1970年に大阪で開かれた日本万国博覧会。岡本太郎や丹下健三といった日本を代表するクリエイターたちが関わり、日本中がまだ見ぬ未来に胸を高鳴らせた。
あれから55年。再び大阪の地に世界各国が集い、新たな万博に人びとは心を躍らせている。
閉幕まで残り1カ月と迫るなか、今回は1970年と2025年を行き来しながら、“万博の記憶と未来”を旅してみたい。
Photo & Text:RISA ISOBE(TRANSIT)
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1970年、日本で初めての万博「日本万国博覧会」が、現在の大阪・吹田市にある千里丘陵で開催された。
メイン会場をデザインしたのは建築家の丹下健三。テーマは「人類の進歩と調和」で、世界中から未来を感じさせる展示が集まった。
© m-louis .®
日本の伝統・文化から未来技術などを紹介した日本館のハイテク展示をはじめ、ソ連館が宇宙開発をテーマにするなど、最新技術への意欲的な展示もみられた。
© Henry Petermann
なかでも注目を集めたのはアメリカ館。「アポロ8号」司令船の実物が展示されるなか、最大の目玉は「月の石」だった。アポロ計画で持ち帰られたその石をひと目見ようと、5時間以上も並ぶ人が現れるなど、その熱狂はまさに時代の象徴であった。
そして2025年。まさにいま開かれている「EXPO 2025 大阪・関西万博」のテーマは“いのち輝く未来社会のデザイン”。サブテーマには“いのちを救う”、“いのちに力を与える”、“いのちをつなぐ”が掲げられている。
気候危機や平和問題、テクノロジーの進化など、世界が直面するあらゆる課題に対して「これから先、人間と地球がどうすれば心地よく共に生きていけるのか」を、世界中の知恵とアイデアで考える祭典だ。
会場の中央にそびえ立つ全周約2kmにわたる「大屋根リング(Grand Ring)」は、藤本壮介設計で、世界最大級の木造建築として、2025年にギネス記録に認定された。
「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念を表すシンボルとして、多くの来場者を魅了するとともに、リングの下には国や企業のパビリオンがぎゅっと並んでおり、来場者をぐるりと包み込んでいる。
EXPO’70とEXPO 2025をデータで比べてみると、その違いははっきりしている。
1970年は、宇宙や科学技術など“進歩”を誇示する国が目立った。
一方で2025年は、SDGsやAI、未来都市といったテーマが並び、地球規模の環境問題や「これからの生き方」に焦点を当てるパビリオンが多い。もはや自国の誇示ではなく、共に考え、解決へ向かう姿勢が強調されているのだ。
さらにAIの活用やVR体験、サステナブル建築、デジタルチケットなど、来場者の体験そのものも進化。まさに1970年に描いた未来像が、いま現実となって目の前に現れている。
モノレールに揺られて万博記念公園駅に降り立つと、窓の向こうに突如あらわれる巨大なオブジェ太陽の塔。
ニョキッと顔を出すその姿に、時空を超えて1970年の熱気がよみがえる。
かつての万博会場跡は、大型複合施設「EXPOCITY」や、太陽の塔・日本庭園・自然文化園を抱える「万博記念公園」として生まれ変わった。事前予約をすれば、あの太陽の塔の内部にも入場可能。
さらに園内には、1974年に創設され、1977年に開館した「国立民族学博物館」がある。黒川紀章による建築で、約34万点のコレクションを所蔵。世界各地の衣食住、宗教、言語、芸術、音楽などを網羅し、当時の万博展示品も含まれている。
展示はオセアニア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、西アジア、南アジア、東南アジア、中央・北アジア、東アジアに大きく区分され、音楽や言語のコーナーも充実。まるで世界を一周するように、多様な文化を体験できる。
万博記念公園駅の2つ隣の駅、千里中央駅でも途中下車してみてほしい。駅から徒歩4分ほどのところに広がる千里ニュータウンは、日本初のニュータウンとして注目を集めた街だ。1962年から入居がはじまり、日本の高度経済成長期の熱気を大阪万博とともに体現してきた場所でもある。その後、少子高齢化や老朽化をいち早く経験し、再生の取り組みが進められてきた。
今では新しい世代も加わり、古き良き団地と新しい暮らしが共存する街へと変化している。
© Наканеков
大阪万博は、「展示を観る場」から「未来を見据え、ともに考える場」へと進化した。
半世紀前、1970年の万博が高度経済成長の象徴だったように、2025年の万博は、これからの社会をデザインする道しるべになるかもしれない。
1970年の熱狂は55年の時を超え、2025年の大阪で再び息づいている。
もし大阪を訪れるなら過去と未来、両方の万博をめぐる旅に出かけてみてほしい。
国立民族学博物館
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万博記念公園
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