2024年12月発売のTRANSITは「台湾特集」!
編集部は雑誌制作のために約1カ月の間、台北に拠点を移し、台湾の東西南北を旅します。
TRANSIT.jpでは、編集部メンバーが日替わりで「編集部日誌 in 台湾」をお届けしていきます。
台北を離れることができるのはこの日だけで、したがって普通の観光ができるのもこの日だけだ。『千と千尋の神隠し』の舞台に似ていることで有名な九份までバスで行き、自分のなかのジブリファンタジーを楽しむ気満々。
行き方は簡単で、台北からバスに揺られること約40分、山の中に佇む村に到着した。土曜の午後の竹下通りに来たのかと思うほど観光客が多く、おまけに臭豆腐の匂いが漂っている(ファンは大喜びだろうけれど)。しかし、その場所は壮大で、商店街から離れて細い道をぶらぶら歩いていると、迷路のようにつくられた九份の魅力を感じ、急な路地に立つと目の前には東シナ海が広がる。
美しい場所にもかかわらず、人ごみに目眩がする。プランBを考えていると、老婦人が近づいてきて中国語で話しかけてくる。何を言っているのかよく理解できないまま、僕は翻訳機を使って彼女に街中でのお勧めのアクティビティを尋ねた。とても親切なおばあさんは、「お寺、山」と英語で何度も同じキーワードを僕に言う。グーグルマップを見てみると、30分ほど歩いたところに〈瑞芳青雲殿(Jiufen Qingyun Temple)〉という巨大な寺があるようだ。
寺は確かに巨大で、観光客は私一人だ。入り口にいた女性が困惑した顔で、どうしてこの寺のことを知っているのか、どうやってここに来たのかと聞いてくる。歩いて来たと答えると、彼女は怪訝そうな顔をし、老婦人に勧められて来たと答えると、信じていないような顔をする。
明らかに僕のことを変人だと思っているはずなのに、とても親切な彼女はエレベーターを指差し、僕を6階まで送ってくれた。
ドアが開くと絵のような山の景色が広がり、寺の本堂に入ると、すべてが金と赤で、ゴージャスな雰囲気につつまれる。お香の煙と道教の彫像のあいだで、僕はただ景色を見つめている。
どうしてこんなところに来ることになったのだろう?運命なのか?本能なのか?意味が本当にないのか?仕事でこのような場所に行けることは、どれほどの特権なのだろうか?僕はこれに値するのだろうか?九份の臭豆腐を食べるべきだったか?突然、どこからともなく猫がやってきて、僕を現実に引き戻す。
各フロアは不思議に満ちており、インターネットで情報を探しても、この寺がほとんど知られていないとは信じられない。バス停まで歩いて戻る。『千と千尋の神隠し』のように時間の感覚が変わり、1時間かと思ったら実際には4時間近く経っていた。バスは僕を台北というリアリティで降ろし、時間の流れが日常に戻り、僕もいつもの自分に戻った。
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