今、どんな記事をつくってる? 週末はどこへ行ってた? 最近気になっていることは? などなど、TRANSIT編集部のオンオフの日々をお届けします。
現在、編集部は2026年3月発売のベトナム特集に向けて、現地で滞在制作中。ベトナムにいる間は、編集部日誌を毎日更新!
クラブ、カフェ、部屋のスピーカー……。ハノイの日常で鳴っている音楽を通して街のもうひとつの表情を辿る。更新4日目は、編集部・山崎が現地の人に聞いたおすすめミュージシャンをピックアップ!
Photo & Text:Atsuya Yamazaki(TRANSIT)
ふだん暮らしている街から一歩離れると、海外でも国内でも、その土地の人たちがどんな音楽を聴いているのかが気になってしまう。
観光名所や街並みを「見る」だけではわからない、その街のリズムや空気感は、クラブやカフェ、部屋のスピーカーから流れてくる音に、より率直に現れる気がするからだ。
今、滞在しているハノイでも同じだった。タクシーのカーステレオ、朝のラジオ体操、誰かの部屋から漏れてくるメロディ。そうした日常の音の断片をたどることで、ハノイの輪郭が浮かび上がってくる気がする。
今回は、現地に暮らす人に聞いたおすすめミュージシャンを手がかりに、ハノイを視覚だけでなく”聴覚”から巡ることで、もうひとつの街の顔に出会おうと思う。
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Mr.Tien(ベトナムのDJ)
Mr.Tienとは、ハノイ旧市街の外れにあるクラブ〈Unmute〉で出会った。クラブの喫煙所でタバコを吸っていると「火貸して?」と声を掛けてきたのが、ベトナム人DJのMr.Tienだった。ハノイ近くのバクニン出身で、今も実家からハノイまで遊びに来ているところだという。偶然にも大阪に住んでいたこともあって、日本語も堪能。すぐに打ち解けて、ベトナムや日本の好きな音楽の話になった。Mr.Tien自身のプレイは、ベトナムのローカルシーンと海外の電子音楽を横断する選曲。クラブから夜の街なかに一緒に出かけて、ハノイのナイトカルチャーを体感させてくれた。
彼に好きなミュージシャンを聞くと、真っ先に名前が挙がったのが「Tri Minh」だった。
早速聴いてみる。ミニマルで緊張感のある質感。ジャズの即興性を電子音楽へと拡張したようなサウンド。どうやら、映像作家やダンサー、美術家とのコラボレーションも多いとのこと。ジャンルレスな表現が実験的なアート作品のようだった。
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Dia Than Vintage(西湖のレコードショップ)
翌日、Mr.Tienから教えてもらったレコードショップに向かうべく、西湖方面に足を動かした。ハノイ旧市街よりゆったりとした時間が流れる西湖のレイクサイドの道からひとつ内側に入った通りに、レコードショップ〈Dia Than Vintage〉はある。
US、UKミュージシャンはもちろん、ベトナムインディーからベトナムの現代音楽まで網羅していて、ローカルカルチャーの拠点になっている。
そのとき店内で流れていた静かな音楽が気になって尋ねると、「Lê Cát Trọng Lý」の名前が返ってきた。
ベトナム中部・ダナン出身のミュージシャンとのこと。ガットギターや弦楽器を中心とした最小限の編成で奏でる旋律は、クラシックやフォークを軸に、民族音楽の気配が溶け込んだサウンド。詩的で余白の多い世界観は、自然に呼吸を整えるような時間が流れる西湖周辺にぴったりの音楽だ。
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大澤晃佑さん(ベトナム在住の建築家)
ベトナムのカルチャーをリサーチしているなかで、気になる日本人がいた。ハノイ在住の建築家・大澤晃佑さんだ。
彼が手がけた西湖のカフェ〈Fu Hoo Cafe〉を訪れると、偶然ご本人と遭遇。声をかけると、建築や食、ローカルのクリエイターについて次々と話してくれた。そして、話題は音楽へ。
学生時代は日本でクラブに通い、自らイベントをオーガナイズしていたという大澤さんが挙げてくれたのがPhuong-Danだった。
Phuong-Danは、ベトナムにルーツを持つ国際派DJとのこと。
なんだか僕の好みの音楽な気がして改めて調べてみると、彼は文化人類学やドキュメンタリーがバックグラウンドにあることがわかった。セットリストは、アンビエント、ポストクラシカル、民族音楽的な要素が混在する。音楽を単なる娯楽ではなく、文化や社会、場の関係性を映し出すメディアとして捉えた音像は、クラブカルチャーだけでなく、アートや映像とも相性がよさそうだ。
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TRANSIT編集部
ハノイの日常で鳴っている音楽を辿るうちに、最後にたどり着いたのが「Tiny Giant」の音だった。
アンビエントやエレクトロニカを基調としたサウンドは、ループや即興演奏を重ねながら、その場の空気を取り込むように音が立ち上がっていく。音楽を聴いているはずなのに、いつの間にかハノイそのものに耳を澄ませている感覚になった。そして、英語やベトナム語、時には他言語がミックスされた楽曲は、この都市の多層性をそのまま音に映し出している気がした。
あらためて街を歩くと、どこにいても音がある。
クラブの低音も、カフェのBGMも、部屋のスピーカーから流れる小さなメロディも、すべてがハノイの一部だ。
耳を澄ませたあとの街は、少し違って見えてくる気がする。
今日もハノイの音を拾いに、街を歩いてみる。