月刊TRANSIT/タイを暮らすように旅したい!
TRAVEL&EAT
2025.07.22
10 min read
東南アジア切っての大都市バンコクは、アジアの最先端&独自のカルチャーが集積して生まれている場所だ。バンコクの旧市街ナンルーン地区(Nang Loeng)で写真集とアートブックの専門店〈VACILANDO Bookshop〉を営むWithit Chanthamaritさんに、お店のご近所スポット含め、ローカル視点のバンコクでしたい10のことを訊いた!
Text:Withit Chanthamarit
タイの首都バンコクは、国際的にも注目される政治・経済・教育・文化の中心地でありながら、厳かな仏教文化や人々の暮らしを肌で感じることができる都市です。高層ビル群や巨大ショッピングモールといった大都会の賑わいを象徴する景観のすぐそばで、屋台や市場での食事や買い物、小さな祠に手を合わせる人々の姿など、日常の暮らしの様相を見ることができます。
バンコクの魅力は、グローバルに発展を遂げるモダンな一面だけでなく、美しい装飾が施された仏教寺院や王宮、そしてその足元で営まれる人々の生活を間近に感じられる点にあるのではないでしょうか。
バンコクでしたい10のこと
〈VACILANDO Bookshop〉は2017年から私がはじめた書店です。最初は実店舗がなく、タイの多くのお店と同じように、主にInstagramなどのオンラインでの販売からスタートしました。
取り扱っているのはフォトブックで、そのほかにアートブック、グラフィックデザイン、映画関連の本、植物や自然に関する本などもあります。実は、東京への旅で訪れた多くの日本の書店から大きなインスピレーションを受けました。セレクトショップと呼ばれるようなお店は、特定のテーマに絞って本を扱うことが多いですよね。東京の神保町のような書店街はバンコクにはなく、本の街もありません。だから私はパートナーと一緒に自分たちのペースでVACILANDO Bookshopをつくってきました。幸いにも、よい日本の友人や出版社の方々に長年にわたり助けてもらっています。
VACILANDO Bookshopを営むWithit Chanthamaritさん
© Withit Chanthamarit
ちなみに、お店の名前「Vacilando(バシランド)」はスペイン語の言葉で、友人たちと一緒に車であちこち旅していた時期に読んでいたジョン・スタインベックの旅行記『チャーリーとの旅』を読んでいたときに見つけました。スタインベックは「Vacilando」をこう説明しています。
「Vacilandoな状態とは、目的地に向かってはいるが、そこに辿り着くかどうかにはあまりこだわっていない。ただし方向はもっている……」と。
お店はバンコクの旧市街エリアのナンルーン地区(Nang Loeng)にあります。中心地の少し北、チャオプラヤ川の左岸にあり、地下鉄駅やバスの停留所から遠くて少し訪れにくい場所かもしれません。ただ周辺にはたくさんの魅力的なスポットが点在しているので、1日かけて寺院や市場、カフェ、ボクシングリングなどを巡りながら、バンコクの内側にある古い街の雰囲気を体験するプランを立てるのもおすすめです。このナンルーン地区はほかのバンコクの場所では味わえない独特の空気があります。「バンコクでしたい10のこと」は、このナンルーンのご近所スポットも挙げていきますね。
VACILANDO Bookshop
営業時間
定休日
私は書店を経営しているので、休憩がてら立ち寄ったり、本の品ぞろえを見たり、本を買ったり、オーナーさんと話したりできる別の本屋さんをよく探しています。
私がとくに好きなのは〈Passport Bookshop〉という、20年以上つづくインディーズの個人経営書店です。これまでお店は3回移転していますが、いずれも古い街並みが残るエリアにお店が置かれていて、混雑や慌ただしさの少ないバンコクを見つけることができます。現在はサムランラット通りの路地にあり、近い将来には地下鉄の駅ができる予定で注目が集まっていますが、いまは街の雰囲気が落ち着いていて散策にもよいですよ。
Passport Bookshopでは、英語の本とタイ語の本を販売していて、多くは世界中の大手出版社や地元の出版社から仕入れています。2人のオーナーが運営しており、小さなドリンクコーナーもあって、本を読みながら飲み物を楽しめるのもいいんですよね。
Passport Bookshop
営業時間
定休日
VACILANDOから歩いてすぐのところにあるとてもローカルなレストラン 〈Hua Hin Photchana〉は、私がランチやディナーによく行くお気に入りのお店です。庶民的な空気があって、この地域では70年以上も愛されている有名店なんです!
このお店のタイ料理はどれも大好きですが、とくにトムヤムクン、トムカーガイ、トートマンプラー(揚げ魚のすり身揚げ)、カキのオムレツ、ゴーヤと卵の炒め物、パットガパオ、カオマンガイ(海南鶏飯)、シーフードのスパイシーサラダなど、何を食べても絶品です。
外国から友人が遊びに来たときは、必ずここに連れて行って本格的なタイ料理を楽しんでもらっています。みんな大満足してくれますし、食後にはココナッツアイスクリームや新鮮なポメロで締めくくるのが定番です!
Hua Hin Photchana
バンコクには本当にたくさんのコーヒーショップがあって1つをピックアップするのはとても難しいのですが……私がとくにおすすめしたいのは、個人経営の小さなお店〈uRARA PROJECT〉です。サムヤンエリアにあって、MRTサムヤン駅からもそれほど遠くありません。
uRARA PROJECTは週に3日間(木〜土曜日)のみ営業していて、私はよく木曜日に行きます。午後の時間帯に、小さな路地を歩いてお店へ向かいます。お店が閉まるまでの2時間ほどをゆっくり過ごし、その後はバンコクの夕方ラッシュ前に家へ戻ります。
ほかのカフェでもひとりでのんびり過ごすのが好きですが、人とのつながりや会話はやはり魅力的ですね。uRARA PROJECTのオーナーさんとは自分とバックグラウンドが共通していて、uRARAのオーナーは以前はタイ映画業界で働いていて、私は写真をやっていたこともあって、お互いにカルチャー好き。夕方の静かな時間にいろいろと話が盛り上がることもあります。ただ、もし彼女が忙しそうなら、無理に話しかけずそっとしておきます。
uRARA PROJECTは、コーヒーだけでなく「塩パン」や日替わり焼き菓子もとてもおいしいんです。店内の一角には小さなギフトコーナーもあって、ちょっとした雑貨も楽しめます。
uRARA PROJECT
多くの外国人観光客は、最近メディアやドラマで取り上げられているバンタットトン通り(Ban Thad Thong Street)が、今もっとも話題の屋台ストリートだと思うかもしれません。そこもよいですが、私たちVACILANDOのスタッフが親しんでいるのは、昔ながらのローカルな屋台が今も営業している旧市街エリアの屋台です。
夕食には、マハチャイ通り(Maha Chai Road)がおすすめです。ここには伝説的な〈ティップサマイ・パッタイ〉や、ミシュランの星を獲得した〈Raan Jay Fai〉があります。
そこから少し歩くと、サムランラットの路地に入ることができます。ここでは、オレンジ色の看板が目印の〈Jia Uan Duck Porridge〉がおすすめ。ご飯と一緒に、スープや野菜、肉や魚の揚げ物などを組み合わせて食べる、タイ人の典型的なスタイルが楽しめます。
Jia Uan Duck Porridge
© Withit Chanthamarit
路地の突き当たりには、バンコク市庁舎広場があり、〈Calories Cottage〉という手づくりアイスクリーム店があります。ここでは、マンゴー、マンゴスチン、マヨンチット(マリアンプラム)、など、季節のタイフルーツを使ったフレーバーが楽しめます。市庁舎広場のすぐ隣には、ディンソー通り(Dinso Road)があり、〈Mit Ko Yuan〉など、多くの屋台料理が並んでいます。
市庁舎の隣のブロックにあるタナオ通り(Tanao Road)には、有名な〈K. Panich〉のカオニャオ・マムアン(マンゴーともち米)のお店があります。そのほかにも、〈Sister Ni’s Glazed Taro〉というデザートや、〈Khrua Som Hom〉という地元の人にも知られていない隠れた名店も。このお店は予約が必要ですが、運がよければ予約なしでも入れるかもしれません。
Khrua Som Hom
© Withit Chanthamarit
でも、ランチならすぐにお店を見つけることができるでしょう。VACILANDOを訪れる前に、〈ナンルーン市場エリア〉に行くのがおすすめです。ちなみにナンルーン市場はバンコクのなかでももっとも古い市場のひとつで、1900年に開業したといわれています。
たとえば、〈洽記 Jib Kee〉、〈Thai Style Tom Yum Noodles (Paa Tang, Auntie Tang)〉、〈カオラオ・サモーンムー・ナーンルーン〉、〈スタティップ カノムジーンハイラム〉、〈ゲーンカリームー・サトゥリンムー ナンルーン〉など、おいしいお店がたくさんあります。
午後2時までには到着するようにしてください。市場の人たちは朝早くからお店を開けていて、午後になるとすぐに閉めてしまうから。朝のナンルーン旧市街の雰囲気も、ぜひお見逃しなく。
若い頃に通っていたお気に入りのバーが今でもいくつかあります。
以前は本当に「隠れ家」と呼べるような存在でしたが、SNSの時代になってからは、だんだんと知られるようになってきました。
なかでもとくにおすすめしたい〈Method To My Madness(通称:mmm)〉というバーは、ラップラオ(Lad Phrao)エリアにあり、MRTパホンヨーティン駅から徒歩すぐ。チャトチャック・ウィークエンドマーケットからも近い位置にあります。
このバーは、私と同じ1980年代生まれのオーナーが10年ほど前にオープンしました。店内では、私の世代の心に響く1990年代、2000年代のプレイリストやDJの音楽が流れていて、今でも訪れるたびに懐かしい思い出がよみがえってきます。
Method To My Madness
モーラムはラオスやタイ東北部イサーン地方に伝わる民謡のようなもので、音に合わせて踊れるノリのいい音楽なので、タイに来たら味わってほしいもののひとつです。私は熱心なモーラム・ファンというわけではないのですが、音楽体験の場としておすすめしたいライブハウスがあって、ここを訪れるたびにいつも特別な刺激を受けています。
〈SYNAP [home/lab](シナップ・ホームラボ)〉は、バンコクにある音楽好きのための小さなコミュニティスペースで、コーディング、電子音楽、実験音楽など、これまで自分の世界にはなかったジャンルが、リビングルームのような空間や音響ラボでライブパフォーマンスとして行われています。
SYNAPは、私たちのVACILANDOからすぐの場所にあり、ちょうどVACILANDOが引っ越してきた頃に、この場所に移転してきました。ここでは、同じ感性をもったバンコクのローカルや外国人たちも多く集まり、人と人とをつなぐ「橋」のような存在です。この建物には、以前この地域に住んでいたご年配の方々が、民謡音楽を演奏していた歴史もあります。実際、この家で演奏されていたそうです!さらに、地方から来たモーラム歌手とケーン(タイの伝統楽器)奏者によるパフォーマンスも行われ、映像を使った演出も加わるなど、ユニークなライブがたくさん。
若いピアニストがゲームシミュレーターを取り入れた実験的なパフォーマンスを披露したこともありますし、ほかにもここでしか味わえない音楽体験が盛りだくさんです。イベントは比較的頻繁に開催されていますが、詳細はInstagramで事前に確認してみてください。イベントによっては予約チケットが必要な場合もあるのでご注意ください。
SYNAP [home/lab]
営業時間
定休日
私たちVACILANDOのスタッフがよく訪れるのは、Chatuchak(チャトゥチャック) Weekend Marketの向かいにある〈Red Building Vintage Chatuchak〉です。
この施設には、ヴィンテージの古着や雑貨を扱うショップが多数入っており、エアコン完備の大型モールなので、暑いバンコクでも快適にショッピングが楽しめます。店内にはクールでコレクター心をくすぐるアイテムがたくさん並んでいて、見ているだけでも楽しい空間です。また、モールの前のヤード(屋外スペース)では、アンティーク家具や装飾品などの掘り出し物も見つかりますよ。
MRT(地下鉄)でのアクセスもとても便利で、チャトゥチャック方面を訪れる際にはぜひ立ち寄っていただきたい、おすすめのスポットです。
Red Building Vintage Chatuchak
営業時間
定休日
私はいつも、〈Bangkok Citycity Gallery〉が開催する展示を楽しみにしています。ここはプライベートギャラリーですが、新進気鋭のタイ人アーティストを積極的にサポートし、タイの現代美術シーンに深く貢献しています。
また、Bangkok Artbook Fairの共催も行うなど、アートコミュニティにおいて重要な役割を果たしているギャラリーです。
© TRANSIT
Bangkok Citycity Gallery
それに加えて、私は映画好きなので、〈タイ国立フィルムアーカイブ(Thai Film Archive)〉もおすすめしたいです。ただこちらはバンコクの外、ナコーンパトム県にあります。バンコクから車で約45分の距離です。
タイ国立フィルムアーカイブは1984年に設立され、当初は文化庁の管轄下にある国立フィルムアーカイブとして運営されていましたが、その後に再編されて、現在は文化省の監督のもと公益法人として活動しています。
© Withit Chanthamarit
Thai Film Archive
営業時間
定休日
私はとくに宗教に熱心なタイプではないのですが、仏教に関係した場所で心をリセットしたいときには、よくここを訪れます。
それが〈スアンモック・バンコク(Suan Mokkh Bangkok)〉という場所で、チャトゥチャック公園の裏にあるワチラベンチャタット公園(国鉄公園)の中にあります。
BTSモーチット駅からは直接行けなくて、公園をぐるっと歩いていく必要があります。ここは、タイの有名な僧侶、プッタダーサー・ビックという人の教えや資料を保存している場所です。彼は伝統的な仏教の考えを新しいかたちで伝えた人で、タイ国内だけでなく海外でも影響を与えました。禅の考え方からも影響を受けているといわれています。ちなみに、彼の故郷サトゥーンにも同じ名前のスアンモックがあります。
バンコクのスアンモックには図書館や講堂があって、ときどき仏教にまつわる映画の上映会や上映後のトークイベントもやっています。また、瞑想ができる場所もあって、ひとりで静かに、あるいはみんなと一緒に座ったりできます。建物は湖の上に建っていて、周りは緑がいっぱいでとても落ち着きます。
「お寺みたいに堅苦しい感じはちょっと……」という方でも、静かにリラックスできる場所を探しているなら、ここは本当におすすめです。小さなカフェもあるので、コーヒーを飲みながらのんびり過ごすのもいいですよ。
Suan Mokkh Bangkok
住所
営業時間
定休日
それと、私は夕日を眺めるのが大好きなのですが、バンコクでは高層ビルからでないと景色が楽しめないことが多く、自然を満喫できる場所はあまり多くありません。
最近、私が見つけたのがチャオプラヤー川のそばにある公共図書館の〈バンク・オブ・タイランド・ラーニングセンター〉です。ここには広々とした回廊があり、川風が心地よく吹き抜ける中で夕日を見る時間は、まさにかけがえのないひとときです。なんと、入場は無料!しかも駐車場も完備されていて、まだあまり知られていない隠れた名スポットだと思います。
お気に入りの一冊を持っていって、静かに読書を楽しむのにもぴったりの空間ですし、一日中いても飽きません。きっと質のよい時間を過ごすことができますよ。
© Withit Chanthamarit
バンク・オブ・タイランド・ラーニングセンター