1945 年8 月15 日、日本が第二次世界大戦の終戦を迎えてから80 年。世界を巻き込んだ大戦を終えても、戦争は過去のものとはならず、侵略、紛争、武器の保有と生産をはじめ、今も各地で争いが起こっている。第二次世界大戦のゆかりの場所を訪ね、今、改めて戦争について考える。海外編では、ヨーロッパ、アジアなどを中心に、第二次世界大戦を感じる10の場所を解説していく。
text:AYAHA YAGUCHI
Index
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1.ホロコーストの記憶を継ぐ負の世界遺産
アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館@ポーランド
2.ゲシュタポ本部跡で知るナチ恐怖政治の実態
テロのトポグラフィー@ドイツ
3.史上最大規模の上陸作戦の舞台を歩く
ノルマンディー上陸作戦の遺跡群@フランス
4.ハワイで太平洋戦争の終始を目撃する
パールハーバー歴史地区@ハワイ
5.アメリカからみた原子爆弾
ブラッドベリー科学博物館@アメリカ
6.年間100万人が訪れる米の戦争博物館
国立第二次世界大戦博物館@アメリカ
7.中国の視点から満州事変の軌跡をたどる
九一八歴史博物館@中国
8.日米2万人が散った激戦地へ
ペリリュー島戦跡群@パラオ
9.エノラ・ゲイと原爆が飛び立った場所
テニアン島・ノースフィールド基地跡@北マリアナ諸島
10.ホロコースト600万人の犠牲者を悼む記念館
ヤド・ヴァシェム@イスラエル
ホロコーストの記憶を継ぐ負の世界遺産
ナチ・ドイツが1940年にポーランドに設立した最大規模の強制収容所跡地を博物館にしている。第二次世界大戦中、110万人以上の人がここで命を奪われ、その9割がユダヤ人、ほかにポーランド人、ロマ、同性愛者なども殺害された。
この博物館は“負の世界遺産”として1979年にユネスコ世界遺産に登録され、二度と同じ過ちを繰り返さないための教育の場として、毎年200万人以上が各国から訪れている。広大な敷地内には2つの収容所があり、収容者の写真や私物、ガス室、焼却炉などが残され、当時の実相を物語る。見学の所要時間は4時間ほど。人類史上でもっとも暗い記憶がまざまざと残るこの博物館で平和の尊さを学びたい。
アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館 Auschwitz-Birkenau State Museum
住所|Więźniów Oświęcimia 55, 32-600 Oświęcim, Poland
入場条件|
入場料……ガイド付きツアーは有料。無料の時間枠もある。
営業時間……1月・11月7:30〜15:00(2月〜16:00、3月・10月〜17:00、4月・5月・9月18:00、6月・7月・8月〜19:00、12月〜14:00)
休館日……1月1日、12月25日、イースターサンデー
*事前にオンラインで入場パスの取得が必要
HP
ゲシュタポ本部跡で知るナチ恐怖政治の実態
ベルリン中心部でナチ・ドイツの恐怖政治の実態を展示する野外博物館。1933年から1945年にかけて、この場所にはゲシュタポ(秘密警察)、SS(親衛隊)、国家保安本部などの本部が集中し、まさにナチによる恐怖政治の拠点が置かれていた。現在は、発掘されたゲシュタポの地下牢跡と、ナチ時代の記録を展示するドキュメントセンターとして無料公開されている。
また、敷地の横には数百mに渡るベルリンの壁も現存。東西統一の際にハンマーで激しく叩かれた跡なども残されている。ナチ・ドイツと冷戦という二つの恐怖“terror”を、肌で感じられる場所だ。
テロのトポグラフィー
Topography of Terror
住所|Niederkirchnerstraße 8, 10963 Berlin, Germany
入場条件|
入場料……無料
営業時間…… 毎日10:00〜20:00
休館日……12月24日、12月31日〜1月1日
HP
史上最大規模の上陸作戦の舞台を歩く
約200万人の連合軍により実行された史上最大規模の上陸作戦の舞台、それがフランス・ノルマンディーだ。1944年6月6日(D-Day)、連合軍はドーバー海峡を渡って、ノルマンディー海岸に上陸。その後はパリに進撃し、西ヨーロッパ解放の転機を掴んだ。
激戦となったオマハビーチ、ユタビーチなど5 つの上陸海岸には、当時を物語る記念碑や博物館が点在。「カーン記念博物館」や「バイユー・ノルマンディー戦い博物館」では、作戦の全貌などが詳しく学べる。ほか、ドイツ軍砲台ロング・シュル・メールやマルベリー港の遺跡なども現存し、戦争を今に伝える重要な遺跡群が数多く見られる。
ノルマンディー上陸作戦の遺跡群
D-Day Landing Sites in Normandy
住所|Various locations in Normandy, France
入場条件|
海岸……24時間開放・無料
博物館 施設により異なる(カーン記念博物館などは有料)
ハワイで太平洋戦争の終始を目撃する
日本軍による真珠湾攻撃の現場で、太平洋戦争の発端となった場所。現在も米軍基地として機能しつつ、複数の記念館や博物館が立ち並ぶ歴史スポットとなっている。
1941年12月8日(現地時間では7日)の攻撃で沈んだ戦艦アリゾナの真上には「アリゾナ記念館」が建てられ、米軍の重要な鎮魂の場になっている。一方、「戦艦ミズーリ記念館」では、1945年9月2日に日本が降伏文書に調印したミズーリの甲板を見学できるなど、太平洋戦争の始まりと終わりを同時に体感できる。
「潜水艦ボーフィン号」では、潜水艦内や日本の特攻潜水艇「回天」などが、「太平洋航空博物館」では歴代の戦闘機や修復されたゼロ戦などが展示されている。日本が関与した歴史現場として、平和学習の意義は大きい。
パールハーバー歴史地区
Pearl Harbor Historic Sites
住所|1 Arizona Memorial Place, Honolulu, HI 96818, USA
入場条件|
入場料……歴史地区への立ち入りは無料(一部施設は有料)
ビジターセンターは7:00~17:00(年中無休、12/25、1/1 除く)
HP
アメリカからみた原子爆弾
人類史上、もっとも重要かつ論議を呼んだ科学プロジェクトといわれる「マンハッタン計画」。科学技術という切り口から、原子爆弾開発の歴史を学べる貴重な施設がここ。核兵器開発の拠点となったロスアラモス研究所内に設置された「ブラッドベリー科学博物館」だ。
核分裂の原理から実際の爆弾製造の過程までを詳しく展示。広島に落とされた「Little Boy」、長崎の「Fat Man」の実物大模型のほか、「Gadget」(トリニティ実験装置)やオッペンハイマーをはじめとする科学者たちの証言、当時の機密文書なども公開。また、核の平和利用や核軍縮についても詳しく学べる。アメリカで原爆を考えさせる場所として、1951年から核実験を行っていたネバダ核実験場や人類初の核実験を行ったトリニティ実験場にも近いネバダ州ラスベガスの国立核実験博物館や、マンハッタン計画でプルトニウムの生産拠点となって今も放射能汚染のあるワシントン州ハンフォードサイトといった街などがある
ブラッドベリー科学博物館
Bradbury Science Museum
住所|1350 Central Ave, Los Alamos, NM 87544, USA
入場条件|
入場料……無料
営業時間……火曜~土曜10:00~17:00、日曜13:00~17:00
休館日……月曜、感謝祭、クリスマス、元旦
年間100万人が訪れる米の戦争博物館
ヨーロッパ戦線から太平洋戦線まで、アメリカの視点から詳細に伝える世界有数の博物館。館内には、戦闘機や戦車、潜水艦などの実物展示に加え、4Dシアターなどの没入型体験施設も完備。戦争の記録映像はもちろん、激戦を生き抜いた兵士たちの体験談を聞くこともできる。
また、ノルマンディーのD-Day上陸作戦のジオラマや太平洋戦争の島々での激戦に関する圧巻の展示が並び、あらゆる人びとに戦争の規模と複雑さを訴える構成となっている。
今日では年間100万人以上が訪れる施設となり、TripAdvisorでは世界2位の博物館に選ばれた実績も。アメリカにおいて、もっとも重要な戦争博物館のひとつだ。
国立第二次世界大戦博物館
The National WWII Museum
住所|945 Magazine St, New Orleans, LA 70130, USA[{{type}} Annotation]
入場条件|
入場料 大人……36ドル
営業時間……9:00~17:00
休み|マルディグラの日、感謝祭、クリスマス
*事前予約を推奨
HP
中国の視点から満州事変の軌跡をたどる
1931年9月18日に起きた南満州鉄道爆破(破柳条湖事件)の現場に建つ博物館。この事件から日本の関東軍が中国軍に攻撃をしかけ、日本が満州を占領下に置くこととなる(満州事変)。これが、その後15年間にわたる日中戦争のきっかけとなり、日本の第二次世界大戦の参戦にもつながっていく。
館内では、中国側の視点から満州事変が詳細に展示されている。2024年9月にリニューアルオープンし、事件の経緯や関東軍の動向、中国民衆の抵抗史を、立体模型や等身大人形なども加わった。
日本人にとっては重い歴史と向き合う場だが、展示には日本語訳もついていて理解しやすい。異なる史観に触れることで歴史認識の複雑さを実感できる貴重な場であり、多角的な視点で過去を検証することこそ、未来に向けた歩みの第一歩となりそうだ。
九一八歴史博物館
918 History Museum (September 18th History Museum)
住所|遼寧省瀋陽市大東区望花南街46号46 Wanghua South Street, Dadong District, Shenyang, Liaoning Province, China
入場条件|
入場料……無料(身分証明書の持参が必要)
営業時間……9:00~17:00(季節によって異なる)
休館日……月曜
*事前予約推
日米2万人が散った激戦地へ
1944年9月から11月にかけて太平洋戦争屈指の激戦地となった島。日本軍、米軍それぞれが約1万人の死傷者を出したといわれ、戦車や砲台の残骸、洞窟陣地、トーチカ、兵士たちのヘルメットなど、多くの戦跡が残されている。
日米両軍の慰霊碑が建立され、戦没者への哀悼の念をこめて、現在も多くの人びとが訪れる。2024年には「第二次世界大戦記念博物館」もオープンし、戦闘の詳細や兵士たちの証言を学べるように。
現在はパラオ政府が戦跡保存を進め、戦争の実相を後世に伝える貴重な場に。美しい珊瑚礁に潜む戦争の痕跡が、平和の尊さを強く訴えかけてくる。
ペリリュー島戦跡群
Peleliu Battlefield Sites
住所|Peleliu Island, Republic of Palau
入場条件|
入場料……ペリリュー島観光税25ドル
営業時間……日中随時見学可能ツアー参加推奨
HP
エノラ・ゲイと原爆が飛び立った場所
北マリアナ諸島の一部として美しい自然に囲まれているが、人類史上でもっとも重大な軍事作戦の舞台となった島。1945年8月には、島内のノースフィールド基地で原子爆弾「リトルボーイ」と「ファットマン」が組み立てられ、B-29爆撃機のエノラ・ゲイとボックスカーが、広島と長崎に向けて飛び立った。
現在も当時使われた4本の滑走路と原爆ピット(組み立て場所)が現存し、核時代の始まりを物語る。近くには「原爆の碑」が建立され、犠牲者への慰霊と平和への祈りが込められている。途方もなく重い現実から平和の尊さを学ぼうと、世界中からの訪問者が絶えない。
テニアン島・ノースフィールド基地跡
Tinian North Field Airbase Ruins
住所|Tinian Island, Commonwealth of the Northern Mariana Islands
入場条件|
入場料……無料
営業時間……見学可能(米軍の演習時は封鎖される)
*ツアー参加推奨
ホロコースト600万人の犠牲者を悼む記念館
ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺で犠牲になった約600万人のユダヤ人を追悼するイスラエルの国立記念館。館内には歴史博物館や美術館などがあり、「名前の広間」には約270万枚にわたるホロコーストの証言と犠牲者一人ひとりの名前、運命が記録されている。
また、自ら命の危険を冒して迫害からユダヤ人を守った人びとは「諸国民の中の正義の人」として顕彰され、日本の外交官・杉原千畝氏も含まれている。
こうした展示を見終えたとき、彼らの勇気が遠い昔の美談ではないことに気づく。今この瞬間にも、世界各地で続く差別、偏見、暴力を前にして、私たちは同じ選択を迫られている。
ヤド・ヴァシェム@イスラエル
Yad Vashem
住所|Har Hazikaron, Jerusalem 9103401 Israel Har Hazikaron, Jerusalem
9103401 Israel
入場条件|
入場料……無料(事前予約必須・10歳未満入場禁止)
営業時間……月曜、木曜9:00〜19:30(火曜、水曜、日曜〜16:00/金曜・祝日前日〜13:00)
休館日……土曜、ユダヤ教の祝日、休日
HP