音楽で旅する、家でのリラックスタイム 
ベトナム編
山崎敦也(TRANSIT)

連載|今週の編集部日誌

音楽で旅する、家でのリラックスタイム
ベトナム編
山崎敦也(TRANSIT)

People: 山崎 敦也(TRANSIT)

LISTEN

2026.03.06

4 min read

今、どんな記事をつくってる? 週末どこ行ってた? 最近気になっていることは? などなど、TRANSIT編集部のオンオフの日々をお届けします。

今週は、編集部でデザインや音楽配信まわりを担当している山崎の日誌をどうぞ。

Photo & Text: Atsuya Yamazaki (TRANSIT)

遠くへ行きたいと思う日がある。けれど、思い立ったその瞬間に旅へ出られるほど、日常は身軽ではない。そんなとき私は、家で音楽を流しながら、ささやかな旅をする。ヘッドフォンをつけるだけで、部屋の空気がゆっくりとどこか別の場所へと開いていく気がするからだ。
 
もともと音楽収録について学校で学んでいたこともあったり、バンドを組んでいたりもして、昔から音楽が身近にあるほうだったのだけれど、こうして音楽で旅をするようになったきっかけは、TRANSIT最新号のベトナム特集の取材でハノイを訪れたときの体験だった。
 
街を歩いていると、その土地の人たちがどんな音楽を聴いているのかが気になってくる。私は、景色を「見る」だけではつかめない街のリズムや温度のようなものが、クラブやカフェ、あるいは誰かの部屋から漏れてくる音に、ふと表れるのではないかと思った。
 
そんな体験から、旅をしている間も、帰ってきてからも、音楽を通して街を感じる旅が始まった。この記事では、家にいながら旅の気分を味わえるベトナム編のプレイリストをまとめてみた。

「Xăm Hường」/Le Motel

ハノイ・西湖周辺で見かけた路上床屋。ふと、スコールが来たらどうするんだろうと思う。

ブリュッセルを拠点に活動する音楽家Le Motelが、2025年にリリースしたアルバム「Odd Numbers / Số Lẻ」の収録曲。2023年に彼がベトナムを旅したことから作られた作品で、ハノイの街角から中国国境に近い山岳地帯のコミュニティまでを巡り、バイクの走行音、台所の気配、雨音、街の喧騒、人びとの声といった日常の音を現地で録音したフィールドレコーディングを素材として、楽曲の中にもその環境音が取り入れられている。
 
さらに本作では、現地の詩人や研究者、住民も制作に迎え、旅人の視点だけではない、土地の人と共鳴する作品に仕上がっている。
 
ミニマムな電子音とベトナムの音のある風景を静かなアンビエントとして再構築した楽曲は、バイクの流れをかき分けて歩いたハノイの交差点や屋台の湯気、路地から聞こえる音など、旅の間に何気なく耳にしていた音を鮮明に想起させ、ベトナムの一日が音の記憶としてそっと立ち上がるような一曲だ。

Danbao Jaraï」/Kink Gong

狭い足場もなんのその。絶妙なバランスで西湖の釣りを楽しむ地元民。

アオザイの長い裾。後輪に巻き込まれないか、つい心配になる。

フランスの民族音楽の研究者であり音楽家でもあるKink Gongによる録音作品のひとつで、ベトナム中部高原に暮らす少数民族ジャライの音楽文化を記録したトラック。素朴でドローイング的な弦の響き、森や村の環境音、儀礼や生活の気配がそのまま録音されており、音楽というより文化の断片に近い聴取体験ができる。Kink Gongの音源は、いわゆる民族音楽を譜面に音符を整列させるタイプの採録というよりも、その場の空気や湿度、人の距離感が伝わってくる音のドキュメントのよう。

「Master」/Trần Uy Đức

夕暮れのハノイ・西湖。ノンラーをかぶった釣り人が、今日も静かに糸を垂らす。

ハノイを拠点に活動するアーティスト Trần Uy Đức による楽曲で、2023年リリースされたアルバム「Trần Uy Đức」の収録曲。ローファイな電子音や断片的なサンプリングを重ね、クラブミュージックの構造をゆるやかに解体するようなサウンドが特徴で、どこか崩れたリズムと余白の多い音像は、都市のざわめきを映し出すように響く。本作は、ベルリンのDJ Phuong-Danが主宰するレーベル「dispari」からピックアップされたことでも注目を集めた。
 
また彼は、インディペンデントな表現者を集めた音楽イベント「Hanoi Bedroom Shows」の創設者でもあり、ハノイのアンダーグラウンドな音楽シーンを象徴する存在。

やがて音楽を止めると、部屋はふたたび静けさを取り戻す。テーブルの上には、冷めたコーヒーと今日も結局外へ一歩も出ていない自分。それでも不思議と、ほんの少しだけ遠くまで行ってきた気がしている。
 
そんな風に音楽が運んでくれる異国の気配。このプレイリストと合わせて、いまのベトナムを旅とカルチャーの視点から掘り下げたTRANSITのベトナム特集もぜひ読んでみてほしい。ページをめくれば、きっともう少し遠くまで旅が続いていくはずだ。

Vietnam

雑誌|永久保存版

Magazine|TRANSIT71号
何度でも、ベトナム

2026

SPRING

TRaNSIT STORE 購入する?

ABOUT
Photo by

Yayoi Arimoto

NEWSLETTERS 編集後記やイベント情報を定期的にお届け!