寒さが増すこの季節、風邪を引いたり、慢性的な不調に悩まされたりする人も多いのでは。そんな今だからこそ、健康に留意して生活をする「養生」や、「気」を整えることを重視する東洋医学の観点から、冬の体を整える方法を学んで行こう。 仁愛中国鍼灸院の院長であり、『東洋医学式 カラダとココロの整え方』の著者・鈴木知世さんに話を聞いた。
Text:ANNA HASHIMOTO
中国の思想で「生」を養う、すなわち人間の身体を整えることを養生と呼ぶが、この「生」というものを簡単に説明すると「生命エネルギー」のことを指す。東洋医学では、人間は生命エネルギーにより活動していると考えられており、そのエネルギーは親からもらった「先天の精」と食事や飲み物などで補う「後天の精」に分けられる。
重要なことは、そのエネルギーは有限であるということで、年齢があがるにつれて失われていくこと。エネルギーが落ちても、体を衰えさせないためには、「後天の精」の補給が必要であり、まずは「五臓六腑」を健康に保つことが大切だ。そのために必要なのが養生で、巡り来る季節に合った食べ物をとることから、質の良い睡眠をとり、適切な衣服を選ぶこと(体温調整)、適度な運動、精神面の健康まで、幅広い意味がある。養生は、季節ごとに心に留めておきたい、健康になるためのポイントをおさえているのだ。
東洋医学は東洋哲学に根ざしている。東洋哲学は大まかに、中国やアジアを中心とした東洋世界の思想や宗教、文化などを含んだアジア人の根っこをつくる部分だといえる。東洋哲学では約3500年前の時点で1年が365.25日であるということを見出しており、これを明らかにしたのは一本の棒の影、つまりは日時計だった。
天体の運行と自然や気候の移ろいを観察することを「易」と呼び、影の長さから日照時間を把握した。もっとも日照時間が短いのが「冬至」、反対にもっとも長いのが「夏至」、昼と夜の時間がほぼ等しくなるのを「春分」と「秋分」とし、この4つをピークとして春夏秋冬の季節を決め、さらにそれぞれの始まりを「立春」「立夏」「立秋」「立冬」と定義。四季をそれぞれ6分割することで、二十四節気ができあがった。
東洋医学の四季は日本の四季と少しズレがある。季節の区切りとともに、各季節の養生のおおまかなポイントをまとめた。
・<春―芽吹きの季節> 立春からの3カ月間 (2、3、4月)
種から芽が出るように、体の中の隠れていたパワーが活性化する季節。水をしっかり飲んで、太陽をたくさん浴びるのがポイント。やる気に満ち溢れており、新しいことを始めるのにいいタイミング。
・<夏―生長(成長)の季節> 立夏からの3カ月間 (5、6、7月)
1年で一番「陽」のパワーに満ち、やる気が行動に直結するとき。体を動かすことがよく、多少の不調なら動きながら治癒していくことも多い。この季節に筋力をしっかり作っておくと、秋と冬も健やかに過ごせる。
・<秋―結実の季節> 立秋からの3カ月間 (8、9、10月)
春夏と上がってきたパワーが下向きに転じる季節。一方で、一年で一番心身が満ち足りるとき。この時期に動きすぎると冬に体調を崩しやすくなるため、和やかに落ち着いて過ごすことが大切。とくにまだ夏という認識が大きい8月は、やりたいことの半分程度に活動量を減らすのがおすすめ。
・<冬―準備の季節> 立冬からの3カ月間 (11、12、1月)
植物が種となり、春になるのを待つように、人間も休養をしっかりとるべきとき。余計なパワーは使わず、春に備えるために、動くとしても消極的に。
冬至は陰が極まるとき、夏至は陽が極まるときとされており、東洋哲学では陰が極まれば陽に転じ、陽が極まれば陰に転じると考えられている。この考え方の基本は「陰陽論」といい、季節だけではなく、すべてものを「陰陽の一対」の対比でとらえる。
(例)
陽 上 左 外 末端 男 幼 熱 背中 気 空
陰 下 右 内 中心 女 老 冷 お腹 水 海
また、人の生命に対しても陰陽で考えられる。陽はものごとのはじまりそのもので、胎児の状態では陽のパワーしかないが、出産され呼吸が始まった瞬間、陰が生じる。ネガティブな響きだが、陰は成長を意味し、万物は陽に陰が加わり成長し、変化していくと考えられる。男性は32歳、女性は28歳をピークに陰陽が整った状態になるとされており、そのあとは陰が増えていき、ついに陽がなくなると生命のエネルギーはなくなり、「全陰」となって死に至る。
鈴木知世(すずき・ちせ)
仁愛中国鍼灸院院長。同院は20年以上続く鍼灸院で、年間3500名程度が全国より訪れる。2014年に二代目院長となる前は、米国にて医療財団の法人の事務局長も兼任しながら、邦人向けクリニックに勤務。その間、中国広東省にある総合病院へ出向し、邦人向けのプロデューサー・通訳を務める。世界でもめずらしい西洋医学と東洋医学の利点を掛け合わした「中西結合医療」を目の当たりにしてその必要性を感じ、治療家を志ざし、鍼灸師の資格を取得した。
仁愛中国鍼灸院院長。同院は20年以上続く鍼灸院で、年間3500名程度が全国より訪れる。2014年に二代目院長となる前は、米国にて医療財団の法人の事務局長も兼任しながら、邦人向けクリニックに勤務。その間、中国広東省にある総合病院へ出向し、邦人向けのプロデューサー・通訳を務める。世界でもめずらしい西洋医学と東洋医学の利点を掛け合わした「中西結合医療」を目の当たりにしてその必要性を感じ、治療家を志ざし、鍼灸師の資格を取得した。