古くから藍や綿花の生産地として知られる岡山県の児島の地に根をおろし、デニムや藍染めを軸とした服づくりをする〈KAPITAL〉が、日本の伝統や昔ながらの精神を受け継ぎながらも、新しい試みにも挑む「Japan Working Hero」を訪ねて、季節ごとに旅をする連載。
「浅葱と蕎麦職人編」では、蕎麦職人である納剣児さんに会うために、東京・目白の蕎麦店〈蕎麦おさめ〉へ向かった。
Photo : Yayoi Arimoto
蕎麦粉がこね鉢にあけられると、空間には蕎麦特有の香りが広がった。納さんが蕎麦打ちに取りかかると、さらさらの粉は、1時間もしないうちに、練ることで滑らかな塊に、のすことで薄く平たい面になり、見事な包丁さばきで極細の蕎麦へと変化した。刻一刻と工程ごとに形状が変わる様子に思わず見入ってしまう。
訪ねたのは、東京・目白の蕎麦店〈蕎麦おさめ〉。店主・納剣さんがこの日打っていたのは、鳥取・伯耆の在来種で、自家製粉した玄挽きの蕎麦粉。粉の粒度や水分含有量は、生産者や年によっても異なる。そのため、水は経験で得た感覚で加えていく。殻ごと挽いた玄挽きの粉は切れやすいため、のす方法も試行錯誤の末に独自で編み出したという。蕎麦打ちの極意を聞き出そうとするも、「正解はないんです。自分がよければそれが正解」と軽やかに口にする。
19歳で蕎麦職人の道に進み15年。蕎麦打ちに正解はないという納さんの、唯一といってもいいこだわりは、在来種の蕎麦を用いること。現在お店では全国20産地ほどの、交雑していない在来の種を扱っている。海外でのポップアップのお話をいただく機会もあるという納さんに、近い将来の展望を伺うと頼もしい言葉が返ってきた。
「蕎麦打ちをしながら世界各国をまわり、日本の蕎麦の文化を伝えていくことは、役目であり楽しい目標でもあります。そして、今のお店で在来蕎麦の魅力をしっかり伝えていきたい」
実は納さん、焼畑農業や寒ざらし蕎麦といった、伝統的な蕎麦づくりにも積極的にかかわっている。それは、絶滅してしまった種もあるなかで、在来種本来の香りや味わいといった個性を守り、多くの人においしさとその存在を知ってもらいたいという思いから。
自然の中で過ごす時間が好きで、趣味はイワナやヤマメの渓流釣り。草木が芽吹き、色とりどりのサクラ、モモ、ツツジがモザイクのように咲き誇る山里で「いつか秘境でのんびり蕎麦を打って暮らすのもいいなぁ」と青写真を描く。〈KAPITAL〉のWORK WEARに身を包んだ納さんの好奇心と探究心は、これからも季節をめぐっていく。
蕎麦職人
納剣児(おさめ・けんじ)
神奈川県出身。調理専門学校を卒業後、3件の蕎麦屋での修業を経て、2018年に蕎麦屋「蕎麦おさめ」をオープン。在来蕎麦にこだわり、香りの高いさまざまな種類の蕎麦を提供している。
神奈川県出身。調理専門学校を卒業後、3件の蕎麦屋での修業を経て、2018年に蕎麦屋「蕎麦おさめ」をオープン。在来蕎麦にこだわり、香りの高いさまざまな種類の蕎麦を提供している。
蕎麦おさめ
営業時間|11:30〜14:30(lo.14:00) 17:30〜21:00(lo.20:00)
定休日|月曜・火曜
問い合わせ先
HP:www.kapital.jp
Instagram:@kapitalglobal
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