TRANSIT編集部の小さな旅の記録を、徒然なるままに写真と言葉で綴った「Travelog」。旅の途中でノートの隅に走り書きした電車の時刻、街角で耳にした音楽、コーヒースタンドで済ませた朝食、現地の人と交わしたいくつかの言葉......そんな他愛もない旅の断片たちを集めた。
ここでは、2016年に発売されたTRANSIT34号『オーロラの煌めく街へ』より、取材時の合間に撮影した写真と取材ルートを掲載。
アイヌの人びとの"今"を追いかけ、まだ雪が残る3月の北海道に降り立った。
【ROUTE】札幌~白老~苫小牧~帯広~阿寒湖~札幌
photo & text=TRANSIT
日本の先住の民、アイヌ。彼らは北海道から樺太、千島列島、ロシアカムチャツカ半島にまたがり暮らしていた。現在は北海道をはじめ、日本各地で和人と変わらない暮らしをしている人も多い。
和人とは、アイヌ語で日本人、つまり入植者である。アイヌの方々に話を訊いてみれば、チセと呼ばれる伝統的民家にいまだに住んでいると想像する”和人”もいまだにいるようだ。それは文様に踊りなどの伝統文化はフィーチャーされても、アイヌのリアルが語られることは少ないことが一つの要因ではないだろうか。
彼らは、どんな暮らしをして、どんなことを思っているのか。アイヌの”今”を追いかけ、取材班はまだ雪が残る3月の北海道に降り立った。白老、苫小牧、帯広、阿寒湖、そして札幌を巡るロードトリップを敢行。TRANSIT34号に掲載した旅の裏側をお届けします。
取材班がまず向かったのは、千歳市にある縄文後期につくられた集団墓、キウス周堤墓群。人々を埋葬する場所がくぼみになっていて、掘られた土で周りに堤が作られている。大きいもので、外径75m、くぼみの深さが2.6mもある。和人が農耕を始める弥生時代に入っても、狩猟を主として生活した縄文人であるアイヌがここに埋葬されているのではと想像を馳せる。
千歳市から南下し、白老へと車を走らせる。アイヌ関連の博物館として日本最大であるアイヌ民族博物館があり、2020年には国立のアイヌ文化博物館のオープンが計画されている町だ。博物館の館長に取材をすると「観光アイヌと揶揄されることはありますが、私たちは文化を伝える役割を担っています。アイヌのお酒のブランドを作って空港に置いてもらうなど、今できることをみなで考えてやっています」と力強い言葉をもらった。
白老は海に面している町であるため、アイヌたちは漁業を生業にしていたと言われる。現在はタラコの産地として知られる虎杖浜で日の出を撮影。何千年経とうと、きっとこの景色は変わっていない。濃いエメラルドブルーの海から顔を覗かせる太陽をアイヌの人びとも見ていたのではないだろうか、そんなことを考えながらシャッターを切った。
登別に少し足を伸ばし、アイヌの聖なる動物であるクマを撮影に向かった。訪れたのは〈のぼりべつクマ牧場〉。約100頭のエゾヒグマが飼育されている。ガラス越しに接近できるゾーンでは、クマの表情を間近で見ることができる。食欲が旺盛なエゾヒグマは、人間たちにそれぞれのかたちで「餌をくれ」と訴えかける。
〈のぼりべつクマ牧場〉は標高550mの四方峰の頂上にある。展望台からは、倶多楽湖(くったら)を見下ろすことができる。アイヌ語では、イタドリが群生する場所という意味のカルデラ湖だ。
苫小牧から内陸の帯広へ。国の重要無形民俗文化財にも指定されている「帯広カムイトウウポポ保存会」は、空港で外国人に向けてアイヌの民族の古式舞踏を披露していた。そうした文化的側面を担う彼らではなく、日常の生身の姿に入り込み取材をしていく。
帯広から阿寒湖を目指す途中、然別湖に立ち寄る。数々の神話が残るアイヌの聖地で水は完全に凍結し、湖上を歩けるようになっていた。
アイヌ語で、山の神の湖という意をもつ、摩周湖にも訪れた。日本で最も透明度の高い湖である。濃いブルーの湖面に雲がかかり幻想的な雰囲気を醸し出す。その姿にアイヌは神を感じたのかもしれない。
そして、阿寒湖に到着。阿寒湖コタンというアイヌの人たちが観光客に向けて、民芸品や踊りなど文化を伝える集落がある。
招き入れられた千家さんという方の家には、アイヌの貴重な資料がびっしりと置かれていた。
歌い手や踊り手、職人など様々な人の日常の風景を撮影した。アイヌ随一の歌い手である日川さんと、阿寒湖を案内してくれたデボさん。
最後の目的地は、札幌。版画家やミュージシャンとして活動する結城さんと中学生の息子の陸くんという親子の肖像を撮影。陸くんはミュージシャンである親父さんについて、大人に交じってバンド活動をしている。
アイヌ語で「モイワ」と呼ばれていた円山。先祖の祭場がある神聖な山だったと言われている。ここには原生林が残っている。
取材班は、札幌から足を伸ばし、太平洋に面した厚真町を訪れた。苫小牧のバーで出会った友人から、レザークラフトにアイヌ文様を描く現代の職人を紹介してもらったからだ。やはり出会いが旅を濃厚にさせていく。自らのアイデンティティであるアイヌの文化を織り交ぜ作る「MOTTY’S LEATHER」は、まだ始めたばかりだがファンがつきはじめている。
札幌に戻り、北海道一の歓楽街であるすすきのへ。きらびやかなネオンの下で撮影をしていると、北海道のいたるところにアイヌの人たちがいることを再認識させられる。
この旅で、40人以上のアイヌの方々と出会い、撮影をさせてもらった。取材の中で、強烈に残った言葉がある。 「成熟した民族には、優等生がいれば、不良もいる。アイヌも同じで、色々な人がいる。当たり前のことだが、民族衣装を踊っている人だけがアイヌではない」
アイヌの文化を伝える人、民族活動をする人、自分の人生を生きる人、それぞれの道があり、それが”普通”のことだ。確かに言えることは、アイヌの血が流れていることが共通点であり、だからこそこの旅で出会うことができたということ。それぞれの思いと肖像は本誌を見て欲しい。
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