デザインカルチャーにサウナ、オーロラと、見どころ盛りだくさんで日本人にとっても人気の旅先であるフィンランド。では、食事についてはどんなイメージがありますか?ヘルシンキに住む料理家・陶芸家の星利昌さんに、フィンランドの食文化についてたっぷり聞きました。 前編では、フィンランドの食材事情について見ていきましたが、後編となる今回は、「フィンランド料理ってどんな味なの?」を紐解いていきたいと思います。最後にはレシピもついているので、ぜひお家で作ってみてください。
photography & text:TOSHIAKI HOSHI
前回ご紹介したように、フィンランドは夏こそ豊富に食材があるものの、冬場は野菜類はほとんどなく、かなり限られた食材のなかで料理を作る必要がありました。
フィンランド料理の味の特徴といえば、「素材の味を活かして、塩胡椒以外の香辛料はあまり使わずに仕上げる」ことでしょうか。ミルク、クリーム、バターといった乳製品やタイム、ローズマリーといったハーブ類も多く使われますが、基本的には質素な味つけが多く、素材の味がそのまま料理に出ることが多いです。
フィンランドは歴史的に香辛料を入手することが難しいうえに、1年のうちの9ヶ月は新鮮な野菜の収穫が安定的ではなかった国。そのため、保存のきく根菜、ライ麦パン、発酵乳製品に依存し、その結果こういったシンプルな味つけになったといわれています。
そして、ヨーロッパでは珍しく、グラービロヒ(Graavilohi)という生で魚を食べる食文化もあります。こちらは砂糖と塩、ピンクペッパーとディルを使っています。塩などで余分な水分を抜いて身が締まったその身は、上品な舌触りと魚そのものの旨味が楽しめる料理です。
そもそも、フィンランド料理は西側のスウェーデン、東側のロシアの食文化の影響を大きく受けています。そのため、両国に似たような料理も存在します。たとえば、ミートボールはスウェーデンでもフィンランドでもマッシュポテトと合わせて食べる定番の家庭料理ですし、前回ご紹介したカレリアンピーラッカはフィンランドの東側のカレリア地方から伝わる食べ物ですが、ロシアの国境を越えても形を変えて同じような食べ物が存在します。
とはいえ、フィンランド料理の根本的な部分は、フィンランドの歴史や風土とともに独自に育まれてきたものだと私は考えています。素材の味を生かした料理という点では日本料理と共通している点が多いのかもしれません。日本人にとって食べやすい料理もたくさんありますよ。
では、フィンランド国内の食文化に地域差はあるのでしょうか。たしかに、フィンランド国内を旅すると、地方の特産物を見つけることはできます。ですが、地方で大きな味の違いを感じることはあまりない、というのが正直なところです。(とくに近年は)
とはいえ、郷土料理的なものもないわけではありません。たとえば、西部・多島海エリアにはサーリストライスレイパという甘めのライ麦パンが、東部カレリア地方にはにカレリヤンパイスティ(牛肉と豚肉と根菜の煮込み)やカラクッコ(魚が入ったパン)、北にポロンカリユゥストゥス(トナカイの煮込み)などなど。
とはいえ、基本的にはどこへ行っても、安定して「フィンランドの味」が食べられます。
少し話は脱線しますが、忘れてはいけないフィンランドの珍味も少しご紹介。有名なものは、甘草(リコリス)から抽出したエキスを使用したサルミアッキ。「世界一まずい飴」ともいわれるのでご存知の方も多いはず。
個人的に人生で一番驚いた味はナフキアイネンというヤツメウナギの燻製です。食べた瞬間、軍人の冬の湿った靴下の味が脳裏に浮かびました。ぞおっとする味。他にも奇妙な味がするものがフィンランドには存在するので、ぜひ探してみてください。(←誰も探したくない)
前編でもお話しましたが、料理はその国の歴史や気候、風土と深く結びついてでき上がってきたもの。そういった点でいうと、フィンランド料理は、わかりやすい料理法で、素材の味を生かしたシンプルな味つけが多く、誰もが手に入れられる食材でつくられた料理。つまりどんな人でも平等に食べられる料理が特徴だと私は考えています。
これはフィンランド人のメンタリティや思想にも大きく反映されているように思います。たとえば、シンプルで合理的、実用的なものに良さを見出すところ。歴史的に王室制度がなく、多くの人に平等に機会が与えられ、みなで豊かな暮らしを目指す心。
また、フィンランド人は時に森に入って精神をととのえます。 その際にカタバミなどの野草やキノコなど森の中にある恵みを食すことで、自然の恩恵を受けていることに気付くのです。 「いまあるものに感謝する」。森に入ること、そして森の恵を食すことで、そんな精神を取り戻しているような気もするのです。
このように、この国が辿ってきた歴史や社会背景は食文化に影響を与え、そして食文化もまた人びとの暮らしや社会に影響を与えてきました。食文化のシンプルさは人びとの思想にも影響し、今のフィンランドを作る一つの重要な要素になっているのかもしれませんね。
最後に、今回はTRANSIT特別企画として、私が主宰する「マクヤマク料理教室」で教えているフィンランド料理のレシピを一つご紹介したいと思います。作って食べてみることで、外国の食文化に触れることができ世界が広がります。そしてその料理を誰かと共有することで、日々を有意義に過ごしてください。
【カーリパタ(Kaalipata)】
キャベツ、挽き肉、お米を使って炊き上げたやさしい味わいの煮込み。キャベツの味を存分に楽しめるフィンランド伝統料理です。
<作り方 3~4人分>
キャベツ……400g
挽き肉……200g
タマネギ……半玉
ニンジン……半分
米……60g
水 または 牛出汁……食材が浸る量
塩胡椒……適量
砂糖……大さじ1
ベイリーブス……2枚
あれば パセリ リンゴンベリージャム
<作り方>
1, 野菜をそれぞれ小さく刻みます。(キャベツは1cm角、タマネギとニンジンは0.5cm角)
2,お鍋にに油をひき、挽肉と玉葱、人参をいためます。
3,さっと洗ったお米を入れます。
4,それらを炒めたら、キャベツを入れ混ぜます。
5,そこに水または牛出汁を具材が浸るくらいまで入れ、ローリエを入れ、炊いていきます。
6,味つけは最初に甘みの砂糖を入れて10分ほど、それから塩、胡椒で味を調えます。
7,蓋をして炊いていき、お米に火が通れば出来上がりです。
8,パセリやリンゴンベリーがあれば最後に盛り付けて彩りを加えます。
※途中、水分量が足りなくなってきたら、下が焦げないように、水を少しづつ足していきます。
※食材を炒める時は強火から中火で、香ばしさを作り、炊く時は中火から弱火でとことことふつふつと炊いてください。
※お米のデンプンを出して、柔らかいとろみが食材につくように調整してください。
甘みが全体的にほどよくいきわたり、食材それぞれの味を調和させることがポイントです。
お米が入っていて、甘みもあります。日本人にとって、食べたことがあるようなないような、新しいのになぜか懐かしいそんな味です。
ということで、今回はフィンランド人が食べているものについて長々と書かせてもらいました。TRANSIT読者の皆さんも旅好きの方が多いということで、いつかフィンランドに旅をし、自然の奥深さや現地に住む人びとの日常に触れることで、また新たな発見をする。そのきっかけになれば幸いです。ぜひフィンランド料理をはじめ、異国の料理を楽しんで学んでみてください。いろんな発見が必ず見つかるはずです。
ちなみに、TRANSITフィンランド特集では、私のフィンランドでの旅のとっておきスポットを掲載いただいています。ぜひそちらもご覧いただければ幸いです。お読みいただきありがとうございました。
料理家・陶芸家
星 利昌(ほし・としあき)
2008年にヘルシンキへ移住。ミシュラン2ツ星の〈Chez Dominique〉などで修行を経て、2011年に〈Ravintola Hoshito〉を開業(2018年に一旦閉店)。現在は陶器制作を手掛けつつ、オンライン料理教室マクヤマクを開催。
2008年にヘルシンキへ移住。ミシュラン2ツ星の〈Chez Dominique〉などで修行を経て、2011年に〈Ravintola Hoshito〉を開業(2018年に一旦閉店)。現在は陶器制作を手掛けつつ、オンライン料理教室マクヤマクを開催。
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