆粒サイズの人が口の中から階段をゆっくり降りてくるところだった。
さらに奥へ進んでいくと、鬼が門番する入口が出てきた。なんだかお化け屋敷みたい。ここで1人40元を払って地下の階段へ降りていく。
暗闇のなかで待ち構えていたのが、たくさんの鬼たちと罪人のような人、それに閻魔さま? 看板には「秦廣王」と書かれている。閻魔大王って、道教由来のものだったんだ、とびっくり。
閻魔について調べてみると、インド神話、仏教、道教では、法や死に関わる存在として扱われていて、冥界の王様として日本に伝わったものだということがわかってきた。台湾の秦廣王というのは、10人いる地獄の裁判官のうちのひとりのようだ。
順路に沿って歩いていくと、各ブースを通り過ぎるたびに自動音声が流れて人形が動き出す。
ここからは地獄絵図のオンパレード。
窃盗、強姦、詐欺、親不孝、弱いものいじめなどなど、それぞれの罪ごとに与えられる罰が決まっていて、それが目の前で人形劇で繰り広げられる。
「お前は生前こんなことをしたので、罰を与えてやる」「どうかお許しを」的な地獄の門番と人間たちの問答があった後、鬼たちがノコギリで人間の身体を刻んだり、鍋で煮たり、石臼ですりつぶしたり、目潰ししたり、スネを棍棒で叩いたりする。
地獄の締めくくりは、転生のお話。
台湾の道教では、おばあさんにお茶を振る舞われて、それを飲むと前世の記憶を失くすという設定なんだそう。そして人間になったり、虫、魚、馬、牛といった動物として生まれ変わっていく。
そして、地獄もあれば天国もある。
ということで、地下の地獄ゾーンを抜けて地上に出ると、今度は「吉祥」への入口が出てくる。ここでまた1人40元を払って中に入る。天国の門の前には孫悟空が立っていた。
ここでもまず最初に裁判が開かれる。分厚い本を前に神様?たちがずらりと並んで、死んだ人がその前に立つ。
めでたく極楽行きが決まると……
神様たちとお茶を飲んだりご飯を食べたり、天女たちが舞や歌を披露してくれたり、将棋をしたりできる。こういう隠居生活を送りたいものだ。見る分には地獄は刺激的で楽しいけど、自分が行くならやっぱり天国がいいなぁ。
廟でお参りしたついでに、子どもを連れてきたら道徳観の教育になるし、大人にとっては日々の戒めにもなるので、なかなかよくできた施設だなと思う。
天国ゾーンには、牛郎織女も登場。織姫と彦星って、たしかに中国から伝わったものだとは思っていたけど、道教にも通じるエピソードだったのか。通り過ぎるたびに牛郎と天女の間合いが絶妙に変わるので、出会えるのか出会えないのかハラハラする。さらにはブッダが教えを説くシーンも。道教と仏教ってどんな関係性なんだっけ? ほかにも気になる壁画がある。
道教の世界観がわかったような、逆に謎が深まったような……。Krisさんは「こういう台湾の遊び心があるものが好きなんだよね〜」と楽しそう。台湾の奥深さを感じつつ、〈麻豆代天府〉を後にする。
次にやってきたのが、台南市の郊外にある鹽水区にある〈鹽水天主堂〉。
キリスト教の教会で、台湾版「最後の晩餐」が見られる場所だという。いったいどういうことだろう……。
敷地内には、聖母マリアのお堂とメインの教会がある。小さな町の教会といった感じ。
「你好(ニーハオ)」と声をかけて建物の中に入る。しんと静まっていて、誰もいない。
そして教会の祭壇の上に……ありました、台湾版「最後の晩餐」!
中央にはキリストと思われるほろ酔い顔の人物が鎮座しています。小籠包や包子のようなごはんが並んでいるし、服も旗袍風だし、背景は松が生えているし……台湾の楽しそうな宴会を描いた絵画のよう。
平和のシンボル・白い鳩に、創造主と思われる人物や、台湾風の照明など……いろんな要素がふんだんに盛り込まれた空間。
ふと日本の五島列島や奄美の教会を思い浮かべるけれど、南国らしさだけでなくどこか陰を感じる日本の島の教会と比べると、この天主堂はだいぶ雰囲気が違う。
なんというか、日本の南の島の教会がキリストの受難の要素を抽出したとすると、天主堂は神の祝福の部分を濃縮還元した感じ。室内装飾から多幸感が溢れ出している。
ちなみに、この〈鹽水天主堂〉がある鹽水区はもともと港町で(鹽は「塩」の意味)、昔は中国・福州の商人たちが行き来して栄えた場所。街を歩くと廟や中華風の建物にも出会えたり、街なかにかわいいイラストが潜んでいたり、台湾のカルチャー誌『VERSE』の取材チームに出くわしたり、移住者も少しずつ増えていたりと、少し注目されているところなのだそう。
天主堂を訪れたときに、ちょっと街歩きしてみるのもいいですよ!
〈麻豆代天府〉の天国と地獄も、〈鹽水天主堂〉のキリスト教の解釈も、それぞれに台湾の伸びやかな創造力を感じられて、 台湾の奥深さを感じた一日だった。
台湾らしいものに触れたい人や、台湾の不思議世界に迷い込みたい人は、こんな台南デイトリップいかがですか?