初日に生口島(いくちじま)をたっぷり堪能した編集部は、2日目、3日目は4つの島をめぐってみることに。
まず訪れたのは、大久野島(おおくのしま)。戦時中、日本軍によって毒ガスが秘密裏に製造されていた島で、いまはウサギが大量に生息していることから「ウサギ島」としても知られています。
そんな大久野島の作品セレクトは、国際平和映像祭(UFPFF)とコラボレーション。原爆が落とされた町のモノクロ写真をカラー化する活動を行なっている庭田杏樹さんが、原爆以前の日々を辿ったドキュメンタリー作品『記憶の解凍』が上映されました。
この日は鑑賞の前後に、庭田さんご本人と、大久野島ガイドの新本直登さんが登壇するトークイベントも。もともと広島出身で、現在は広島テレビの記者としても活動する庭田さん。「広島という場所に生まれたからこそ、原爆の記憶、そして原爆の前にも紡がれていた暮らしの記憶をつないでいきたい」と語る姿が印象的でした。
上映を終えて島を散策すると、毒ガス製造の電力を供給していた発電所跡など、戦争の痕跡が点在。このしまなみ映画祭の舞台のひとつにもなっている広島。原爆はもちろん、それ以外にもさまざまな戦争の記憶と爪痕が残っているのだと、はっと気づきます。平和とは何か?戦争をどう語り継いでいくのか?改めて考える機会となりました。
そして次に訪れたのは、大三島(おおみしま)。今回の会場のうち唯一愛媛県側の島で、しまなみ街道のなかでももっとも有名な神社のひとつ大山祇(正しくは旧字体のしめすへんに氏)神社があるため「神の島」ともよばれています。また、建築家・伊東豊雄氏のミュージアムがあったり、ワイナリーがあったり、新たなカルチャーが芽吹いている島でもあるんです。
この島のマルシェは、常に陽気な笑い声と音楽で溢れていたのが印象的。地元のショップやファームの出店に、私が訪れたときにはアフリカンダンスのイベントが開催。大人から子どもまで体をリズムに合わせて動かし、楽しむ。そんな会場全体がハッピーな空気に包まれていました。
そんな大三島・2日目の上映作品は『グレート・グリーン・ウォール』。アフリカのサヘル地域にはびこる貧困、飢餓、砂漠化、女性や子どもの人権などさまざまな問題。それに対し、「グレート・グリーン・ウォール」という緑化プロジェクトを通して立ち向かうマリ出身の世界的ミュージシャン、インナ・モジャを描いた一作です。緑があると水があり、作物ができ、心も豊かになる。そう訴える彼女に、島の豊かな森や海、そして朗らかな人びとを思い出します。映画や踊りを通して地球環境や世界の社会問題について思いを馳せるきっかけをもらったような気がしました。
そして3つ目の島、因島(いんのしま)へ。因島会場〈HAKKOパーク〉のテーマはずばり「冒険」!
恐竜についての展示や化石レプリカづくり体験など子どもから大人までワクワクできるようなコンテンツが目白押しです。
個人的におもしろかったのがお花を髪に飾るブース。その人の雰囲気に合わせてドライフラワーをいくつかセレクトし、その花を取り入れつつ髪を結ってくれるんです。普段はなかなかしない装いにチャレンジするのも、ちょっとした冒険の気持ち。しかも仕上がりがあまりにかわいくて、出会った人みんなに自慢して歩きたくなるほど!
気になる映画は『ジュマンジ / ウェルカム・トゥ・ジャングル』や『ディノ・キング 恐竜王国と炎の山の冒険』など、思わず童心に返ってハラハラドキドキしてしまう作品ばかり。会場内もやはり子どもの参加者が多め。家族で楽しめるのも、しまなみ映画祭のうれしいポイントなんです。
この因島を案内してくれたのが、今回のしまなみ映画祭主催メンバーである、小嶋正太郎さん・名部絵美さん。柑橘農家〈comorebi farm〉を運営しながら、今回の映画祭の企画立案にも携わっているお2人。「この映画祭に協力してくれる方は、島や地域のためになるなら、という思いが強いんです」と話します。
実は、しまなみの島々には気軽に訪れられる博物館や美術館、映画館などの文化施設があまりないのだそう。だからこそ、しまなみ映画祭は、大人にとっても子どもにとっても視野を広げたり、新たな価値観を提供できる場にできたら。そんな思いで準備を進めてきたといいます。
「たとえば因島会場になっているこの〈HAKKOパーク〉は、海を望む庭園や上映設備もあって普段から地域の人の憩いの場なんです。万田発酵さんがこの場所を快く貸し出してくださったり、あとは岡山理科大学・恐竜学博物館館長の石垣先生が子どもたちに恐竜についてレクチャーするために来ていてくれたり。協力してくれた人びとは、島やそこに暮らす人、訪れる人を想って動いている気がします。だからこそ、島に暮らす人に喜んでもらえたらと思うし、そんな島の魅力を島外の方にも知ってもらいたいんです」
そして今回の「しまなみ映画祭」の実行委員長・小林亮大さんも、映画祭をはじめたきっかけについてこう話します。
「しまなみだけの魅力はなんだろう、と考えたときに、個性豊かな島々とそこに暮らす人が思い浮かんだんです。”島をめぐる映画祭”ならば、映画をきっかけに島々を訪ねてもらって、マルシェやイベントを通して人と関わる機会もできると考えたんです」
しまなみ映画祭のテーマは『Cruise to the Unknown(未知への航海)』。島の人びとにとっても、訪れる人びとにとっても、新たな発見や交流が生まれる場になったら、と小林さんは笑顔で話します。
「もともと瀬戸田やしまなみの島は魅力的だなと思っていたけれど、こんなに島のことが大好きになったのは、自分が東京から瀬戸田に引っ越して島の人びととかかわり、たくさんのあたたかさや愛情深さをもらったからだと思うんです。今回の映画祭もそんなふうに、来場する人が島のことをもっと好きになって、島の未来が盛り上がっていったらうれしいですね」
少しずつ形を変えながら、また来年以降の開催も計画しているという「しまなみ映画祭」。島々をめぐるなかで出会ったあたたかい人びとと美しい海を、映画を観ながら頬に受けた潮風の優しさを、また感じられる日が心から待ち遠しい。