今、どんな記事をつくってる? 週末はどこへ行ってた? 最近気になっていることは? などなど、TRANSIT編集部のオンオフの日々をお届けします。
現在、編集部は2026年3月発売のベトナム特集に向けて、現地で滞在制作中。ベトナムにいる間は、編集部日誌を毎日更新!
ホーチミンでの滞在もいよいよ佳境。
今回は、サッカー観戦が趣味の編集部・川原田が体験した熱狂の一夜を振り返ります。
Photo & Text: Yoshiko Kawaharada (TRANSIT)
ベトナムで人気のスポーツといえば、やっぱりサッカー。国内リーグには熱心なサポーターが多く、代表チームも近年成長著しく、タイと東南アジアの覇権を争っているとか。
せっかくなのでこの滞在中、ぜひ国内リーグの試合を見に行ってみたいと思っていた。しかし、滞在日程がU23アジア杯によるリーグ戦中断期間と完全に重なっている。
それならU23ベトナム代表の試合を、現地の人に混じってテレビ観戦してみたい。うれしいことに今大会のベトナム代表は好調で、史上2回目のベスト4に進出。準決勝で中国に敗れたものの、1月23日夜に韓国代表との3位決定戦に臨むこととなった。
サッカー人気が高い国なら、きっとパブリックビューイングをやるのでは?と調べたところ、ホーチミン中心部のグエンフエ通りで開催予定のようだ。盛り上がりそう!
一緒に夜ご飯を食べた編集部の松本を誘ってみたところ、「行きましょう!」と快諾してくれた。ありがたい。
グエンフエ通りは道路の真ん中に公園が広がる、札幌の大通公園のような場所だ。通り沿いにはカフェやホテルが並び、観光客や地元の若者たちで賑わっている。
にぎわう通りを進んでゆくと、巨大なスクリーンが見えてきた。
グエンフエ通り。奥に見えるのがパブリックビューイングのスクリーンの裏側。
スクリーンの近くには、すでにたくさんの人が。
最前列には赤いTシャツやユニフォームに身を包んだ熱心なサポーターが陣取り、太鼓を叩いて盛り上がっている。
現地のメディアらしき人びとの姿も。
国旗やハチマキ、シールなど観戦グッズを売り歩く人もたくさん。グッズだけではなくペットボトルの水、棒付きキャンディー、さらには焼き鳥のようなものも売っていて、なん何だかお祭りみたいだ。
グッズはなかなかの売れ行き。
私たちも、せっかくなので小さな国旗を買った。お値段20,000VND(約120円)。
ベトナムコールに合わせて国旗を振りながらふと振り向くと、さらに大勢の人が集まっていた。欧米からの旅行客とおぼしき人たちもちらほら。みんなの表情が試合前の高揚感に包まれている。ああ、サッカー観戦っていいなあ。
22時のキックオフとともに(正確にはなぜか2分ほど遅れて)スクリーンにサウジアラビアの会場からの試合中継が映し出され、観客も一気に盛り上がる。
この世代の代表にはあまり詳しくないけれど、おそらく韓国が序盤から圧倒するだろうな……という私の失礼な予想は外れ、ベトナム代表は優位に試合を進める。GKのカオ・ヴァン・ビン選手を中心に、守備もうまく機能している。
勢いに乗って、前半30分にグエン・クオック・ベト選手が先制点! 会場の盛り上がりも一気に加速する。
この1点を守り切って前半が終了。
周りには親子連れや女性も多く、とくに危険な雰囲気はないので、後半も引き続き観戦することにした。
喉が渇いて近くの台湾風カフェでアイスティーを購入。試合の興奮のせいか、砂糖少なめで頼むのを忘れてしまい、恐ろしく甘い仕上がりになった。ベトナムは、なぜこうもあらゆるドリンクが激甘なのか……。ぼやいているうちに後半が始まる。
後半は選手が交代して流れが変わらないか心配だな、と生意気なことを考えていたが、おそらくその不安が的中し、後半途中からひたすら韓国の猛攻に耐える展開となった。
ヴァン・ビン選手が相変わらずの活躍ぶりでしのいでいたものの、69分についに失点。静まりかえる会場。
しかし、ベトナム代表にはまたしてもいい意味で裏切られる。失点からわずか2分後、グエン・ディン・バック選手がフリーキックを決めて勝ち越し!
この日一番の歓声がグエンフエ通りに響いた。
少ないチャンスを見事に得点につなげたものの、その後も防戦一方の展開に。立て続けにシュートを放つ韓国。止めるヴァン・ビン選手。湧き上がる拍手。
86分には勝ち越しゴールを決めたディン・バック選手が、危険なタックルによるレッドカードで退場してしまう。そしてアディショナルタイムは7分と長め。「10人であと7分耐えるの?ほんとに?」周りの人たちは、きっと口々にベトナム語でこう叫んでいたに違いない。松本とともに「怖い怖い、ずっと怖いですね」とハラハラ戦況を見守っていたら、ベトナム語の実況が「ズットコワイ」と言ったように聞こえて2人で笑った。
ズットコワイ展開を何とか耐え抜き、ついにアジアNo.3の座を獲得かと思われた90+7分。
韓国選手が放ったシュートが、あっけなくゴールに突き刺さった。
呆然とする観客たち。
サッカーとはなんて残酷なスポーツなのだろう。
試合は、前後半合わせて30分の延長戦へ。「この耐久ゲームをあと30分やるの?ほんとに?」周りの人びともこう叫んでいたに違いない。
翌朝に打ち合わせを控えた松本は、残念だけど先に帰りますと宣言。こんな時間までつき合わせたうえに勝敗が決まらないことを申し訳なく思いつつ、見送った。
気を取り直して、私はベトナム代表を最後まで見届けるとしよう。
延長戦もズットコワイ展開ながら、10人のベトナムは韓国の猛攻に耐えて、耐えて、耐えぬいた。いま思い返しても、あの押されぶりで失点しなかったのは本当にすごい。
試合はついにPK戦に突入。
時刻はすでに0時40分。まさかこんな長丁場になるとは。さすがにちょっと疲れてきたが、持て余していた激甘アイスティーが糖分補給に活躍したのはうれしい誤算だった。
PK戦を前に激励し合うGKを見るのが好きだ。
ベトナムの選手がPKを決めるたびに歓声、韓国が決めるたびにため息が、グエンフエ通りを包む。PK戦は何度見ても心臓に悪い。でも、私は勝てると思っていた。大活躍のヴァン・ビン選手がきっと止めてくれるはずだ。
予感は的中し、韓国の7本目を見事にセーブ!
そして、ベトナム7人目の選手が冷静に決め切った。
勝利を祝う音楽(?)が大音量で流れ、サポーターのグループは国旗を振り、飛び跳ねて歓喜に沸いている。
一方で、すみやかに帰ってゆく人もけっこう多く、スクリーンもさっそく解体作業が始まり、その切り替えの速さもおもしろかった。私も撮影を続けつつ、宿舎へ帰る手段のことを考え始める。いざとなれば歩けばいいか……。
でも、心配は無用だった。大勢のバイクタクシーのドライバーが、会場近くで待機しつつ試合を見ていたのだ。確かに大画面で観戦できるし、終われば次々と乗客が現れるし、ここで待つのは賢い作戦だ。
順調にバイクを手配し、ベトナム国旗を片手にまたがる。道路は国旗をはためかせ、クラクションを鳴らして勝利を祝うバイクでいっぱいだ。
信号待ちで並んだ二人乗りの女の子たちと目が合って、互いに国旗を振りながら歓声を上げる。道路沿いのレストランの店員さんも、お皿をスプーンで打ち鳴らして祝勝ムードに参加してくれる。
試合展開もサポーターの熱気も、サッカーに限らずベトナムという国がもつエネルギーと粘り強さ、成長意欲を象徴しているように思えた。代表チームも、この先どんどん強くなるかもしれない。
そして、手に汗握ってハラハラしたり、飛び上がって叫ぶほど喜んだり。日常ではまずない感情のジェットコースターを味わわせてくれるサッカーは、やっぱり万国共通で愛おしく狂おしい存在。そう実感したホーチミンの夜だった。