日本×タイ料理の新世界!? 
現地に行かなくても楽しめるタイ料理7店

月刊TRANSIT/タイを暮らすように旅したい!

日本×タイ料理の新世界!?
現地に行かなくても楽しめるタイ料理7店

TRAVEL&EAT

2025.07.21

15 min read

日本人シェフによるタイ料理の進化が止まらないーーー。現地の料理に敬意を払いつつ、自身の料理人としての経験を加味したオリジナルなひと皿が各地で生まれつつある。そんな日本におけるタイ料理の新たな世界を提案する面々をピックアップしてくれるのは、カレーとスパイスの研究に余念がないタケナカリーさん。「タイを暮らすように旅したい!」というテーマを掲げつつ、この記事では、日本にいながらにしてタイ現地にトリップしてくれるお店を覗いていこう。

Photo & Text : Takenacurry

タイ料理を翻訳する——日本人シェフが再解釈

ガパオ、グリーンカレー、トムヤムクン、パッタイ……このあたりのメニューは、日本でも馴染み深くなった誰もが知るタイ料理といっていいだろう。だが、裏を返せば日本でタイ料理というと、これくらいしか知られていないのが現状でもある。
 
タイ料理は奥深い。長い歴史のなかで育まれた豊かな地方料理が存在し、それぞれに特徴がある。最近ではローカルの伝統的なタイ料理をモダン化する試みも散見されるようになり、タイ本国のレストランシーンは活気に満ちている。実際、ミシュランのビブグルマン掲載数はアジアでは日本に次いでタイが2位。世界中でその実力が認められているのだ。
 
そして今、そんな奥深いタイの味に魅了され、自らの感性で再解釈を加える日本人シェフたちが増えている。本記事では、日本人による「再解釈されたタイ料理」をテーマに、その魅力あるレストランをみていこう。

「再解釈されたタイ料理」といっても、その幅は広い。現地の味に限りなく近づけることを目指す店もあれば、日本独自の発想でタイ料理を再構築する店もある。その間に広がる多彩なグラデーションこそが、今の日本のタイ料理のおもしろさだ。
 
タイ料理のおいしさの真髄は「甘辛酸っぱい」だと個人的には思っている。甘味、辛味、酸味でこうも大胆かつバランスよく成立させる料理は他国に類を見ない。この味の下支えになっているのが発酵文化だ。魚醤のナンプラー、オキアミ(小エビ)の塩漬けであるカピ、トゥアナオという乾燥納豆などなど種類も豊富で、日本のように旨味の考え方が存在する。また、スパイスを軸にしたインド料理とは異なり、タイ料理ではパクチー、スイートバジル、レモングラスなどハーブがふんだんに使われる。後から味を変えることにも寛容で、日本の薬味文化とも通底するところがあるように思う。日本人がそれを咀嚼し、再構成する余地が広くあるのも頷けるのだ。そんな両者の食文化を再構築し、実際に体現している面々がこれから挙げる7店舗だ。

タイ×日本のタイ料理の新世界がみえる7店舗

BIANCHI mini me(ビアンチ ミニ ミー)@東京・乃木坂

タイ料理×日本食のイノベーティブ・タイ料理として名高い〈美会(ビア)〉の姉妹店である〈BIANCHI〉。そのランチ営業形態が〈BIANCHI mini me〉だ。グリーンカレー、ガパオライス、パッタイとわかりやすいメニューが並ぶが、想像の斜め上の一皿がテーブルに運ばれてくる。グリーンカレーは骨付き手羽元に豊かなハーブの香りがしっかり。大ぶりの手羽元は弾力を残しつつも、スプーンで崩れるほど柔らかい。特殊な調理工程でないとこの仕上がりは無理。オプションで付けてほしいのはパクチーサラダ。まず量に驚かされるが、食べるとその素材のよさに唸る。次世代タイ料理を知る貴重な場所。

タイ風のオムレツもつく迫力のグリーンカレー。

営業時間|11:30 – 14:00(L.O.13:30〜)
定休日|日
住所|東京都港区六本木7‑17‑19 BPRスクエア 2F
Instagram|@bianchi_roppongi

orangutan(オレンガタン) @東京・中野

タイ東北料理を中心としたタイ料理店。店内はムーディーでスタイリッシュ。しかし、料理は驚くほど現地感が濃い。ガパオやグリーンカレーといったステレオタイプのメニューはなく、タイビールには現地よろしく氷が入る。筆者の好きなラープ(ハーブサラダ)が4種もあった。とくにイサーン地方のガイヤーン(鶏のグリル)は絶品。さらに、この現地感にぴったりのナチュラルワインをペアリングできる。それにしても店のデザインがいい。それもそのはず、幡ヶ谷フードカルチャーの中心となった〈パドラーズコーヒー〉の系列店〈LOU〉で営業していて、昼はカフェ、夜はタイ料理店に顔を変えるのだ。昼は〈orangutan〉のタイ料理はいただけないのでご注意を。

ナチュラルワインと合う香ばしいガイヤーン。

営業時間|18:00-23:00
定休日|火・水
住所|東京都中野区中野5-53-4
Instagram|@orangutan_nakano

ミャオミャオ @東京・幡ヶ谷

タイローカルと日本のトレンドが見事に交わったおいしい交差点。お酒の種類も豊富で楽しい。とくにタイ薬膳ハイボールはほかにはない味とユーモア。料理は現地系・アレンジ系とどちらもある。とくに感動したのは、ミアンねぎとろ。ねぎとろとタイハーブの和え物をえごまに巻いて食べる創作タイ料理。猛烈にうまい。グリーンカレーでも感じたが、カー(タイ生姜)やハーブの効かせ方が素晴らしい。店名は店主さんの名字である宮尾と、タイの猫の鳴き声オノマトペが「ミャオ」で、なんかシンクロしたからミャオミャオにしたらしい。こういうところも好き。

ミアンねぎとろ。挽き肉をハーブで巻くミアンプラートゥーの和風アレンジ。

営業時間|
ランチタイム 11:30-15:00(L.O.14:30)
ディナータイム 17:30-23:00(L.O.22:00)
定休日|水
住所|東京都渋谷区幡ヶ谷2-1-4 ACN渋谷幡ヶ谷ビル 2F
Instagram:@myaomyao_hatagaya

CHOMPOO(チョンプー)@東京・渋谷

日本の四季を感じる食材でタイ料理が楽しめるレストラン。海外・国内と経験豊富な森枝幹氏がプロデュースしており、同氏のタイ料理愛が爆発している。日本の旬食材とタイの郷土料理をベースに新しい創作性に挑戦。ハーブ、発酵食品の使い方に長けていて、大胆なようでルーツから逸脱しすぎないバランスが光る。今夏の必食は見た目も華やかなカオヤム。青い花のバタフライピーで染まったジャスミンライスに、たっぷりのハーブ、そして香ばしく火の入った鮎とほのかな甘味の枇杷。これらを混ぜていただく。目にも、身体にも、舌にもうれしい一皿。

たっぷりの野菜やハーブに、鮎のサクサク感。心躍るカオヤム。

営業時間|
ランチタイム 11:30-14:00(14:00 L.O.)
ティータイム 14:00-16:00(15:30 L.O.)
ディナータイム 18:00-22:30(21:30 L.O.)
定休日|無休
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 4F
Instagram|@chompoo_shibuya

鮨 すがひさ@東京・虎ノ門

味わえるのは「変タイ鮨」というタイ料理×鮨の世界。大将の菅正博氏は名のあるタイ料理店での経験をへてから、鮨の修行を積んだ異色のキャリアをもつ。考え方としてはネタの調理を事前に行う江戸前寿司とタイ料理の融合である。タイ南部風レモングラス鯛にぎり、マッサマン鰤(ぶり)にぎり、椎茸ゲーンパーにぎり、などなど文字面だけ見ると完全な異世界。しかし、一口食べればタイハーブ、スパイスとの相性に驚愕すること間違いなし。寿司をゆっくりと噛み締めながら、タイと和食に通じるアジアのおいしさに破顔しよう。個人的には、そろそろこの店の存在を世界が気づいてしまうだろうな、と思っている。

レモングラスをまとわせた鯛を、ターメリックシャリで握る。

営業時間|
火 11:00-14:00、20:15-22:00
水・木・金 11:00-14:00、18:00-19:45、20:15-22:00
土・日・祝日 12:00-14:00、17:00-18:45、19:15-21:00
定休日|月
住所|東京都港区虎ノ門2-7 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 4F *〈鮨 おにかい×2〉の左奥の青い扉が入口
Instagram:@sushi_sugahisa

百福@大阪・九条

タイ料理とネパール料理を中心としたアジア多国籍料理店。カレー界隈ではアレンジ系が目立つ大阪において現地系として名高い。現地の味ありきで、日本の食材を使う。店主のしんちゃんは、旅を通してアジアの味に魅了され、料理人になることを決意。現地ではここだと思ったレストランに頼み込んで働き、その技術を学んできた。理念は一貫して「現地のまだ知られていないオモロくて、うまいもんを伝えたい」であり、オープン時からブレていない。毎月3週目は麺屋百福としてタイ北部チェンマイ名物のカレーラーメン「カオソーイ」を提供。カレー専門店ではないのにカレーグランプリ総ナメの実力店。

奥深い但馬牛すじを使ったカオソーイ・ヌア。ミニカオマンガイも必食。

営業時間|12:00-15:00/18:00-21:30(L.0.は営業終了時間の30分前)
定休日|月・火
住所|大阪府大阪市西区九条1-3-12
Instagram:@asian_kitchen_cafe_momofuku

海月が雲になる日@石川・金沢

扉から別世界。古民家を改装した店内は、幻想的な美意識に溢れていて着席するまでが既に楽しい。提供されるのはオリジナリティのあるタイ料理コース。採れたてのハーブ、囲炉裏の直火をつかった調理など臨場感に胸が高鳴る。この日はトムカーヌー(ココナッツ、タイ生姜、つるむらさき、豚のスープ)、唐辛子とハーブと蛤出汁のレッドカレーがとくに光っていた。土地とタイの邂逅を感じる。ポーションも丁度いい。デザートは二階に移動し庭園を眺めながら氷菓子を。徹頭徹尾、体験として価値が高いのだ。震災の支援も兼ね、足を運ぶことを推奨。現在はランチコースのみで、要予約。

身体に沁みるトムカーヌー。ココナッツの使い方がお見事。

営業時間|完全予約制・正午一斉スタート
定休日|日・月
住所|石川県金沢市長町2-6-5
Instagram|@kuragegakumoninaruhi

ここで挙げた日本のタイ料理店に共通していえることは、もっとタイ料理のことを知ってもらいたいという強い気持ちだった。日本人が知っているタイ料理はごく一部で、実際は伝統と地域性をもった数多のタイ料理が存在する。その複雑さ、豊かさが世界に伝播されていくというのはタイの人びとにとっても喜ばしいことではないだろうか。また、そこから生まれる亜種にも注目したい。鮨の世界ではアボカドロールがアメリカで生まれた。賛否はあるだろうが需要があるのであればそれは評価に値すると思う。伝統と変化、どちらの要素もあることが文化の礎を築いていく。タイ人も日本人もお互いが認め合えるような「新しいタイ料理」が日本で生まれることを今後も期待したい。

Profile

竹中 直己 (タケナカリー)

株式会社食欲代表・作家。カレーやスパイスに関わる執筆、商品開発、広告企画、コンテンツ制作などを手がける。 メディア出演多数。Podcast「カレー三兄弟のもぐもぐ自由研究」 配信中。著書にSFカレー小説「少し不思議なカレーの物語」がある。好きな概念はカレー。

 

竹中 直己 (タケナカリー)

株式会社食欲代表・作家。カレーやスパイスに関わる執筆、商品開発、広告企画、コンテンツ制作などを手がける。 メディア出演多数。Podcast「カレー三兄弟のもぐもぐ自由研究」 配信中。著書にSFカレー小説「少し不思議なカレーの物語」がある。好きな概念はカレー。

 

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