南半球に浮かぶクック諸島。ニュージーランド王国の構成国のひとつ、サモアとタヒチの近くにあって、青い海と青い空がどこまでも広がるまさに楽園の島だ。そんなクック諸島で撮影された映画『楽園島に囚われて』のプラシャンス・グナセカラン監督と主演シド役のアナンド・ラジ・ナイドゥさんに、島と映画の魅力をインタビュー!
Text:TRANSIT Thanks:クック諸島観光局, Cinema at Sea 沖縄環太平洋映画祭
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TRANSIT編集部……T
Prashanth Gunasekaran監督……プラシャンス
主演Aunanda Naaidom(アナンド・ラジ・ナイドゥ)……アナンド
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プラシャンス監督、主演シド役のアナンドさん、Kia Ora(こんにちは)! 私たちTRANSITはトラベルカルチャー誌なので、旅の視点から映画『楽園島に囚われて』とクック諸島についてお話を伺わせてください。
アナンド
こんにちは、よろしくお願いします!(日本語)
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映画『楽園島に囚われて(英題Stranded Pearl)』を拝見したばかりで、こうして映画をつくっていた人たちに話を聞けてうれしいです。
映画では、都会からクック諸島へやってきた女性実業家ジュリアが、船に乗っているときに嵐に遭遇して、船の乗組員シドとともに無人島にたどり着いたところから話が思わぬほうに展開していきますね。アドベンチャーとサスペンスと恋愛の要素があって最後の最後までハラハラしました。シリアスな場面があってもクック諸島のピースフルな雰囲気が作品に通底していて、楽しく観ることができました。
アナンド・ラジ・ナイドゥさんが演じた主人公のシド(左)とジュリア(右)。
© Mahayana Films
プラシャンス
ありがとう(日本語)! クック諸島は数々の映画が撮影されてきた場所ですが、これまではどこかの南の島という映され方が多かったんです。
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調べてみたら大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』もクック諸島で撮影されていたんですね。
プラシャンス
よくハリウッド映画のロケ地にもなっているんですよ。今回の『楽園島に囚われて』では、クック諸島として撮影されていて、クック諸島のスタッフもたくさん関わって制作していて、クック諸島ならではの初めての映画だったんです。
撮影場所になったクック諸島のラロトンガ島。
© クック諸島
アナンド
この『楽園島に囚われて』では、キャストとクルー合わせて5割以上がクック諸島の人たちでした。残り30%ほどがニュージーランド、10%がオーストラリア、ほかにはクック諸島に滞在していた旅行者も入っていますね。この映画はクック諸島全体がバックアップをしてくれていて、どこにいてもみんな食べ物をくれたり、声をかけてくれたりして、とても素晴らしい環境でした。
プラシャンス
この映画はクック諸島へのTestamentです。この島に捧げるものですね。
アナンド
クック諸島の人が本当に親切で、彼らの愛と献身、エネルギーでこの映画が成立したと思っています。
上/プラシャンス・グナセカラン監督(左)と現地クルー。巨大なカニを手に持って一枚。
下/島に生えていた竹でイカダをつくって撮影。
© Mahayana Films
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クック諸島とお二人の関わりを教えていただけますか?
プラシャンス
私はマレーシアのクアラルンプール生まれで、ニュージーランドのハミルトンという街に移住して20年ほど暮らしていました。今はもう少し暖かい場所に住みたくて、オーストラリアの西側に住みはじめたところです。
実はクック諸島へは、『楽園島に囚われて』の企画が立ち上がって初めて訪れたんです。日本でいうと、クック諸島はニュージーランドの沖縄みたいな感覚でしょうか。首都オークランドから飛行機で4時間ほど離れていて、美しい自然がある場所です。クック諸島に最初に訪れた瞬間からすっかり好きになってしまいましたね。映画のシーンと同じですが、空港に着いたら花飾りを首にかけて出迎えてくれて、島の人たちがとってもやさしかったのを覚えています。
歌と踊りが得意なクック諸島の人びと。
© クック諸島観光局
アナンド
白く美しい砂浜やサンゴ礁があって、たしかにクック諸島と沖縄は似ていると思います。今回、「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際映画祭」で那覇に滞在していて、環境が近いので親しみを感じました。那覇のほうがクック諸島より街が大きくて人もたくさんいますが(笑)。ただ沖縄とクック諸島で大きく違うのは、本土との関係性ですね。クック諸島はニュージーランド王国の構成国の1つでありつつ、1つの国家として自分たちの政府もあって首相がいるんですよ。
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なるほど。ネットで調べてみたら、クック諸島の国防などはニュージーランドの管理下にあって、クック諸島の人はニュージーランドと同じ通貨やパスポートを使っていたり、ニュージーランド国民と同じ権利があると出てきました。
クック諸島で撮影しているところ。
© Mahayana Films
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アナンドさんとクック諸島はどんな関わりがあるんですか?
アナンド
私はクック諸島の住人なんです。フィジーで生まれて、幼い頃に家族でニュージーランドのオークランドに移住してきたんですが、私のなかに島を恋しく思う気持ちがあったのか、仕事でクック諸島に訪れてからすっかりこの場所に惚れ込んでしまって、それからもう10年以上クック諸島に暮らしています。私はこの映画にシド役で出演していますが、実は原作者でもあるんですよ。
T
そうなのですね! シドは最初は無口で正体不明の存在ですが、無人島に着いた途端に、島に生えていた植物で家やイカダをつくったり、食糧を採集したり、サバイバル能力の高さを発揮していきますね。アナンドさんのアウトドアシーンが板に着いていたのも納得です。
クック諸島のラロトンガにあるキリスト教教会。
© クック諸島観光局
アナンド
私も島生まれでクック諸島の暮らしも長いので、自然との付き合い方は慣れているほうなんですが、クック諸島の人たちは本当に器用なんです。
クック諸島の人たちは、現在でも自分たちの島の自然、文化、アートとものすごく深いつながりを維持しているんです。子どもも島の文化を教わる機会がしっかりあります。もともと島の人たちはとてもクリエイティブな人たちなんですよね。なので映画のクルーたちがこういうことをしたいとアイデアを出すと、すぐにそれを形にしてくれる。しかもきちんとクック諸島の自然と結びつけたやり方でね。
上/島の植物で帽子をつくってみせたシド。
下/特定のヤシの木の繊維でリトハットをつくるクック諸島の人。
© Mahayana Films,クック諸島観光局
プラシャンス
この映画の美術を担当したヴァイさんはクック諸島出身の20代の女性で、島にまつわる大道具や装飾はとても信頼のおけるものでした。
たとえば島で遭難した場面を撮影したときのこと。現地をロケハンして、漂着した場所をここのビーチにしようと決めるじゃないですか。そして翌日に浜辺に行くと、ヴァイさんや他のスタッフが劇中で使っていた植物の家を既に手づくりしていてそこに置いてあるんですよ。草のベッドも、葉っぱの天蓋も。
島の植物でビーチに家をつくって撮影しているところ。
© Mahayana Films
プラシャンス
大変なのが、脚本の時系列で撮影が進むわけではないので、遭難して20日目の映像を撮った後に、今度は遭難して2日目の映像に戻るというようなこともある。そうなるとシーンに合わせて、毎日毎日草を張り替えないといけない。竹のイカダもそうですね。時間の流れに合わせてつくり変えていたんですよ。
T
そんなシーンからも実はクック諸島カルチャーが見えてくるわけですね。この「Cinema at Sea 沖縄環太平洋映画祭」では、沖縄やクック諸島をはじめ、アジアやアメリカ大陸まで太平洋を囲う地域の映画がピックアップされて上映されているわけですが、それぞれの土地ならではの独特の文化が映画を通して見えてきておもしろいですね。
シド役を務めたアナンド・ラジ・ナイドゥさん(写真中左)とプラシャンス・グナセカラン監督(写真右)。沖縄・那覇で行われていた「Cinema at Sea 沖縄環太平洋映画祭」のトークイベントに登壇しているところ。
T
『楽園島に囚われて』のストーリーはアナンドさんが書いたということですが、劇中の登場人物とアナンドさんに共通する部分もあるのでしょうか?
アナンド
そうですね、この話は自分自身の経験に基づいています。この島が自分にくれたものをベースにストーリーをつくっています。
この映画のテーマになっているのは、自分を一回壊して、新たな自分を見つけることにあります。私の場合は、クック諸島に来て島の環境に体を浸すことで自分自身が完全になったような気がしました。ジュリアが劇中で辿った道のり、あるいは彼女が抱いていた感情、それは私の体験につながっています。
T
なるほど。自然にもともと順応しているシドだけでなく、都会からやってきたジュリアもアナンドさんと重なる部分があるんですね。
プラシャンス
映画に出てくる海は、いろんなメタファーがあります。主人公たちを孤立させる存在、困難を与える存在、ただし最終的には真実に彼らを導く役割ももっています。そして海の波のように主人公の人生が常に揺れ動いている。その波のように、彼らは過去から強制的に切り離されて、未知に飛ぶ込むことになります。
海と暮らしが近いクック諸島。シーカヤック、シュノーケリング、ダイビングなど、マリンスポーツも盛ん。
© クック諸島観光局
T
英題『Stranded Pearl』も海にまつわるタイトルで、映画のなかにもクック諸島の名産でもある黒真珠がでてきますね。これにはどんな意味があるのでしょうか?
プラシャンス
迷子になって、困難をへて、真珠になるというような意味があります。自分を見失っても、本当は誰しも自分のなかに宝物があるというような。
アナンドさんが映画のストーリーの主題は「壊してつくりなおす」と言っていましたが、実は映画を製作するなかで私自身も経験したことでもあります。ほとんどのシーンが屋外で撮影する必要があったので、天候に左右されながら、脚本と撮影の順番を変えたり、ストーリーを変えていく必要もありました。まさに、シナリオを壊して再構築しなければできなかった。そうやって映画をつくりあげたことは私にとって大きな経験になりました。
© クック諸島観光局
T
実際、撮影に滞在した時期、制作期間はどれぐらいだったんでしょうか?
プラシャンス
撮影した期間自体は35〜40日ぐらいです。
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撮影はクック諸島のどこで行われたんですか?
プラシャンス
首都アバルアもあるラロトンガ島です。無人島に見えるような場所も実は……。この場をお借りしてお礼を伝えたいのが、ギボさんという方です。この方はすでに亡くなられているのですが、主人公たちが漂着した場所はギボさん個人所有のビーチなんです。おかげであのような絶海の孤島のような撮影ができました。
T
クック諸島のこと、映画ができるまでのこと、話してくださってありがとうございます。最後に日本の皆さんにメッセージをお願いします!
プラシャンス
実際にラロトンガを訪れれば、きっと映画のシーンに出てくるような美しいビーチや、神秘的な泉、山を発見することができますよ。それにラロトンガ島だけでなく、そこからさらに離島にも行くことができるんです。離島のアイツタキ島の海もそれは美しくてパラダイスのようですよ。
クック諸島がどれだけ素晴らしいかを、映画を通して皆さんに伝えたいですね。実際にクック諸島を訪れて、ジュリアが体験したようなことをみなさんにも体感してほしいです。
15の島で構成されたニュージーランド王国の構成国の1つ。旅の玄関口になるのは国際空港や首都アバルアもあるラロトンガ島。ほかに美しい浅瀬のラグーンが広がるアイツタキ島、珍しい鳥が生息するアチウ島、名前がユニークなプカプカ島などがある。一年中温暖で年間を通して海で泳げる。
●クック諸島観光局 HP
cookislands.travel
アクセス
日本から入国する場合、飛行機で成田-オークランド、オークランド-ラロトンガというルートがスムース。ラロトンガにそのまま乗り継げる便もある。タヒチ-ラロトンガ便もあるのでタヒチから入国することもできる。
通貨
ニュージーランド・ドル、クック・アイランド・ドル
映画『楽園島に囚われて』(Stranded Pearl)
監督|ケン・カーン&プラシャンス・グナセカラン/2024/91分/クック諸島、ニュージーランド
裕福な起業家のジュリアは新婚の夫とともに出張中に嵐に巻き込まれ、未踏の孤島に取り残されてしまう。唯一の仲間は、逃亡中の犯罪者かもしれない過去を隠した謎めいた男シド。2人が生き延びようと奮闘するなかで、少しずつ秘密が明らかになっていく。窮地に陥るだけでなく、避けてきた自らの過去や真実にも向き合わざるを得なくなる彼女たちの運命は……。クック諸島の息をのむような自然のなかで描かれる、ロマンティックでアクション満載のストーリー。
第二回 Cinema at Sea - 沖縄環太平洋国際映画祭
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