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People: THE NORTH FACE
TRAVEL&THINK EARTH&LIVE
2025.09.30
10 min read
北の果て、知床半島。原生の姿が今も残るこの土地で、“自然との共生”をテーマにしたアウトドアイベント
「SHIRETOKO Adventure Festival」が9月6日(土)・7日(日)に開かれた。
後編では、写真家の石川直樹さんと知床五湖をめぐった2日目の様子をお届け。知床の景色や生きものに出会い、主催者たちとの会話を通して考えた知床の未来とは?(前編はこちら)
Photo & Text:Shun Suzuki(TRANSIT) Cooperation:THE NORTH FACE
Index
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2日目の朝は、「知床五湖フィールドハウス」に集合。原生林の中を歩き、大小5つの湖が点在する知床五湖をめぐるのだ。2パターンある散策ルートのうち、5湖すべてをまわる1周約3kmの大ループコースへ。
同行するのは、数々の山を登頂してきた写真家・石川直樹さん。写真集『知床半島』を出版するなど、石川さんにとって知床は縁の深い土地で、「ぼくが好きなアラスカに似ている」という。知床五湖を訪れるのは、じつに15年ぶりなんだとか。そんな石川さんと歩けるとは、なんと贅沢なプログラム!
ルートに入る前にまずは事前レクチャーを受講。もっとも注意すべきは、やはりヒグマの存在。最善の対策は「出会わないこと」だという。直近のヒグマの目撃情報は一昨日……背筋が伸びる。
鼻の利く熊を引き寄せないためにも、対策は万全に。飲み物はお茶と水のみ、食料品はすべて密閉容器に入れて、熊鈴を付けて……さあ、準備はバッチリ。いざ5つの湖をめぐる旅へ!
青々とした緑の中をゆっくりと歩く。気付けば辺り一面は、原生林の景色!ここはテーマパークなんかじゃない、エゾリスやエゾジカ、ヒグマや野鳥などの動物たちが暮らす野生の世界だ。
頭上では鳥の甲高い鳴き声が飛び交っている。澄んだ空気をたくさん吸って、足を一歩一歩前に出す。自然の中で体を動かすって、やっぱり気持ちいい!
僕たちの歩みに合わせて、鞄にぶら下げた熊鈴の音が鳴り響く。あるとき、先頭を歩くガイドさんが声を上げた。
「ホイッ、ホイッ、ホオーイッ!」。
カーブの道など先の視界が見えにくいところでは、大声を出して僕たち人間の存在を知らせる。返事はない。ヒグマの気配がないことを確認して、また先へと進む。
熊がエサを採ろうとしたときに付けたとみられる大きな爪痕。
道の脇には、海風にあおられて同じ方向に倒れた木々が横たわっている。根っこはむき出し、まるで彫刻のような造形美。
「ヒグマは一年を通して何を食べるでしょう?」と、ガイドのケケさんが僕らに問いかける。春はドングリや水芭蕉、夏はキノコやサクランボ、昆虫、秋は鮭。冬は冬眠しているという。
「食事の8割は植物性で、残りの2割が動物性。健康的でしょう?」と笑うケケさん。森の中で聞く自然界の話は、教科書で学ぶよりもずっとリアルだ。
「シジュウカラですよ!」
ケケさんの指差すほうには、2匹の鳥が木に止まっている。参加者それぞれがおもむろに双眼鏡を構えて、バードウォッチングタイム!
歩みを進めるごとに出会う景色は変わっていく。視界の向こうには、最初の湖・五湖が見えてきた!
奥に見える先の尖った山は知床連山の主峰・硫黄山(アイヌ語で「アトサヌプリ」=裸の山)。冬は湖が凍りつき、一面雪景色になるそうだ。ぜひその景色も見てみたい。
道中にはさまざまな色や形をしたキノコが顔を出している。参加者のひとりが「これって食べられますか?」と尋ねた。
「それは”ドク”ツルタケといって、毒キノコ図鑑の1ページ目に載っているようなものですね(笑)」とケケさん。最初にキノコを口にした人は偉大だと思う。
四湖、三湖、二湖……と時間を気にせず、その時々の景色を楽しむ。同じ湖といえど、見える景色は異なる。天気に恵まれ、凪の湖面には羅臼岳をはじめ知床連山が鏡のように映る。
そして最後の湖・一湖までたどり着いた。石川さんはカメラのファインダーを覗いている。彼にはどんな景色に写っているのだろう。
「こうして同じ道を歩いていた当時のことを、断片的に思い出しましたね」と、石川さんは小さくつぶやいた。
一湖を後に、最後の林を抜けて高架道へ出た。ここまでくればもう熊に怯えることもない。約3時間のハイキングを終え、無事に知床五湖フィールドハウスに戻ってきた。
ほどよい足腰の疲れと達成感が心地いい。一緒に参加した一般のお客さんたちの表情もどこかすっきりして見える。
SHIRETOKO Adventure Festivalは「次世代へ、つなぐ。」がテーマ。Snow PeakやGoldwinなどの民間企業と、斜里町・羅臼町、知床財団が連携したことで、「自治体の枠を超えて、地元住民と来訪者が知床の魅力を届ける機会になった」と斜里町・羅臼町長のふたりは振り返る。
一方、開催の約1カ月前にはヒグマとの不幸な事故があった。安全面への懸念から、プログラムを一部変更するなど調整を重ねてきたという。
「ヒグマとのかかわり方は、地元の人びとにとっては日常の一部。だからこそ、このイベントが多くの人に“自然との共生”を考えるきっかけになってほしい」と主催者たちは語る。
(左から)株式会社スノーピークの青柳克紀さん、斜里町の山内浩彰町長、知床財団の村田良介理事長、羅臼町の湊屋稔町長、株式会社ゴールドウインの森光さん。
地元の人びとの暮らしがあり、旅行客が訪れ、そのすぐそばには野生に生きる動植物たちがいる。もし人間と自然が共生する理想のかたちがあるとするならば、どんな姿なのだろう。
そんな問いをぶつけてみると、「自然と人間社会が当たり前に共存している空間。それを実現するためには、ルールや仕組みづくりなどできることをやっていくしかない。そういう意味でも、まずはこのようなイベントで知床について少しでも知ってもらうということが大事だと思うんです」と知床財団の理事長・村田良介さん。
まずは足を運び、魅力に触れること。それが“自然との共生”を次の世代に渡していくための最初の一歩になるのかもしれない。
SHIRETOKO Adventure Festival
開催日時
会場
主催