「 サウナ」とひと括りにしてしまいがちな蒸気浴や熱気浴は、各地によってその歴史も呼称も千差万別。まずは世界に広がる温浴文化を俯瞰しよう。
Photo : Ayana Kobayashi , Kenichi Murase
Text:Ayana Kobayashi
サウナ(Sauna)とは、北欧フィンランドで古来受け継がれてきた「焼け石に水」式の蒸気浴法を指すフィンランド語だ。本国のサウナでは、焼け石の載ったストーブに入浴者が頻繁に水をかけ、流動する熱々の蒸気を素肌で浴びて楽しむ。この蒸気はロウリュと呼ばれ、フィンランド人のサウナ体験には絶対不可欠だ。
ところが今や、サウナという言葉は大陸を越え、日本はもちろん世界中で、蒸気浴( 部屋に充満するスチームを浴びる入浴法 )や熱気浴( 温められた部屋で熱々の空気に身を置く入浴法 )をひっくるめた一般用語として用いられるようになった。
フィンランドのサウナとそっくりの蒸気浴法はロシアやバルト三国など周辺諸国でもはるか昔から継承されてきたので、実はどこが真の発祥地かは、誰も正確にはわからないのだ。ただ少なくとも、蒸気浴の伝統をもつ国々ではそれぞれに「 サウナ 」以外の独自の呼び名をもっている。それらの国で「 あなたたちのサウナが……」と切り出してしまうと、現地の人からすぐさま訂正が入ることも少なくないだろう。
さらに世界をつぶさにみれば、ある国や地域に古くから根づくユニークな温浴文化は、サウナ以外にいくつも現存する。日本人にとっての湯浴(風呂)もその一つだし、岩盤浴や酵素浴など、身体を温める方法だけでも実に多様なメソッドがある。また、温浴の伝統を受け継いできたのは、暖を取る必要のある北国の人びとだけでは決してない。うだる暑さの南国や中東諸国でさえ、風土や歴史、宗教観などを反映して、独自の浴場スタイルや入浴作法が古くから育まれてきたのだ。その一部をのぞいてみよう。
適度に熱した部屋で焼け石に水をかけ、断続的に蒸気を浴びて発汗を促す。20世紀に電力で石を温めるストーブが開発され、都市部でも自宅サウナが普及した。公衆浴場内に水風呂はないが、水辺の浴室なら合間に湖や海に直行し、季節問わずクールダウンをする。
フィンランド同様、焼け石に水をかけて蒸気を浴びる。2014 年に、南部の古いサウン建築群が世界遺産に登録された。近年は首都圏を中心に大型スパも人気を博す。イノベーション大国らしい、最新技術を搭載したストーブやモバイルサウナの開発企業も増えている。
国境を接し、文化的・歴史的に近しいリトアニアと、入浴法もかなり類似している。プロのピルツ・マイスターの国家資格もあり、ウィスキング施術では緑葉だけでなく色とりどりの花弁を多用。都市部には、ソ連時代にできたロシア式公衆バーニャも多く残る。
「焼け石に水」式の蒸気浴法を古来実践する。浴室内で植物の葉束を使って身体を刺激するウィスキングの伝統が根強い。ピルティス施設では、ウィスキング施術だけでなく入退室や蒸気を立てるタイミングまで、訓練を積んだマイスターに終始委ねるサービスも主流。
伝統的には各家庭で利用された「焼け石に水」式の蒸気浴室を指すが、都市化が進んだ15世紀以降、街角で公衆バーニャの建設が進んだ。室温が周辺国の浴室より圧倒的に高く、浴室内ではセルフ・ウィスキングを楽しむ客が多い。冷水浴槽やプールも必ず併設。
ハマムは、「清潔は信仰の半分」を教義とするイスラーム圏の各国で、人びとが定期的に通う公衆の熱気浴場。モロッコでは、オリーブの練り石鹸や垢すりグローブを持参し、3つの温度帯に区切られた湿潤な浴室の床に座り込んで発汗しながら、自身で垢すりをする。
ラオス同様に寺内で実践されてきた、香りがよく薬効成分を含むハーブの芳香漂うスチームバスでの蒸気浴療法。昨今は入浴の場が寺から公衆浴場へと移り、都市部やリゾート地を中心に店舗が増えている。ウコンやガランガルなどの地下茎由来のハーブを多用。
1964年の東京五輪会場にフィンランド人が建造したサウナが火付け役となり、サウナと名のつく蒸気浴室や熱気浴室が温浴施設に設置され始めた。今日のブーム下で様相はさらに多様化し、アウフグースやウィスキングなど他国由来のコンテンツを導入する施設も増えた。
北アメリカの先住民(ネイティブ・アメリカン)が、浄化の儀式の場として受け継いできた蒸気浴場。枝木や動物の皮などを使用した低天井の簡素な小屋で、焼け石に薬草の煎じ汁をかけて発生した蒸気を浴びる。儀式は長時間を要し、心身への過度な負担も伴う。
スペイン侵略以前のアステカなど古代文明の民族の末裔が受け継いできた、集団儀式や病人の療養目的で使用される蒸気浴室。基本構造や蒸気発生法はスウェット・ロッジと似ている。浴室は母の子宮を象徴し、胎内での集団儀礼を通じて心身の蘇生を象徴体験する。