厳しい自然を受け入れ、冬は限られた陽のもとで生活するスウェーデン。高緯度の土地特有の光への思いは、建築やデザインにも刻み込まれている。エリック・グンナール・アスプルンド、シーグルド・レヴェレンツをはじめ、スウェーデンの巨匠建築家の作品を軸に、北の光を体感できる空間やデザインをみていく。
Text:Yuka Uchida Supervision:Takashi Koizumi
スウェーデンの近代建築を確立させた巨匠。
エリック・グンナール・アスプルンドは北欧モダニズムの確立における中心的な建築家。1930年のストックホルム博覧会で会場設計を担い、当時ヨーロッパを席巻していた機能主義を北欧に広めた。
だが、その作風はモダニズムともいい切れない。建築様式が次々と移り変わる時代に生きたことも影響しているだろう。様式より確かなのは、北欧らしい価値観が根底にあること。自然の厳しさを受け入れ、人びとが手を取り合って生きる大切さや、光の扱いでいえば、明るい夏と暗い冬を考慮し、とくに冬の乏しい太陽光を的確に取り入れること。その光によって、暮らしや人の心を温かく包むこと。アスプルンドの仕事にはこうした意識が見てとれる。
闇から光へのドラマチックな転換も魅力で、たとえば「ストックホルム市立図書館」では調光を抑えたエントランスの先に明るい中央閲覧室が、「森の礼拝堂」では深い庇の奥に自然光が満ちる白いドーム天井が現れる。アスプルンドの生涯は55年とやや短いが、集大成である「森の墓地」では長年、生と死に向き合いつづけた。アルヴァ・アアルトなど、後につづく北欧諸国の建築家にも影響を与えた大きな存在だ。
Place:Stockholm Since:1915-1940
ストックホルム南部に位置する広大な公営墓地。学生時代からの友人であったアスプルンドとレヴェレンツが共同でコンペティションに応募し、一等を受賞。アスプルンドは、天窓から自然光が降り注ぐ「森の礼拝堂」(写真左)を、レヴェレンツは南向きの窓からドラマチックな斜光が射す「復活礼拝堂」を仕上げた。1935年以降はアスプルンドが単独で計画を進め、坂道の先に大きな十字架を立てた印象的なアプローチや中心施設となる「森の火葬場」を完成させた。1994年、ユネスコ世界遺産に登録。
© TAKASHI KOIZUMI
© TAKASHI KOIZUMI
Place:Stockholm Since:1928
黒漆喰の壁に挟まれたエントランスを抜け、階段を登ると、光溢れる中央閲覧室に導かれる。書棚上部は凹凸のある白壁で、ペンダントライトの光や高窓からの自然光を拡散し、大空間を柔らかな反射光で包む。館内の照明計画や照明器具もアスプルンドが自ら手がけている。
© Fredrik Rubensson
Place:Göteborg Since:1937
1672年築の裁判所の増築計画。中庭を囲む3階建てで、中央に吹き抜けの大ホールがある。中庭に面した壁はガラス張り。天井には空間を横断するように大きな天窓を配し、トップとサイドからたっぷりと外光を取り入れた。裁判所を訪れる人の心情を慮った、明るく軽やかな空間。
© Blondinrikard Fröberg
緻密で静謐な空間を生む、もうひとりの巨人。
スウェーデン建築界においてアスプルンドと同じく重要な人物なのが、静謐な空間美で知られるシーグルド・レヴェレンツだ。アスプルンドとは同い年。共同で設計した「森の墓地」は、発注者側の要望で途中からアスプルンドの単独計画となり、2人は袂を分かつこととなるが、以降もレヴェレンツは独自の美学に基づいた厳格な建築を生み出していった。
レヴェレンツの真骨頂は宗教建築にあるといっていいだろう。レンガやコンクリート、木や鉄といった素材を巧みに使い分け、どの建築においても、開口部からの光がそれぞれの質感を美しく浮かび上がらせている。暗闇に一筋の光を導くような演出も多く、目が慣れるまで何も見えないといった空間もある。照明から取っ手まで自ら設計し、金物製造のファクトリー「イデスタ」を経営するほど、細部にもこだわりがあった。
晩年まで仕事に熱中したレヴェレンツだが、彼は自作を語ることを極端に嫌う人物だった。生前には一冊の研究書も出版されず、その思想は今も謎に包まれている。彼の建築理念は、緻密に考え抜かれた空間そのものに宿っており、作品に身を置くことが唯一の理解となる。
Place:Stockholm Suburbs Since:1960
白樺の森に溶け込むように建つ教会。積み上げられた茶色の焼き煉瓦に白い太めの目地が入り、素朴な印象を与える。礼拝堂の天井は波打つようなユニークな形状。船底からインスピレーションを広げたとも伝わる。薄暗い空間にシリンダー状の吊り照明が浮遊する幻想的な空間。
© Anders Bobert
Place:Klippan Since:1966
質素な黒い煉瓦を床や壁、天井やテーブルにまで多用した禁欲的な空間。そこに決して大きくない窓から限られた光が射し、煉瓦の粗々しい質感を強調する。足を踏み入れてすぐは暗さに慄くが、やがて目が慣れ、深い闇と計算された調光が心地よさに変わる。レヴェレンツ最高傑作の声も。
© seier+seier
Place:Klippan Since:1966
端正に積まれた横長の煉瓦と艶やかな人造石の床が特徴。高窓から射す光が床に反射し、空間に輝きを生んでいる。一帯はマルメ東部墓地と呼ばれ、1919年にコンペを勝ち取ってから、53年の歳月をかけて竣工した。ほかに2つの小礼拝堂と最晩年に手がけたフラワーショップもある。
© TAKASHI KOIZUMI
ほかにも訪れたい、北の光を感じる建築
スウェーデンの光のデザインを体感できる建築はまだ数多くある。手がけた建築家も錚々たる顔ぶれだ。
Place:Göteborg Since:1958
あえて小さく設計した入口や窓に格子戸を設置。ここを通過した外光が床や壁に美しい影を落とす。夕刻に光が祭壇まで到達することも。セルシングはディティールを考え抜いた硬派な名建築を多く残した。
© TAKASHI KOIZUMI
Place:Stockholm Suburbs Since:1999
ストックホルムのリディンゲー島にあるミレスガーデン内の現代アートギャラリー。少し傾きのある筒状の天窓が、明るくクリーンな空間を生む。父はペーター・セルシングで、ヨハンも光の扱いに長けている。
© pineapplebun
Place:Stockholm Since:1923
大広間「青の間」はノーベル賞の晩餐会会場。天井高が22メートルあり、高窓からの自然光が煉瓦壁に光のグラデーションを描く。アスプルンドらが学生時代に私塾にて指導を受けた巨匠エストベリの作。
© Jorge Láscar
Place:Gävle Since:1960
木目を写したコンクリート壁と松の羽目板を張った天井。その間のスリット状の窓は外光を導くほか、森の風景を室内に取り入れる役目もある。建築事務所・ELLTはこの建築で名を知られ、70年代まで活躍。
© Andy Liffner
Place:Stockholm Suburbs Since:1960
祭壇のトップライトと、左右の壁のステンドグラスを透過した鮮やかな光が印象的。ボルグストロムとリンドロースは戦後に活躍した建築ユニット。ストックホルムにそびえるテレビ塔「カクネス塔」も彼らの作。
© Anders Bobert